バッティング:外国人と日本人の差はどこにあるのか? を考える

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目次

バッティング:外国人と日本人の差はどこにあるのか? を考える

 日本の野球選手と海外の野球選手の違いを、①体型や骨格の違い(フィジカル) ②バッティング様式の違い(動作) の2つの視点から分析してみる

前提:日本人打者と外国人打者の違い

野球中継を見ていて、

「なんで外国人打者と日本人打者の打ち方ってあんなに違うんだろう?」

って思ったこと、ありませんか?

 

たとえば、元西武ライオンズのカブレラ選手のようなスイングをする日本人打者を、私は一人も知りません。

または、バリー・ボンズ選手やデビッド・オルティズ選手、ジャンカルロ・スタントン選手といったMLBの強打者と見紛うようなスイングをしている日本人選手は、一人でも思い浮かぶでしょうか?

 

「豪快なスイング」「外国人並みの飛距離」を売り物にしている日本人打者なら存在しますが、私の経験からして、

「パッと見で外国人打者と見分けがつかないようなバッティングをする日本人打者」は存在しません。

少なくとも、私は一度も見たことがありません。

 

一般的な見方としても、

「外国人は外国人っぽい打ち方をする」

「日本人は日本人らしい打ち方をする」

「日本人がメジャーリーガーのような打ち方をしようとしても、どこか日本人っぽさが抜けない」

というのが、ある意味当然のことであると思われている節があります。

 

……それでは、

そもそも、なぜ「外国人→いかにも外国人だという打ち方をする、日本人→いかにも日本人だという打ち方をする」のでしょうか?

 

外国人は上半身や背筋の力が強く、その筋力に頼っているから? メジャーリーガーは何も考えず大ざっぱに、ブンブン豪快に振り回しているから? 日本の打者のほうが下半身をよく使っているから?

いずれも一般的に言われていることですが、私はそのどれにも賛同しません。

理由はこの記事のなかで詳しく述べるつもりです。

 

 

……もちろん、外国人も日本人もどちらも「地球上で活動している生物」なのですから、「物理の法則」と「身体が運動するときの法則」に従ってバッティングを行います。

これは普遍的事実として動かしがたいものです。どれほど強打者であっても物理法則を捻じ曲げて打っている人はいません(アストロ球団や巨人の星ではしばしば宇宙の摂理が無視されますが…)し、どんな打者であっても骨と筋肉と神経系統と感覚器と脳を持っています。

ですから、筋骨隆々の大男であるメジャーリーガーから、野球を始めたばかりの日本のちびっこまで、誰しもが共通の「物理の法則」「運動の法則」に従わざるをえません。

 

……ということは、そこでは差が付かないはずです。

ではいったい、どんな原因によって日本人と外国人のバッティングの違いが生じているのか?

 

私は、「外国人と日本人のバッティングの違い」は

①外国人打者と日本人打者との、「身体的な」差(=フィジカル)

②外国人打者と日本人打者との、「打撃様式の」差(=動作)

この2点から生じている

と考えています。

実は、「身体的な差」「打撃様式の差」の2つでほとんど説明が付いてしまうのです!

 

なお、「外国人と日本人のバッティングの違いはどこにあるのか」がわかれば、

・外国人がなぜ「外国人っぽい打ち方」をするのかがわかって楽しい

・日本人がなぜ「日本人っぽい打ち方」をするのかがわかって楽しい

・野球観戦がもっと楽しくなる

・メジャーリーガーのバッティングのどこを採り入れるべきかがわかる

・メジャーリーガーのバッティングのどこを採り入れるべきではないかがわかる

といったご利益? があると思われます。

要は、現役の選手の人にも指導者の方にも、あるいはいち野球ファンの方にも何かしらの寄与ができるように書いたつもりです。

 

では、本編へ参りましょう。

 

外国人と日本人のバッティングの違い:「肉体の差」編

まずは、外国人と日本人との「肉体の差」から考えます。

一口に「肉体の差」といっても、平均身長や速筋繊維の割合などさまざまな要因が挙げられますが、

この記事では特に

「骨盤前傾か、骨盤後傾か」(あるいはその中間か)

という点に注目します。

 

というのも、色々考えてみると、

外国人と日本人とのバッティングの違いをもたらしている最大の要因は、

「骨盤の付き方」

にあるのではないか? と思われるからです。

「骨盤の付き方の相違」が原因となって、さまざまな結果(違い)を生んでいる……というのは、あくまでもひとつの仮説に過ぎませんが、かなり応用の利く考え方です。これだけですべてを説明しきれるわけではありませんが、推論のための材料としてはかなり良質なものです。

では、具体的に「骨盤前傾・後傾とは何ぞや?」というところから説明していきます。

 

骨盤前傾か骨盤後傾か?→外国人は骨盤前傾、日本人は骨盤後傾の傾向が強い

「骨盤が前傾している」とは?

一応、骨盤前傾は次のように定義されるそうです。

矢状面上(人体を真横から見たとき)で、ASIS(上前腸骨棘)よりもPSIS(上後腸骨棘)の位置が2横指程度上にあれば、中間位(ニュートラル)であると言われます。ASISに対してPSISが2横指以上高い位置にあれば前傾位、1横指よりも低い位置にあれば後傾位となります。国際統合リハビリテーション協会より)

 

「よくわからないよ!!」という方のために、わかりやすい図を引っ張ってきました。

 

これは、一般的な「外国人=骨盤前傾、日本人=骨盤後傾」というイメージにも通じる画像です。

 

野球関係者の方、あるいは陸上関係者やトレーニングに詳しい方であれば、

「日本人は骨盤が後傾していて、外国人は前傾している」

といった言い回しを耳にしたことがあると思います。

 

外国人は骨盤が前傾していて、日本人は後傾している。骨盤前傾のほうがスポーツには有利。

だから、日本人は(特にパワー・スピード系の)スポーツで、それほど目立った活躍ができないのだ――と。

ただ、このような考え方は大筋としては正しいと思うのですが、もう少しだけ、正確を期した言い方に治せると思います。

 

「外国人=骨盤前傾、日本人=後傾!」とひとくくりにするのではなく、

「日本人を含むアジア系は骨盤が後傾するという傾向が強く、

黒人や中南米系はそれと逆に骨盤が前傾するという傾向が強い。

白人はその中間だと思われる」

といった方が実情を正確に反映しているように思えます。

 

あくまでも、「傾向の違い」というところを私は強調します。

というのは、「日本人であっても骨盤が前傾している人はいる」「黒人や白人でも、それほど前傾していない人はいる。たとえば、黒人や白人で長年デスクワークをやっている人よりも、長年陸上の短距離を走ってきた日本人選手の方が骨盤が前傾していることがある」という経験的事実を含めて考えたいからです。

要は、以下の図のようなことを私は言いたいのです。

これは私が勝手に作成したものですが、ずっと野球や各種スポーツを見てきた印象では、骨盤前傾の程度は「黒人・中南米系 > 白人 > アジア系=日本人・中国人韓国人・東南アジア系」という順序で並べることができると思います。

 

以下はすべて私の経験則に過ぎないのですが、

・「黒人アスリート並みに骨盤が前傾+肩甲帯が伸展しているアジア人アスリートは見たことがない」

・「白人アスリートで骨盤が寝ている人はあまり見ないが、かといて、黒人アスリート並みに骨盤が前傾している人はまず見ない」

・「白人は肩甲帯が進展している人が多い。一般的なダイエットのビフォーアフター写真を見ても、日本人の背中とは明らかに違っている」

・「アジア系アスリートは、骨盤後傾+肩甲帯屈曲状態にある選手の割合がかなり多い」

・「アジア系でもある程度骨盤が立っている選手はいる」

といった個人的経験則を統合すれば、論理的には↑の図のようにしか解釈しようがないのです。(もしかするとチェリーピッキング・確証バイアスや個人的願望などが入っているかもしれませんが、一般的に言われている説ともおおむね合致します)

(※「異人種間でのハーフはどうなるのか?」という問題もありますが、オコエ瑠偉選手やダルビッシュ有選手、その他メジャーリーガーには当たり前のように存在するハーフ選手の動作を見ている限り、「両者の中間、または両者の片方のどれか一つになるのではないか?」と予想しています。つまり、黒人と日本人のハーフであれば、黒人と日本人の平均になるか、または思いっ切り黒人寄りになるか、思いっ切り日本人寄りになるかの三択になる)

 

 

ところで、これも私の個人的な印象ですが、「外国人=骨盤前傾、だから速い・強い」「日本人=骨盤後傾、だから遅い・弱い」という図はあまりにも安直というか、大ざっぱすぎるような感じがします。

そのようなわかりやすい(大衆受けする)二分法をいったん離れて、この図のようなイメージでとらえてもらえると、「外国人=骨盤前傾=スゴい!」「日本人=骨盤後傾=ヘボい!」(場合によってはこの後に『だから骨盤前傾の骨格を手に入れるためにウチのサービスを受けてね!』という勧誘が付く)……という神話的な二分法から脱することができるのではないでしょうか。

(筆者作成。日本の高校球児たちのバッティングの構え。外国人打者と比べてみると、骨盤後傾+肩甲帯屈曲の傾向がよくわかる)

(筆者作成。メジャーリーガー・外国人打者の構えを適当に抜粋。骨盤前傾+肩甲帯伸展の傾向がよくわかる。日本人が↑のような構えだけ真似てみても振りづらいはず)

 

補足①:肩甲帯屈曲・肩甲帯伸展という表現について

大ざっぱなイメージとしては、

「屈曲=肩甲骨が前の方に出る、肩が落ちたような状態」

「伸展=肩甲骨ごと後ろに引かれている状態」

くらいにとらえておくとわかりやすいと思います。

 

なお、私は「肩甲帯の屈曲or伸展」という表現をあえて使っています。

これは「肩甲骨の外転or内転」とだいたい同義に思えるかもしれませんが、わざわざこのような表現をするのには、以下のような理由があります。

①屈曲・伸展という表現を用いる理由

…外転・内転が「前額面(=額をそのまま上下左右に延長した断面のこと)における肩甲骨のスライド運動」を指すのに対して、「屈曲・伸展」は、「肩甲胸郭関節の矢状面(人体を真横から見たときの断面)方向への動き」を考慮できる。要するに、外転内転はヨコ方向への動き、屈曲伸展は前後方向への動きを指す。

そして、外国人と日本人の間に一般的な傾向として存在する肩甲帯の形態差は「内転か外転か」というよりは、「屈曲か伸展か」で考えるほうが実情に即していると思われる

 

②肩甲帯という表現を用いる理由

…肩甲骨(=ただの骨)というより、肩甲帯(=肩甲骨そのものに加えて、肩甲骨に起始・停止を持つ筋肉まで含めた広い表現)と表現したほうが、表現として正確に思える。というのは、単なる骨の話をしているのではなく、肩甲骨周辺の筋肉の付き方といった比較的広い範囲まで含めて考えたいから。そのためあえて「肩甲帯」と表現する

という意味を込めて、「肩甲帯の屈曲・伸展」という表現を用いています。

……とはいえ、私は医療従事者でも理学療法士でもないので、もしかすると正確な表現方法ではないかもしれません。

あくまでも便宜的に、伝わりやすさを優先しているがための表現であることをご承知おきください。

 

補足②:日本人は姿勢が悪い??

もう一つ。

これは完全な個人的推測なのですが、

スポーツのパフォーマンス云々を離れて考えると、

人間の姿勢は、

「骨盤前傾と肩甲帯伸展」

または

「骨盤後傾と肩甲帯屈曲」

のどちらかの組み合わせが自然ではないだろうか

と私は考えています。

 

よく「日本人は姿勢が悪い!欧米人は姿勢が良い!もっと日本人は背筋を伸ばそう!」みたいな物言いを耳にしますが、

そもそも「骨盤を立てて胸を張った状態=姿勢が良い」というのは、私には単に「明治維新以降になって西欧から輸入された価値観」としか思えません。もしくは、本当の由来は「スタイル抜群の美女や筋骨隆々の逞しい肉体を誇る大男が出演するハリウッド映画やテレビ文化の賜物」かもしれません……が、

そもそも日本では昔から「日本人の大多数が骨盤後傾+肩甲帯屈曲状態だった(農耕メインの文化&椅子なし文化)」はずですから、今さら唐突に「骨盤後傾はダメだ! 肩甲帯屈曲はダメだ! みんな背筋伸ばして骨盤立てろ!」とする理由はないはずです。

 

人種ごとに骨格の相違や肉体の特徴の差異(アジア系で言えば骨盤後傾+肩甲帯屈曲)があるなら、その骨格や肉体的特徴にマッチしたアジア系独特の姿勢というのがあってもよいはずではないでしょうか。この推論が正しいとすれば、骨格に合わない姿勢をわざわざ採用する意味がよくわかりません。文化的な事情のためにやむなく西洋的なたたずまいを身に付ける必要がある、というのならまだわかりますが。

要するに、もともと「骨盤後傾+肩甲帯屈曲」傾向にある日本人が、「骨盤前傾+肩甲帯伸展」という特徴を持つ欧米人のような姿勢を意識的にとろうとすること自体に無理があるのではないか? と(今のところ)私は考えています。

 

つまり、日常生活レベルでは、骨盤が後傾していようが前傾していようがどうでもいい。

日本人の遺伝的な傾向からすると、大多数の人は「骨盤後傾+肩甲帯屈曲」で差し支えない。

……と思っています。

 

ただし……

ことスポーツに限って言えば、「スピードを競う」「秒数を縮める」「パワーを競う」「距離や高さを競う」という要素が大きいですから、後述するように「骨盤が前傾している」「手足が長い」(+筋量が多い・速筋の比率が多い)といった形態的特徴を有しているほうが、(絶対的な決め手にはならないにしろ)間違いなく有利に働くことは予想できます。

 

詳しくは後述しますが、「骨盤前傾+肩甲帯伸展」という西洋人的な体型のほうが、

人体で最も大きい出力が得られる「股関節伸展の力」が利用しやすかったり、足などの末端部位が細くなってムチのようにしならせる使い方をしやすくなったり、打撃時に重心位置のブレが少なくなったりする…という恩恵を受けることができます。

 

要するに「骨盤前傾+肩甲帯伸展」体型のほうが、野球や陸上を始めとしたスポーツの「記録」を追い求める上では間違いなく有利なのです。それだけですべてが決まるわけではもちろんないのですが、ひとつの追い風になることは疑いようがありません。

 

補足③:「骨盤前傾+肩甲帯屈曲」や「骨盤後傾+肩甲帯伸展」という組み合わせはどうなのか?

「骨盤前傾+肩甲帯屈曲」や「骨盤後傾+肩甲帯伸展」という組み合わせはどうなのか?というと、

おそらく、前者は腰に負担がかかりやすく、後者はそもそもあまり出現しないと思われます(後者についてはあまり実例を知りません)。

 

それぞれを軽く紹介すると……

・骨盤前傾+肩甲帯屈曲…腰に負担がかかりやすい。いわゆる反り腰。日本人にも比較的いる

美楽Cafeより引用)

 

また、

・骨盤後傾+肩甲帯伸展:そもそもほとんどいない。というのは、身体の重心バランスをうまく保持しようとするのであれば、骨盤後傾には肩甲帯屈曲を合わせるのが自然と考えられるため

 

……というわけで、私はこう考えています。

・骨盤前傾+肩甲帯伸展:○。特に、スポーツでパワー・スピードを追い求めるなら◎。白人・黒人・中南米系はこの傾向が強い

・骨盤後傾+肩甲帯屈曲:○。スポーツではそれほど有利ではないが、工夫はできる。アジア系(モンゴロイド)はこの傾向が強い

・骨盤前傾+肩甲帯屈曲:△。反り腰。日本人にもけっこういる。腰に負担がかかりやすい

・骨盤後傾+肩甲帯伸展:そもそもあまりいない。身体の重心バランスをとろうとすれば骨盤後傾(前傾)には肩甲帯屈曲(伸展)がマッチするはず

 

……前置きと補足が長くなりました。

 

次の項からは、ようやく本題の

「日本人と外国人とでは、バッティングで具体的にどんな違いが生じるのか?」

についての私なりの持論を披露していきます。

 

骨盤の傾き方が違うと、バッティングにどんな違いが出るのか?

打撃時の「骨盤+上体の回転の仕方」が異なる。外国人打者→斜めの回転、日本人打者→水平に近い回転という傾向がある

先ほど、外国人打者と日本人打者との間に存在する骨格(というよりは、その人にとって自然な姿勢)の違いを紹介しました。

話をわかりやすくするために乱暴にまとめてしまえば、こうなります。

★日本人打者と外国人打者との違い★

外国人打者:骨盤前傾(+肩甲帯伸展)の傾向が強い

→バッティングのときも「骨盤が前傾している状態が自然である」「肩甲帯が伸展している状態が自然である」となる。

日本人打者:骨盤後傾(+肩甲帯屈曲)の傾向が強い

→バッティングのときも「骨盤が後傾している状態が自然である」「肩甲帯が屈曲している状態が自然である」となる

↑特徴が極端に出ている打者同士を比べてみる。左の二枚が「骨盤前傾+肩甲帯伸展」、右の二枚が「骨盤後傾+肩甲帯屈曲」の打者

 

メジャーリーガーに憧れるのは良いこと。ただ、安易にメジャーリーガーを真似るべきではない

…ということは、「日本人打者が、外国人打者そっくりなスイングをすることは難しい」

そして逆に、「外国人打者が、日本人打者そっくりなスイングをすることも難しい」と言えそうです。

どのみち、「その打者にとって自然ではない姿勢」で打つのですから難しいに決まっています。

 

そもそも、骨盤前傾・後傾や肩甲帯の伸展・屈曲というのは

「身体全体の(重心)バランスをうまく釣り合わせるためにそうなっている」

「身体各部の筋肉にそれぞれ最適なポジションをとらせるためにそうなっている」

という側面が大きいと思われます(私見)。

たとえば、日本人で言う「反り腰」、つまり骨盤前傾+肩甲帯屈曲という姿勢が腰に負担をかけやすいのは「身体全体の(重心)バランスがうまく釣り合っていないから」でしょう。

 

ですから、たとえば「メジャーリーガーの打ち方をそっくりそのまま真似しよう!」と思い立った日本人打者がいたとしても、その取り組みは

「身体各部の筋肉が上手く出力できず、力みかえったようなスイングになる」

「身体のどこか特定の箇所=腰などに負担がかかる」

「エネルギーの伝達(運動連鎖による)がぎこちなくなり、飛距離やスイングスピードがガタ落ちする」

といった望ましくない結果を招く恐れがあります。

 

特に最近はメジャーリーグの映像が気軽に観られるようになって(これ自体は素晴らしいことだと思います)、

メジャーリーグの好打者・強打者たちの打撃フォームをそっくりそのまま真似している選手も増えているようです。

強打者のスイングを分析して参考にすること自体は良いのですが(大いにやってください)、

一度「アジア系の肉体を持つ自分が、黒人・白人・中南米系打者の打法をそっくりそのまま模倣することはそもそも妥当なのか?」というあたりを考えてみるほうが良いような気がします。

 


 

……確かに、日本人打者だろうが外国人打者だろうがどちらも「地球上に生息している生物」なので、

「物理の(自然科学の)法則」と「身体をうまく動かすための(生物学的)法則」は万国共通です。

しかし、そのなかで「アジア系=骨盤後傾・肩甲帯伸展」「白人・黒人・中南米系=骨盤前傾・肩甲帯屈曲」という群ごとの傾向があるわけです。さらにいえば、その「野球をするための身体そのもの」は、環境や遺伝や後天的トレーニング・疾患などに影響されるため個々人の完全オーダーメイドで、個体差がありありです。

 

その意味で私は、よく言われる「日本人には日本人に合った打ち方がある」はある程度正しいと思います。

しかし、より正確を期して表現するなら、

「その人にはその人に合った打ち方がある」

「<現時点における>その人にとってのベストな打ち方がある」

「一生の中で二度と同じスイングは繰り返されない」

のです。

要は、ほかの人や過去の自分のバッティングを「参考に」することはできるが、過去の自分やほかの人のバッティングを「完コピ」することはどだい不可能である、ということです。ましてや「常時、理想の打撃を実行すること」は原理的に不可能。

 

ですから結局は、現時点の自分ができる「最善の」スイングを追い求めていくだけになります。完全なスイングなんてできっこないのはわかっていても、なお完全を目指してバッティングを磨いていくことになります。

この不完全性を絶対に取り除くことができないからこそ、野球の技術追究は楽しいのだと思いますが、いかがでしょうか。もし望み通りに完全なバッティングができるとしたら、野球という競技はどれほど退屈なスポーツでしょうか?

「完全を望みながら、絶対に完全な状態には永遠に辿り着けない。それを知ってなお最善を追い続ける」というアトラス的な苦行? こそが、裏返せば、人間にとっての最高の娯楽なのかもしれません。人生でも、学問でも、野球でも。

 

★話が逸れたので本題に引き戻します★

では、「骨盤前傾+肩甲帯伸展」「骨盤後傾+肩甲帯屈曲」という傾向を持つ外国人打者・日本人打者は、実際にはどんなスイングをすることになるのでしょうか? 簡単にまとめてみます。

 

外国人打者→骨盤と上体が斜めの角度で回転する。構えはアップライト型とクラウチング型がある

外国人選手は、

「骨盤と上体が、ホームベース側に倒れるように、斜めに回転する」

という特徴を持ちます。もちろん、原因となっているのは骨盤の前傾と肩甲帯伸展です(理由はあとで説明します)。

 

そして、この「骨盤と上体が、ホームベース側に倒れるように、斜めに回転する」という特徴を持つ打者は2タイプに分けられます。

タイプ1は「最初から骨盤と上体を斜めに傾けておくタイプ=クラウチング型」で、タイプ2は「最初は骨盤と上体を垂直に近い角度で立てておいて、スイングするときからは骨盤と上体を斜めに傾けるタイプ=アップライト型」です。

 

タイプ1:構えの時点ですでに骨盤(+上半身)が斜めに傾いていて、斜めに傾けたままでスイングを開始する(クラウチングスタイルと呼びます)タイプ

・・・典型例はバリー・ボンズ選手やサミー・ソーサ選手など。日本人選手にはほとんど見られない(例外は大谷翔平選手くらい)

 

タイプ2:構えでは比較的骨盤(+上体)を立てておいて(:アップライト型。アップライトとは直立のこと)、並進運動~インパクトにかけて骨盤(+上体)が斜めに傾いていくタイプ

・・・例:クリス・デービス選手やコディ・ベリンジャー選手、フレディ・フリーマン選手やブライス・ハーパー選手など。

 

構えがアップライト・クラウチングのいずれであるにせよ、外国人選手の場合は「骨盤+上体をかなり斜めに傾けて回転&スイングする」という特徴が共通しています。

 

日本人打者→骨盤と上体が、かなり水平に近い角度で回転する。

では、日本人打者はどうでしょうか?

日本人打者は、全体として

「構えの時点からインパクト~フォロースルーまで、骨盤と上半身の回転はかなり水平に近い」

といえます。外国人打者の多くがホームベース側に倒れ込むような打ち方をしているのと好対照です。

(なお、「アベレージヒッターほど、上体・骨盤の回転の傾きが水平に近くなる」「同じ打者でも、ヒットを打った時の方が、ホームランを打った時よりも骨盤と上体の回転の角度が水平に近くなる」「バッティングの習熟度が低い打者ほど、骨盤と上体の回転の角度が水平に近くなる→たとえば、中学生・高校生打者のほうが、プロの打者よりも骨盤と上体の回転の角度が水平に近くなる」という傾向があると思われます。参考までに)

 

たとえば、先ほどの↑の画像の右下にあるアレックス・カブレラ選手の外角打ち(ちなみにこの打球はライナーで右翼席に飛び込んでいます)並みに骨盤+上体を傾けて打っている日本人打者は、誰か一人でも思い当たるでしょうか?

 

日本人打者の打ち方は、外国人打者のそれとは好対照です。

くどいようですが、日本人打者全体の傾向として(日本人のみならずアジア系の打者全体として。国際試合を見てみるとよくわかります)、「骨盤+上体が水平に近い角度で回転するような打ち方」をするバッターが多いのです。

特に、日本人打者の場合、先のバリー・ボンズ選手のような「クラウチングスタイル=骨盤と上体を構えの時点から斜めにしておいて、そのままの角度でorさらにホームベース側に倒してスイングする」というタイプはほぼ皆無と言ってよいでしょう。これは野球を長年観られている方であれば賛同していただけると思います。

 

「骨盤+上体が水平に近い角度で回転するような打ち方」をするバッターの典型的な例として、元巨人・日本ハムの二岡智宏選手の動画を置いておきます。先ほどのバリー・ボンズ選手やコディ・ベリンジャー選手と、上体・骨盤の傾き度合いを比較してみてください。

外国人打者と日本人打者の違いをでんでん太鼓で表現するなら、こんな感じでしょうか。

↑外国人打者(左バッター)

↑日本人打者(左バッター)

 

なぜ「外国人打者→上体と骨盤が斜め回転」「日本人打者→上体と骨盤が水平に近い回転」になるのか?

では、なぜこのような傾向が生まれるのか? を考えてみます。

なぜ外国人打者は、全体の傾向として「上体と骨盤がホームベース方向に倒れるような打ち方」をして、

逆に、なぜ日本人打者は、全体の傾向として「上体と骨盤が水平に近い角度で回転する打ち方」をするのか?

 

これは、「骨盤の前傾度合い」という肉体的な要因(文化的な要因については後述)によって、かなり説明が付きます。

 

実に単純な話で、

「骨盤が前傾してりゃ、バッティングの時も骨盤は斜めに回転するに決まってるじゃん」

「骨盤が後傾してりゃ、バッティングの時も骨盤は水平に近い回転になるに決まってるじゃん」

「上半身は骨盤の上に乗っかってるんだから、骨盤が斜めに回転するんだったら上半身も斜めに回転するに決まってるじゃん」

これだけです。外国人と日本人の骨盤と上体の回転角度の違いは、これでほとんど説明が付きます。

 

簡単な実験ですぐに確認がとれます。

立ってやってみましょう。

「メジャーリーガーのように骨盤の前傾がきつい状態を保ってスイングした場合」と、

「典型的な日本人打者のように骨盤を後傾させたままスイングをした場合」……を比べてみれば一目瞭然です!

 

骨盤の前傾をきつくしたままスイングしようとするのであれば、「骨盤を斜めに回転させる」ほうが楽なのです。その方がスムーズに身体を回転させることができます。

逆に、骨盤の後傾を保ったままスイングしようとするのであれば、「骨盤を水平気味に回転させる」ほうが楽に回転できるはずです。

また、骨盤前傾=斜め回転でスイングすれば必然的に上体はホームベース側に大きく傾き、逆に骨盤後傾=水平回転でスイングすればこれまた必然的に上体は地面に垂直に近い角度で回転します。上半身は骨盤の上に乗っかっているのですから、当然と言えば当然ですね!

 

要は、「骨盤前傾=骨盤と上体が斜め回転」「骨盤後傾=骨盤と上体が水平に近い角度で回転する」となります。

以上のような事情によって、

・「外国人打者=ホームベースに向かって倒れ込むような感じでスイングする(特に低めで顕著)」

・「日本人打者=骨盤と上半身が地面と水平に、竹とんぼのように回転する(特に高めで顕著)」

という違いが生じるのです。

 

もちろん、前述した図の通り、日本人打者であっても骨盤前傾・肩甲帯伸展傾向をある程度持っている人はいます(最近見た例だと、慶応大学→楽天の岩見選手や、日本ハム→エンゼルスの大谷選手などが日本人離れしています!)から、そういう人であれば、外国人打者のようにホームベース側にやや上体を倒すような感じでスイングするのがマッチするでしょう。

動画を見てもらえばわかるように(骨盤がどのようなポジションにあるかを想像してみてください)、たとえ日本人であっても骨盤前傾・肩甲帯伸展の傾向が強い選手は骨盤+上体をかなり斜めに回転させています。

自分が骨盤前傾か後傾かをチェックしたい方は、整骨院などに行ってチェックしてもらうか、

または自分の立ち姿を人に撮ってもらうなどしてみてください。

 

少なくとも、「骨盤前傾している人が、骨盤後傾している人のように打つ」「骨盤後傾している人が、骨盤前傾している人のように打つ」は、理屈から言えばどちらも不自然です。

または、

 

「本当は骨盤前傾傾向が強いのに、日本式の打ち方しか見たことがないor日本人的な打ち方を強制されているので、骨盤後傾している打者と同じ打ち方をしている人」もいるでしょう。そういう人であれば、むしろメジャーリーガーの打ち方を参考にするか、または日本人で骨盤前傾がきつい野球選手を探してお手本にするとよいはずです。

なお、骨盤が前傾も後傾もしていない(前傾しすぎず後傾しすぎず)人は、自分と同じような「骨盤があまり前傾しすぎず、かといって後傾しすぎてもいない打者」を探すと良いでしょう。私が見る限りだと、ソフトバンクの柳田選手や松中選手などが「前傾しすぎず後傾しすぎず」に該当します。印象としては「並進運動も大きく行うけれど、股関節伸展の力も強く使っている(後述)」という50:50の打者です。

 

 

骨盤の傾き度合いを判定するには?

なお、骨盤の傾き度合いを判定したい場合、「並進運動の初期=脚の上がり具合が最高になり、軸足一本で立っている状態」を見るのがよいと思われます。というのも、この段階ではどの打者も軸足に体重をかけて(乗せて)いるわけですから、各人にとってもっとも自然な・力を発揮しやすい「正直な」骨盤の位置になっている(いわゆるパワーポジションに近い状態)と思われるからです。普段から骨盤が後傾した状態に慣れている打者であればこの段階で骨盤も後傾し、逆に前傾している打者なら前傾するはず。

 

じゃあ、「構えた時点」や「並進運動の終期」で判別するのはどうなのか? というと、「構えた時点」は個人個人で差があまりにも大きく、骨盤の前傾後傾度合いを見るには適しません(→アップライト型の打者や変則的な構えの打者などを判定しづらい)。そして、「並進運動の終期=前足が接地する瞬間から直前まで」だと、今度はどの打者も股関節伸展の力を発揮するために(∵並進運動してきた身体をストップさせるため)骨盤前傾の度合いが高くなりますので、骨盤後傾の打者を前傾と誤判定する可能性が高くなり、これまた適格ではありません。もちろん、回転運動が始まってしまえば、コースや高低ごとに骨盤前傾の度合いが異なってくる(→高めはどの打者でも骨盤を水平に近い角度で回し、逆に低めはどの打者も骨盤をかなり斜めに傾けることになります)ので、回転運動開始後は判定しにくいでしょう。

 

よって、消去法的に「並進運動の初期=脚の上がり具合が最高になり、軸足一本で立っている状態」が選ばれます。もしも次善の策を探すのであれば「並進運動の中期=足を上げ終わった後、体を投手側へ運んでいくフェーズ(※まだ前足は接地していない)」でしょうか。

 

 

 

補足①:「もともと骨盤が前傾している」と「意識的に骨盤を前傾させる」は違う

↑の画像からもわかることですが、骨盤が前傾・後傾している……という見た目の特徴は、あくまでも

「現時点で、それが本人にとって一番自然だから、そうなっている」

に過ぎません。

 

ですから、たとえば

「黒人や中南米系の打者は骨盤前傾している。だから力強く打てるんだ。よし、それなら自分も骨盤前傾させて振ろう!」

とばかりに「お尻を突き出して構えたり、お尻を突き出したまま並進運動を行うこと」は、骨盤前傾とは似て非なるものです。

自分にとって不適切な動きをした場合、動きがギクシャクしたり力が入りづらくなったりするので、すぐにわかるはず。

現時点で骨盤後傾傾向の強い人がお尻を突き出して「骨盤前傾風」にスイングしたところで、うまく振れるわけがないのです。そのようなポジションに慣れていないのですから。

 

大切なのはあくまでも

「現時点での自分にとって最適な打ち方をすること」

です。

骨盤前傾しているほうが原理的には有利であるというのはほぼ間違いがないと思うのですが、

「骨盤前傾型の打ち方が現時点のその人にとって自然かどうか」はまったく保証されていません。

要は、

現時点で骨盤が後傾しているなら「後傾している人にマッチした打ち方」を、

逆に中立or前傾なら「中立or前傾している人にマッチした打ち方」を採用すべきです。

せいぜい起こり得るのは、「その時点におけるその選手にとっての最適解を選択したら、たまたまそれが骨盤前傾型のフォームだった」くらいだと思います。

 

……ただし、わざわざ「その時点における」と限定条件を付けたのは意味あってのことです。

というのは、「中長期的な取り組みを継続していけば、骨盤の傾き度合いをその人の最適値に合わせて変更することは可能」だからです。次の項で説明します。

 

補足②:「骨格」はまず変えられないが、「姿勢・筋肉のバランス」は改善できる。そもそも「骨盤前傾=原因、筋肉の付き方=結果」は真実の真逆かもしれない

骨格というのは「人体の骨組み」のことを指します。

骨は骨端線が閉じると成長を止めますので、「骨格」は基本的には変えられません。

 

ただ、あごの「えら」を削ったり、太ももの骨を真ん中で切断して足の長さを伸ばす……といったゴリゴリの荒療治をやれば、骨格(というよりは骨の形)を変えることは、いちおう可能です。また、成長期にアミノ酸・タンパク質やビタミン・ミネラルを十分に補給することによって、両親がそれほど大柄でなくても、高身長&筋肉質な身体(つまり、骨太の身体)を手に入れることは可能です(実例をいくつか知っています)……が、いずれも例外的なケースです。

 

ただし、気落ちする必要はありません。

「骨格」は変えられなくても、「自然な姿勢」や「筋肉のバランス」「骨の位置」くらいなら、じっくり時間をかければ変えることができます。

たとえば、学生時代にゴリッゴリの体育会系で背筋が伸びていた人が、就職してデスクワークをしているうちにだんだん姿勢が悪くなってきて(姿勢を維持する筋肉が弱ってしまう)、いつの間にか「猫背」のほうが楽になってしまった、とか。

あるいは、「骨の位置を直す」ことなんかは、整骨院の先生がよくやっているようです(私自信は未体験ですが、背骨?の位置がズレていたのを直してもらった選手を知っています)。

 

 

ここでひとつ考えてみてほしいのですが、

「筋肉は、起始と停止で骨にくっついて」

います。

 

……ということは、たとえば「ベンチプレスをやりまくった直後で、めちゃくちゃ大胸筋が疲れている人」なんかは、

(大胸筋の停止は、上腕骨の大結節稜というところなので)「上腕骨が知らず知らずのうちに体の前のほうへ前のほうへと向かおうとする」という現象に見舞われるかもしれません。

つまり、「骨が、その骨に付着している筋肉によって引っ張られる」わけです。

 

……さて、骨盤もやっぱり「骨」です。「骨」盤ですから。

ということは、

「骨盤の向きを後天的にある程度変える=その選手にとって最適な位置に収めること」は、可能だ

と考えられます。なぜなら、骨盤にも様々な筋肉が付着しているからです。よく「黒人は大腰筋が発達しているから骨盤が前傾しているのだ」と言いますね。この命題の真偽はともかく、骨盤は間違いなく「様々な筋肉によって引っ張られて」います。

 

となれば、「<骨盤>のポジション(傾き度合い)を最適化したい!」のであれば、

「骨盤にくっついてる筋肉のバランスその他をうまく変えればいいんじゃね?」

という発想に至るのはいたって自然ですね(当然ながら、骨盤の傾きを単体で変えることは難しいでしょう。もし骨盤の傾き度合いを調整するのであれば、肩甲帯の伸展度合いや首の位置・胸郭の傾き度合いなども同時に調整されるはずです)。

 

そういえば、初動負荷トレーニングの提唱者である小山裕史氏も「もも裏の筋肉の硬化が骨盤後傾の一因となる」と指摘しておられました(おそらく、トレーナーの方にとっては周知の事実なのでしょう)。もも裏の筋肉と言えばハムストリングス=半腱様筋や半膜様筋・大腿二頭筋(長頭)ですが、これらの筋肉は座骨結節(骨盤の下部)に起始を持ちます。

平たく言えば、もも裏の筋肉が硬くなれば、「骨盤を下に引き下げる=後傾させるような力」がかかるのです。

ということは、たとえば「自分の競技パフォーマンスの向上のために、今よりも骨盤が前傾+肩甲帯が伸展した体型になりたい!」という意図を持ったのであれば、まず「もも裏の筋肉の硬化を徹底的に解くこと」が必須条件になります(もちろん、もともと骨盤が後傾しがちな人がいきなり前傾にする…などということはかなりリスクを伴うので、結局は「その人にとって最適な骨盤の傾き度合いにする」「長期的なスパンで徐々に変えていく」程度の改造になるでしょう。)。

 

(英語ですが)こんな画像を拾ってきました。

題名は「骨盤の傾きをコントロールする筋肉」で、まさに「骨は筋肉によって引っ張られる」というテーマ通りの代物です。

英語ばかりでわからない方だらけだと思うので、日本語訳を乗せておきます。

骨盤の傾きをコントロールする筋肉の一覧

1)腹筋群:腹直筋・外腹斜筋

2)股関節屈曲筋群:大腿直筋・縫工筋・腸腰筋・大腿筋膜張筋

3)脊柱起立筋群(下部):腰方形筋や腰腸肋筋・胸最長筋などを指すと思われる

4)股関節伸展筋群:大臀筋・ハムストリングス(半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋長頭)

今度は「漢字ばかりでわからない」という声が聞こえてきます(笑)。

理屈はそれほどわからなくても害はないので、とりあえず、私が考える「もし骨盤前傾+肩甲帯伸展体型へと徐々に変えたいなら、どうすればいいか?」という具体的方策だけ書いておきます(→野球においては、骨盤後傾であることのメリットは特に見当たらないので、わざわざ骨盤「後傾」に導くアプローチの需要は少ない……というのが悲しい現実です)。

 

もしも、競技のために「骨盤前傾+肩甲帯伸展」という体型を長期的・計画的に獲得していきたいのならどうするか?

胸郭周辺の筋肉・肩甲帯の筋肉を「連動させつつ、柔軟性を強化する」。また、体幹の筋肉(外腹斜筋・内腹斜筋・腹直筋・腰方形筋・腸腰筋・腰腸肋筋・胸最長筋など)の柔軟性を十分に保つこと。具体的方策としては、初動負荷の本に乗っている「ウィングストレッチ」や「BMLストレッチ」などを継続的に行うこと(マシンがあればマシンでやる)。

大腰筋・腸腰筋・大臀筋・ハムストリングスなどの「脚の裏側の筋肉&腸腰筋」を柔軟かつ強靭にすること。ウェイトトレーニングでいえば、フルスクワット・デッドリフトといった股関節伸展筋力を発揮するものや、レッグレイズ・開脚でのロープ上りなどが該当。それらの箇所のストレッチ(どちらかといえば動的ストレッチを推奨)も十分に行う。また、太もも前面の筋肉(主に大腿直筋)の柔軟性も強化すること。

・「骨盤前傾+肩甲帯伸展」という姿勢を意識的に継続すること。違和感がなくなるまで継続する。立つとき、座るとき、歩くとき、走るときなど。筋肉の状態が徐々に変わるにつれて、骨盤前傾+肩甲帯伸展のほうが楽になってくるはず

 

※「柔軟性確保のためのストレッチ」の詳しいやり方は、「初動負荷理論による野球トレーニング革命」に詳説されている

骨格そのものは変えられないので「生まれ持った骨格に変更を加える」「完全に黒人の骨格に変わる」ことは不可能だが、「自分が野球をするうえで最適な身体のバランスを手に入れる」ことは、長期間取り組めば可能。(予想だが)変化がある程度定着するまでに三か月~一年くらいは平気でかかるはず。完全にモノになるのは数年単位かも。ただし続ければかならず変わっていく。改造というよりは、野球のための最適化と言ったほうがいい。そして多くの日本人打者にとっては、「無理のない範囲で骨盤が前傾していること」が望ましいと考えられる

どのみち、「骨格」そのものは変えられません。

しかし、「骨盤前傾・後傾」は、骨格の問題と言うよりは「筋肉の付き方・筋肉の柔軟性・身体全体のバランス・筋力のバランス」といった要因が複雑に絡み合った結果起こっているものなので、長期的にかつ徹底的にアプローチしていけば、ある程度望み通りに変えることは可能だ――と私は考えています。

 

雑感:骨盤前傾型の打ち方をする日本人打者が増えている?

余談ですが、野球の現場にいる私は、

「最近は、日本人選手であっても、骨盤前傾型の打ち方をする(※詳しくは後述)選手が増えてきつつあるのではないか」

となんとなく感じています。

その直感が正しいとすれば、その一因として

1.<メジャーリーガーのスイングを見る機会が増えたので、これまで典型的日本型のスイングしか選択肢がなかったのが、骨盤前傾要素の強い外国人打者的なスイング(=股関節伸展筋力を積極的に使って体を回転させてバットを加速する打法、後述)も選択肢に入るようになった。そのため、骨盤が前傾している日本人打者が自分に合った打ち方をするようになった>

2.<欧米由来のトレーニング環境の充実=特にスクワットやデッドリフトをはじめとした股関節伸展系のメニューの普及>

があるのではないか? と私は考えます。

 

2.についてはそう考える一応の理由があって、それは

「骨盤前傾している人ほど股関節伸展筋力を発揮しやすい」のであれば、その逆もまた真で、<股関節伸展筋力を鍛えれば鍛えるほど骨盤前傾に近付いていく>のではないか。とすれば、欧米由来のトレーニングをうまく行えば日本人でも骨盤前傾の傾向は強くなるのではないか?」

という論理が成り立つ可能性があることによります。

 

もともとアジア系の人の身体的特徴としては「骨盤後傾、股関節伸展筋力は弱く、膝関節伸展筋力が強い」があるそうなのですが、

アジア人であろうとなかろうと股関節伸展筋力を高めるトレーニングに専念すればするほど股関節伸展筋の出力や筋量が高まり、大殿筋・ハムストリングスなどが発達します(「30日スクワットチャレンジ」などで検索してみてください)。

……となれば、大殿筋やハムストリングスといった「骨盤にくっついている股関節伸展筋」を、股関節伸展筋力を養うトレーニングを上手に行うことによって(たとえばスクワットで膝関節伸展を強く使いすぎない、などに気を付ける)膝関節伸展筋よりも相対的に優位にすれば、骨盤前傾の度合いもだんだん増していく……のではないでしょうか?

(筆者作成)

 

……となると、欧米由来のトレーニングが普及していなかった昭和の頃の野球選手で骨盤が前傾している人は、今よりも少なかったのではないか? とも推測できます。実際、昭和のころの「熱闘甲子園」や「プロ野球ホームラン集」を見ていても、今の選手ほど骨盤が前傾していないようにも見えます(厳密に統計的処理をしたわけではなく、個人的な感触です)。

あるいは、

「ウェイトトレーニングがさほど普及していなかった1980年代以前のメジャーリーガーに、日本人打者のように重心移動を大きく行うウェイトシフト打法を採用している打者がわりと多いように思われる」

※現在のMLBでは、動くボール全盛

&投手の球速向上&打者のフィジカル向上などの要因によって、ウェイトシフト打法の要素が強い打者はほぼ消滅している

のも、ウェイトトレーニングの普及と関係している(完璧な因果関係を持つわけではないが、そうなる一因とはなった)のではないか? と思えてきます。もしかすると「日本でもメジャーでも、肉体にマッチした打法を採用する打者が増えただけで、肉体そのもの(骨盤の前傾度合いそのもの)は変化していない」可能性もありますが……。

 

以上の項では、私なりに「外国人打者と日本人打者との体の違い」と「その体の違いからただちに導かれるバッティングの差」をかみ砕いて説明してきました。

次項からは、もっと各論的な話を、つまり

「外国人打者=骨盤前傾、日本人打者=骨盤前傾 という2つの極があるなら、打ち方にも2つの系統があるんじゃないか?」

という話に移っていきます。

 

打ち方には「2つの極」がある。骨盤が前傾→ローテーショナル打法、骨盤が前傾→リニアウェイトシフト打法 がマッチする。もちろん中間型もあり

今までのまとめ

先ほどまでの項で、私はこんなことを書いてきました。ここでひとまず、簡単にまとめておきます。

外国人打者と日本人打者との違いは何に由来するか?  についての自分なりの仮説

外国人打者と日本人打者との主な身体の違い

外国人打者が「骨盤前傾・肩甲帯伸展」傾向が強いのに対して、日本人打者は「骨盤後傾・肩甲帯屈曲」の傾向が強い

あくまでも傾向に過ぎないので例外はあるが、全体としてみれば確実にそういう傾向が存在する。

※日本人でも骨盤前傾している人はいる…が、多くの場合は肩甲帯の伸展が伴っていないため腰に負担がかかっている

 

・骨盤が前傾していればいるほど、バッティングの時に骨盤は斜め(投手側から見てホームベース側に傾く)に近い回転をする。

・骨盤が後傾していればいるほど、バッティングの時に骨盤は水平に近い角度で回転する。

・上体は骨盤の上に乗っているのだから、骨盤が斜めに回転するなら上体も斜めに回転するし、逆に骨盤が水平に回転するなら上体も水平に近い角度で回転する

 

骨盤の前傾・後傾というのは「その人の筋力・筋肉のバランスや身体全体の重心バランス・フィーリング」などによって結果的にそうなっているもの。意識的にすぐ変更を加えることは難しい。

ただし、長期的・計画的に「自分にとって最適な骨盤の位置へと徐々に変えていく(肩甲帯の進展度合いなども同時に変わる)」ことは可能。

・日本人打者でも最近は「骨盤が前傾している打者向きの打ち方」(このあと解説)を採用する打者が増えた。これは①トレーニング環境の充実 ②メジャーリーグ的なスイングを目にする機会が増えた ためだと考えられる

 

これらを踏まえたうえで、

・バッティングで大切な「バットをうまく加速させる」という目標達成のためには、「骨盤前傾→ローテーショナル打法」「骨盤後傾→(リニア)ウェイトシフト打法」という2つの方法論があり、その中間型も存在する

ということと、

・これからの時代はローテーショナル型のスイングが優勢になっていくだろう

ということの2つを示します。

 

バットをどう加速するか?に対する3つの答え…「ローテーショナル打法」と「(リニア)ウェイトシフト打法」と、その中間

要するに「バットをどう加速するか?」という話になる

私は、バッティングを考えるときに「バッティングとは、運動エネルギーの伝達である」と考えることがあります。

運動エネルギーという考え方を導入すると、

良い動作とは「運動エネルギーがうまく伝達されている動作」のことで、悪い動作とは「運動エネルギーがうまく伝達されていない動作」のことだということができます。

 


★べつに読まなくてもいい補足★

運動エネルギー:速さ v で運動する質量 m の物体は,静止するまでに他に対して 1/2mv^2の仕事(=ある物体に与えた力×その物体が動いた距離)ができる。 1/2mv^2を、この運動物体がもつ運動エネルギーという。つまり、質量m[kg]の物体が速さv[m/s]で移動する時に、物体が持つ運動エネルギーは「E=1/2mv^2」となる。Kの単位はジュール[J]。つまり「その物体が持つ運動エネルギー=1/2×物体の質量×物体の速さ」。

※要するに、運動エネルギーを保存しつつ伝達するには「質量が多い部分は低速でもよいが、質量が軽い部分は高速で動かす必要がある」ということ。バッティングに当てはめて考えると、「運動エネルギーを保存しつつ伝達するためには、質量が多い下半身・体幹の動きは低速でいいが、質量が軽い腕・バットは高速で動かす必要がある」ということになる。

※なお、そもそも「エネルギー」とは「仕事(=ある物体に与えた力×その物体が動いた距離)に換算しうる量の総称」。では「仕事」とは何かというと「力が働いて物体を動かしたとき、その力と動かした距離との積」。では「力」とは何かというと「物体の状態を変化させる原因となる作用であり、その作用の大きさを表す物理量」。では「作用」とは何かというと「一般に二つの物体の間に力が働いているとき,その力によって一方が他方に及ぼす影響,またはそれによって生ずる変動のことを作用という」とのことで、「力を定義するためには作用を定義せねばならず、逆に作用を定義するには力を定義しなければならなく」なります。このように、定義をどんどん掘り下げていくと「これ以上定義しようがないんじゃね?」という臨界点に達することがあります。


 

運動エネルギーの伝達だけがバッティングのすべてというわけではないのですが、バッティングの重要な一部分を占める要素であることは間違いありません。少なくとも、良い動作の一つの条件は「インパクトの時点で、バットが運動エネルギーを十分獲得できていること」です。

そして、運動エネルギーは「1/2 かける 質量 かける 速さの二乗」で、しかもバットの質量は固定されています。

となると、残るは「バットの振られる速さ」だけ。これ以外はコントロールできません。

 

バットの振られる速さが増せば増すほど、バットという物体が持つ運動エネルギー(厳密にはボールが当たる部分)も増します。

運動エネルギーとは「ほかの物体に仕事をすることができる潜在的能力」なので、

要するに「バットという物体の持つ運動エネルギーが増せば増すほど、当たった場合の打球速度・飛距離も増す。だからバットを振るスピードを上げれば上げるほど有利」ということになります。

 

……とはいえ、あまり難しい話をするつもりはありません。

ここではとりあえず、わかりやすく単純化して考えてみます。

要するに、諸々の条件を固定して考えると、

「ボールを飛ばしたいなら、バットという物体に<速さ>を与えればいい」

わけですね(角速度を与えると表現するほうが正確ですが、ここではわかりやすさを優先します)。

 

いうまでもないことですが、基本的には「スイングスピードは速ければ速いほど有利」です。

ボールを見極めるための時間的余裕、ボールを捉えたときの打球速度・飛距離を確保するためには「圧倒的なスイングスピード」が必要です。

プロ野球のスカウトが打者のどこを見るかというと「引っ張った時に速い打球が行くか」だそうですが、

これもやはり「バットをきちんと加速できる能力があるかどうか?」「スイングスピードがある打者じゃないと、より上のレベルでは通用しない」という判断に基づいています。

 

ということは、打者に課せられた宿題は

「バットを加速させるにはどうすればいいか?」を考えよう!!

ということです。より上のレベルで野球をやりたい・より優れた打者になりたいのであれば、どうしてもこの課題を解決する必要があります。

 

「ローテーショナル」か、「(リニア)ウェイトシフト打法」か、「50:50」か?

目下の話題は

「バットを加速させるにはどうすればいいか?」を考えること

です。

 

これに対しては、とりあえず3つの答えを提示することができます。

「バットをどう加速するか?」に対する3つの答え

1.ローテーショナル型(:骨盤が前傾している打者にマッチしやすい)

2.(リニア)ウェイトシフト型(:骨盤が後傾している打者にマッチしやすい)

3.両者の中間型

 

なお、これは「以下の3つの選択肢のなかから正解を選びなさい」ほど強制力のあるものではなく、

・人体を上手に活用してバットを加速したいのであれば、大別して、ローテーショナル型とウェイトシフト型という、2つの正反対のアプローチが考えられるよ

・その中間型(ウェイトシフトとローテーショナルの50:50)もあるよ

・数直線なので、「中間型とローテーショナル型の中間」とか「限りなくローテーショナル寄りの中間型」を考えることもできるよ

・↑の数直線から外れた人、つまりメカニズム的にはめちゃくちゃなのになぜか打てる人もいるよ(ex.長嶋さん)

・ウェイトシフトとかローテーショナルというのは、あくまでも研究者・理論家が分類のために後天的に編み出した概念。「分類すること」自体は手段にすぎず目的ではないので、手段と目的をひっくり返さないように気を付けよう

・個々人のバッティングは「股関節伸展筋力」「骨盤の前傾度合い」「本人のフィーリング」「体の各部の質量・筋力」「バットの重さ・長さ」「ケガ」「時の経過による変化」…といった無数の変数を組み合わせた結果定まるものだから、最終的にどういう加速の仕方を選ぶかは本人の決定に委ねられているよ

くらいの意味にすぎません。

 

ですからローテーショナルとかウェイトシフトというのは絶対的な分類ではないのですが、

「とりあえず理屈上はこういう分類ができるよ」というものなので、活用の方法はいろいろあると思います。

 

たとえば、活用方法の一例としては、

1.まずは自分の特徴を調べる。骨盤後傾か前傾か、体の質量、体各部の筋力、手足の長さ、バッティングのフィーリング、どんな打者になりたいかなど

2.「自分の特徴」を踏まえたうえで、「ローテーショナルっぽく打ってみる」「ウェイトシフトっぽく打ってみる」「中間っぽく打ってみる」など試行錯誤する。自分が数直線上のどのあたりに位置しそうかを見極める

3.自分の立ち位置がわかったら、その立ち位置に適した動作や練習方法を採用していく。たとえば、完全なローテーショナル型であれば、①体の質量をうまく増やす(除脂肪体重など) ②徹底的な筋力トレーニングに励む ③「ローテーショナル的なアドバイス」は受け入れ、「ウェイトシフト的なアドバイス」は慎重に検討する ④バッティングの方向性や方針を決めなおす。日本的な素振りはやめる、実打中心でいく など。

こんな使い方もできますね!

 

 

ローテーショナル打法・(リニア)ウェイトシフト打法 それぞれの原理

★「バットの加速」をどう実現するか? 2つのアプローチ★

1.ローテーショナル打法

踏み込みに対して発揮される「踏み出し脚の股関節伸展力」をメインエンジンとして身体を回転させる。

そのため、骨盤前傾している→股関節伸展力を多めに使える人向け。わかりやすい例はバリー・ボンズ選手やデビッド・オルティズ選手など。(重心移動を伴う踏み込みの反作用として踏み出し脚に「摩擦力と地面反力の合力=斜めの力」が加わるので、それに抗する・打ち勝つように股関節伸展筋力+膝関節伸展筋力+股関節外旋筋力などを複合的に発揮した結果、骨盤が回転運動を起こす)

 

ローテーショナル打法では、「身体全体がクルリと回転する」&「バットが、トップハンド(押し手)側の半身に押されて出てくる」ようなイメージのスイングになる。このようにして「体の回転」が起きた後、最後に手とグリップ部分が減速する。

手とグリップが減速すると、テコの原理でヘッドが加速される。→「バット加速」という目的が達成される!

※なお、「重心移動を少なくして身体を回転させ」ると、捕手側の上半身がスムーズに出てくる。逆に、重心移動の距離を大きくとればとるほど捕手側の上半身は出てきづらくなる。つまり、重心移動を少なくして身体を回転させると「押し手側(捕手側)の上半身でバットを押しながら回転する」ような感じになる。トップハンドトルク打法といった名称はここに由来すると思われる。トップハンドとは捕手側の手のこと。ボトムハンド=投手側の引き手をさほど使わずに、トップハンド=捕手側の手でバットを加速・回転させているための名称。ローテーショナル打法は加速に要する時間が短いので、いわゆる「パンチャー(1999年以前から存在する呼称)」とも呼ばれる。あるいは、ローテーショナル打法は「回転打法」「その場回転打法」とも呼ばれる。「軸足回転打法」は明確な誤りなので注意

 

2.(リニア)ウェートシフト打法

①「重心移動をストップする慣性」と②「重力」③「引き手を引っ張り出す力」をメインエンジンにしてバットを加速させる。骨盤後傾している→股関節伸展力が少な目にしか使えない打者向け(わかりやすい例としては、イチロー選手や野村克也さんなど。昔の日本人打者はほぼ間違いなくウェートシフト型です)。

※「重心移動をストップする慣性」をうまく使うためには、「捕手側の脚から投手側の脚へと直線的に体重を移動させる」必要がある。これは慣性の働く方向(バットを振り出す方向)を最適化するため。このため「リニア(=直線的)ウェートシフト打法」と命名されている。その他には「体重移動打法」と呼ばれたり、「長い加速距離をとっておいてバットを振る」ため、「スインガー打法」とも呼ばれたりする。

※簡単に説明すると、①「重心移動をストップする慣性」というのは、『電車が急停止すると中に乗っている人が前方へと倒れそうになるアレのこと』です。バッティングでは、すべての選手が捕手側から投手側へと重心移動を行います。その重心移動を急停止すると、

A.わりと自由度の高い(下半身や体幹に比べると格段に<軽い>パーツである)「腕+バット」パーツが、投手方向へと放り出されるような動きを起こします。急停止の例でいうと、「電車=下半身+体幹」で、「中に乗っている人=腕+バット」です。

B.投手側の半身(右打者なら左半身)が地面反力によって固定されたような状態になる一方、捕手側の半身は慣性に従いそのまま運動を続けようとします。この結果、打者の体を上から見ると「投手側の半身を軸にして捕手側の半身が回転を起こした」ような回転運動が生じます。いわゆる二軸動作と通じるものがあります。

このA.B.が、①「重心移動をストップする慣性」のことです。

 

また、②「重力」というのは、「腕+バットを重力にしたがって落下させること」を指します。モノが落ちる加速度は9.8m/s^2ですから、腕+バットが落下する速度はかなり速くなります。

③「引き手を引っ張り出す力」というのは、引き手側の広背筋の伸張反射などを利用してバットを引き出す動きを指します。思いっ切り伸ばしたバネから手を離すとものすごい勢いでパチーン!と縮む…そんなイメージです。落合博満氏が好打者の条件として挙げている「トップが深くて大きいこと」と関連します。

ここでひとつ確認なのですが、実はどんな打者であっても「踏み込み足の地面反力が骨盤を回転させること」は、身体を回転させるために絶対に必要です(ウェイトシフト打法でも)。

 

それを証明するには、

「踏み込み足を地面に接地させないで(=地面反力なしで)、バッティングの時のように身体を回転させることができるかどうか」

を試してみると良いでしょう。

やってみればわかりますが、「無理」です。踏み込み足をきちんと地面に接地してからでないと、身体は回転してくれません。上半身だけを体幹の筋力でなんとか90°ほど回転させることができるくらいです。

 

※バッティングの「スイング」というのはかなり複雑な原因が相互に絡み合って実現するものなのですが、「スイングが起きる原因」の一覧表? を一応掲示しておきます。ごちゃごちゃしてますが、これでかなり網羅されているはずです。このほかにも肘関節の伸展・末端加速・偶力などもあるのです…が、あまりにも煩雑になりすぎるので今は省略させてください。

↑この一覧表をひとつひとつ検討してもらえれば、「ローテーショナル打法=6.や7.が強いのだな」「ウェイトシフト打法=2.と4.と5.が強いのだな」という感じで大まかに理解できる……はずです。難しくて読む気にならない方は、「こんな一覧表があったな」と頭の片隅にでも置いておいてください。

中間型は「ローテーショナル・ウェイトシフトの間をとったもの」と考えてください。

つまり、「重心移動を大きくとり、踏み出し脚の股関節伸展筋力もある程度発揮する」「股関節伸展筋力を発揮しつつ、慣性による振り出しも同時に行う」といった特徴があります。

 

とはいえ、中間型が最強というわけではありません。

「いいとこどり」をしているように見えるかもしれませんが、実際は「1+1=2」ではなく

「0.5+0.5=1」とか「0.3+0.7=1」になるようなイメージです。

どの打ち方を選んでもMAXは「1」で、自分に合っていない打法を選択してしまったら「0.8とか0.6とか」になってしまう、と考えてください。

 

ローテーショナル、ウェイトシフト、中間型の具体例

理屈でくどくど言うよりも、実例を示す方が早いかもしれません。

ローテーショナル・ウェイトシフト・中間型、各タイプの典型例は以下の打者です。

 

<ローテーショナルの例>

・バリー・ボンズ選手、デビッド・オルティズ選手 など。



<ウェイトシフトの例>

・イチロー選手、落合博満さん、 など。昔のNPBの打者はほとんどウェイトシフト


<中間型の例>

・柳田選手・筒香選手



このように分類すると、「○○選手は何型ですか?」という質問が殺到するような気がするので先に断っておきますが、そもそも分類は分類に過ぎません。あくまでも仮のものです。分類や理論が先にあるのではなく、まず現場でプレーしている選手がいて、それを解説するために便宜的に分類したり理論を考えたりしているだけです。

また、そもそも「この選手は○○型である」と断言できないケースのほうが多いのです。「典型的なウェイトシフト」として分類した落合選手やイチロー選手にしても、スイング軌道が「かぶせるようなダウンスイング」になっているか? といえばそんなことはありません。

わかりやすさのために仮に分類しているだけなので、分類そのものに意味があるわけではありませんし、「この選手はローテーショナル、この選手はウェイトシフト」とタイプへの当てはめありきで決めること自体にもあまり意味はないのです……が、

とりあえず「ボンズ選手=ローテーショナル、イチロー選手や落合選手=ウェートシフトだよ」と覚えておけば、一応の「ローテーショナル打法・ウェイトシフト打法のイメージ」はつかめるはずです。

 

おまけ

↑カープ坊やとマーくんはウェイトシフト型に見える

↑このくらいのガタイがあればローテーショナルで打てる

↑足が短いのでウェイトシフトで打つしかないだろう

 

 

……この項では「バットをどう加速させるか?」「どのタイプにはどんな選手が存在するか?」についてタイプごとに説明しました。

それでは次の項から、

「ローテーショナル打法のメリットデメリット」

「(リニア)ウェートシフト打法の強み弱み」

を解説していきます。

 

ローテーショナル打法:現在MLBで主流の打ち方。重心移動の距離を抑えて、その場で回転するように打つ。強力なフィジカルが必要だが確実性が向上する

ローテーショナル打法を簡単に説明すると、以下のようになります。

ローテーショナル打法:現在MLBで主流の打ち方。

①重心移動の距離を抑え、②踏み込み足の股関節伸展筋力をメインにして鋭く身体を回転させることで打つ。まるでその場で回転しているように見えるので「ローテーショナル(回転)打法」と名付けられた。股関節伸展筋力がメインエンジンなので、骨盤前傾傾向の強い打者にマッチする。

強力なフィジカルが必要だが、うまくできれば打球速度・打球角度・確実性を同時に手にすることができる。

 

(リニア)ウェイトシフト打法:典型的な「日本的」打法。重心移動の距離を大きくとって直線的に体重移動し、慣性と重力と引き手の力を活かしてバットを振り出すイメージ。非力でも飛ばしやすい

一方で、(リニア)ウェイトシフト打法。

(リニア)ウェイトシフト打法:いわゆる、「日本人っぽい打ち方」。昔の選手はほとんどこの打ち方。現在では、ガチガチにウェイトシフト打法をやっている打者は少ない。日本球界全体として「中間型~ローテーショナル型」へとシフトしつつある。ちなみに昔のMLBでもウェイトシフト打法が主流だったようだ。

基本原理:重心移動の距離を大きくとって軸足から前足へと直線的に体重移動し、①慣性と②重力と③引き手の力を主に使ってバットを振り出す。股関節伸展筋力の発揮は弱くなるので、骨盤が後傾している打者にマッチしやすい。

 

非力でも振りやすい反面、

①ボールの軌道(上から下)とバットの軌道(ウェイトシフト打法だと上から下になりやすくなる)が一致しにくく、打球速度が上がりにくい。

→極端なウェイトシフトでバット軌道をボールと一致させたいのであれば多少の工夫が必要:「投手寄りのポイントでさばく」など

②ボールに対して上から下に切り落とすような=ボールを叩きつけるようなスイングになりやすいので、打球角度を上げるのが比較的難しい。

→極端なウェイトシフトで打球角度を上げたいなら「前さばきで、かつ、ボールの中心より下を叩く」ことが必要

③ウェートシフトが大きい=重心移動の距離が大きい≒ボールに自ら近付いていく距離が大きい ので、確実性がいまひとつ。見切りが早くなるし、ポイントも若干投手寄りになる。

④重心運動にかける時間が長い分、足を上げてからボールを捉えるまでの時間が長くなる。そのため、投手がクイックを使ってくる場合に対応が難しい&重心移動が大きい分だけ身体のコントロールの難易度が上がり打撃の再現性も落ちる と思われる。

ちなみに、少年野球の選手は99%ウェイトシフト打法で打っているが、これはローテーショナル打法をやるだけの身体がまだ備わっていないため

 

もちろん、中間型の「50:50」タイプは、両者をうまく組み合わせたものとなります。

 

これからは「ローテーショナル打法」が主流になっていく

総合的なリスク計算をすると、明らかにローテーショナル打法に分がある

ざっくり両者のメリット・デメリットを比較してみます。

 

なお、わかりやすくするために「極端なローテーショナル打法」と「極端なウェイトシフト打法」とを比較します

現在のNPBでは「極端なウェイトシフト打法」の使い手はほとんどいないのですが(全体として中間型・ローテーショナル打法に移行済み)、原理的に両者を比較したいのであえて「両極端同士の比較」を考えてみます。

ローテーショナル打法 比較項目 ウェイトシフト打法
フィジカルが強ければ上がりやすい。

→MLBではスタントン選手が194km/hを、NPBではペゲーロ選手が193.5km/hを記録。ただし、打者のフィジカルが弱い場合、打球速度はウェイトシフト打法に劣る

打球速度 フィジカルがさほど強くない打者でも、「ヘッドスピードが最大化する投手寄りのポイント」で打てば、ある程度の打球速度が出る。しかし「フィジカルの強いローテーショナル型打者」に比べれば、やはり打球速度は劣る。
上がりやすい。打ち方的にバットがやや下から上(slightly upward)へと振られるため、ボールには「下から上へカチ上げるような力」が加わる 打球角度 上がりにくい。打ち方的にバットがダウンスイング気味になりやすく、ボールには「上から下の力」が加わってゴロになりやすい傾向がある

極端なウェイトシフトで飛ばすには「前でさばく」かつ「ボールの下にバットを入れる」必要がある

高い。

①打撃時の重心移動・並進運動の距離が少ないため「目線の上下奥行きのブレ」が少ない

②打撃時の並進運動の距離が小さいぶん、ボールを長く見ることができる。バリー・ボンズ選手などは「構えよりもインパクトの時のほうが目線が捕手側に下がっている」というヘッドバック型のスイングを完成

③スイングのために必要な動き・予備動作が少ないため打撃の再現性が高い

確実性 低くなる。

①打撃時の重心移動が大きいため「目線の上下奥行きのブレ」が大きい

②打撃時の並進運動の距離が大きいぶん、ボールから目を切るのが少し早くなる

③スイングのために必要な動き・予備動作が大きいため打撃の再現性が低い

ムービングファストや高速変化球には(ウェイトシフトよりも)強い。クイック投法やスローボールにも比較的対応しやすい 対応力 ムービングファストや高速変化球に弱い。また足を高くゆったりと上げる選手が多く、外国人投手のクイック気味の投法に合いづらい
・実打・ドリル系中心

・素振りは熱心にはやらない

練習方法 ・「ウェイトシフトによってバットを加速させる」ために、素振りが重視される
強いフィジカル(身体各部の質量・筋力:特に股関節伸展筋力・筋量・パワー)が備わっていないと打てない 求められるフィジカルのレベル ・少年野球選手はほぼ間違いなくウェイトシフト打法

・イチロー選手や落合選手のように、ウェイトトレーニングを(ほぼ)しなくてもかなりの成績を残せるウェイトシフト型の選手が一応存在していた(いる)

……が、あまりにも神懸かり的なので再現性はどうなのか? というところ。もちろん現在のNPBではウェイトトレーニングはかなり普及しつつあり、選手のフィジカル向上と並行して、打ち方は中間型・ローテーショナル型へと移行しつつある

その他 ・重いバット・長いバットを扱いやすい

(→藤村富美男さんの「物干しざお」や、落合選手・中村紀洋選手・野村克也さん・門田博光さんらの「長いor重い」バットなど)

 

「極端なウェイトシフト打法」はすでに絶滅している

先ほどから何度か「NPB全体として中間型・ローテーショナル型へと移行しつつある」と書いていますが、これは ①トレーニング環境の充実 ②技術の洗練 という要素が大きいと思います。日本人がローテーショナル型のスイングをする際のネックになっていたのが

・「股関節伸展筋力が強い&骨盤前傾している外国人的な体型のほうが、身体を素早く回転させるには有利」

・「ローテーショナル打法のためには、フィジカル(身体の質量や筋力・パワー)が強い必要がある」

・「<身体を回転させるとバットがそれにくっついて出てくる>というモデル打者の不在」

この辺りですが、いずれも近年は解決しています。ウェイトトレーニングをはじめとしたトレーニング環境の充実とそれに伴うフィジカルの向上、そしてNPBにもローテーショナル寄りのスイングをする打者が全体として増えてきた……という具合に。

 

そもそも、本来の意味での「極端なウェートシフト打法」というのは、このくらい↓極端なもので、いわゆる「上から上体をかぶせるように打つ昭和的スイング」です。ご覧のとおり、身体の回転というよりは重心移動(体重移動)を活用して打っています。


もちろん、現代ではこういうスイングをしている打者はいません。

ウェイトシフトの代表として私が挙げているイチロー選手・落合選手にしても、

確かにウェイトシフト(重心移動)は時間・距離ともに大きいのですが、

(特に強い打球を打とうとするときには)身体をクルリと回転させてスイングします。

 

要は、「極端なウェイトシフト打法=体重を軸足から前足に移す動きで打つ打者」はとっくに絶滅していて、

今NPBで活躍している打者の多くは、実は「ウェイトシフト寄りの中間型~中間型~ローテーショナル寄りの中間型~ローテーショナル型」 くらいに位置する打者が多いと私は思っています。

 

なぜローテーショナル寄りになっていくのか?

ローテーショナル打法のデメリットを強いて挙げるなら、せいぜい

・身体を大きく、強くする必要がある

・身体がある程度大きく、強くないとまるで打球が飛ばない

ここでしょうか(これを「デメリット」といえるのどうかは、はなはだ怪しいものですが)。

 

ローテーショナル打法のメリットは、先ほど表にまとめたこと以外で挙げるとするなら、以下のような事情に対応しやすいことでしょう。

 

・「投手の球速の向上」への対応

…MLBは平均150km/h、NPBでも平均143km/h程度の球速になっている。身体を素早く回転させることができないとスイングが間に合わない。ストレートにタイミングを合わせて早めに振り出すと、今度は多彩な変化球に引っかかる可能性が高まってくる

※スピードガン導入当時はNPBでも平均130km/h台中盤くらいしか出ていなかったと思われる

・「投手の球種の多様化と、変化球の進歩」への対応

…「ストレートかカーブか」という時代ではなくなっている。いわゆるムービングファストに加えて、「手元に来るまで直球と見分けがつかない」高速変化球の浸透(いわゆるスラッターや高速チェンジ・高速シンカー・SFFなど)。やはり振り始めるのが早ければ早いほど不利になる

 

特筆事項:ローテーショナル打法のほうが、「目線の上下・奥行きのブレ」が少ない

プロ野球で二度の三冠王に輝いた落合博満氏が、「打者は、目の錯覚と戦わなければならない。目の錯覚をいかに小さくするかが重要だ」という意味のことを述べられています。ただでさえ難しい「バッティング」の成功率を少しでも引き上げるために、本当に苦心されていたのでしょう。

 

実際、「100-150km/hをで自在に変化しながら飛来する直径7cmのボールを、直径7cm弱のバットで打ち返す」というのは、文字で表してみると、まさに離れ業です。

たとえば、打者評価の一大指標であるOPS(=長打率+出塁率)は理論上の最大値が5.000(全打席本塁打の場合)ですが、一流打者と呼ばれるラインが1.000~なので、要するにバッティングというのは

「100点中20点とれば大成功である」

という、進研ゼミの主人公も真っ青なウルトラCなのです。

ボールの中心から約1.5cm下を打てば長打性の当たり、しかし3cm下ならポップフライ。身長の7/180≒1/25の大きさの球体を、これだけの精度でもって打ち抜かねばならない…

 

ということは、ただでさえ難しいのがバッティングなのですから、なるべく「自分でバッティングを難しくする」ことは避けたいのです。

そのために必要なのが、先ほどの落合氏の言にもあるような「目の錯覚」の排除。

特に、

①「上下の目線のブレ」

②「奥行きの目線のブレ」

この2つを極力排除することです。

 

上下に目線がぶれればぶれるほど、また奥行きの目線のブレが大きくなればなるほど、打撃の確実性は落ちます。

そして、

「ウェートシフト要素が大きければ大きいほど目線のブレは大きくなる」

「ローテーショナル要素が大きいほど、目線のブレは小さくなる」

といえます。具体的に比較してみましょう。

たとえば、かなり重心運動を大きく行っている(ウェイトシフトとローテーショナル、両方の特徴を併せ持つタイプの打者である)ソフトバンク柳田選手は、だいたい

①「上下の目線のブレ」が20cm程度、

②「奥行きの目線のブレ」が40-45cm程度

生じています。つまり柳田選手は、打つときに「上から下へ20cm、捕手側から投手側に40-45cm動いている」わけです。

 

では、逆にほとんど頭の位置が動かない打者の場合はどうでしょうか。

出塁率も長打率も兼ね備えて「人類最強打者」との呼び声高いバリー・ボンズ選手を見てみましょう。

バリー・ボンズ選手の場合、

①「上下の目線のブレ」が約25cm で、こちらは普通の打者とさして変わらないのですが(上下の目線のブレはどんな打者でも多少は生じるものです…)

②「奥行きの目線のブレ」は、なんと「マイナス10cm」程度です!

「マイナス10cm」ということは、つまり「打つときに、投手側から捕手側へと目線が引いている」わけです。

 

普通は逆ですよね。

普通、目線は「捕手側から投手側へ近付いていく」ものです。

バッティングでは「捕手側から投手側へと身体全体が移動する」のですから、それにつられて目線(頭部)も投手側へと近づいていくのが通常です。普通は「目線がボールに向かって近づいていく」ので、近付いた分だけボールの見切りが早くなります。

しかしバリー・ボンズ選手は逆に「投手側から捕手側へと目線が下がっていく」のです。ということは、ボンズ選手のように「目線がボールから引いていく」場合は、近付いていく場合の逆の結果になります。

要するに、ボンズ選手のような「ヘッドバック打法」ならば、ボールを極限まで引きつけることが可能です。ただし当然ながら、非常に高い打撃技術と強靭なフィジカル(体格・筋力)が要求されます。

 

参考までに紹介すると、バリー・ボンズ選手は長距離打者にありがちな「ブンブン振り回して、本塁打も多いが三振も多い」タイプではありませんでした。2004年には出塁率.609、長打率.812を記録しています。その時のOPSはMLB記録の1.422。また同年は「45本塁打41三振」。つまり三振よりも本塁打のほうが多く、ボンズ選手の打撃の確実性の高さと卓越した長打力がわかります。なおMLB通算の出塁率は.444で、「出塁率.500以上、長打率.700以上」を4年連続で達成しています。

 

イチロー選手のすごさ

「重心移動の大きさ」の点から言えば、イチロー選手は稀有な存在です。

打席のなかでこれほど重心移動を行っているのですから、かなりボールに近付いています。画像で見る限り、奥行きで50cm近く目線のブレが生じています。

よく「イチロー選手のバッティングは真似しちゃいけない」と言われることがありますが、

「なんで真似しちゃいけないの?」と考えてみましょう。

 

私なりにイチロー選手のバッティングを分析してみると以下のようになります。

イチロー選手のバッティングについて私見

圧倒的な経験値の蓄積…幼少期から「ボールの軌道」をひたすらインプットし続けてきた。また「どのボールをどう打てばどこに打球が行くか、どのボールをどう打てばヒットにできるか」というパターンを蓄積し続けてきた。間違いなく打撃演習量の蓄積が世界でナンバーワン

驚異的な動体視力…幼少期から「対向車のナンバーで足し算をして遊ぶ」といった訓練を積み重ね続けてきた(ちなみにイチロー=視力悪い説はガセとのこと)

ハンドアイコーディネーション能力…いわゆる「目と手の連携」「当て勘」がもともと優れていたところに、圧倒的な量の打撃演習量をプラスした

身体の操作の巧みさ…徹底的な体のケアと初動負荷トレーニングの結果、自分の身体を思い通りに操る能力が非常に高くなった。渡米前も「身体を思い通りに動かす能力ならだれにも負けない」と発言していた。スイングの最後の最後までバットをコントロールできる

足が速く、内野安打も稼げる(ヒットの23%が内野安打)

⑥それほど四球を選びに行くタイプではないので、そもそもボールから目を切るのが早くてもあまり支障がない

もともと長距離も打てる技術(フリー打撃ではスイングのほとんどが柵越え)を持っていて、「身体を素早く回転させるコツ」も知っている。ヒット狙いのときは身体の回転をあえて抑えてヘッドスピードを落とし、バットコントロールに集中することもできる

こうしてみるとイチロー選手は、一般的な「非力な走り打ちの左打者」「逆方向にチョコンとおっつけるのが上手いだけの打者」とはむしろ対極にあると言えるかもしれません。

「飛距離を担保しておいた上で」、あえてヒット狙いに徹している印象があります。

 

その他補足事項:骨盤が前傾していると身体の回転がスムーズになる

ちなみに、「骨盤が前傾していると身体の回転がスムーズになる」ともいえそうです。

 

「骨盤が回転すると上体・肩も回る」のですが、そもそもなぜ骨盤→上体へと回転が伝達されるのかというと、

骨盤が回転→骨盤に接続している脊柱が回転する→それを捻り戻そうとして上体の回転が起きる

のです。

 

しかし、「初動負荷理論による野球トレーニング革命」に

・「骨盤が前傾していると、捻り戻しがすぐに適切なタイミングで起きる」

・「骨盤が後傾していると、捻り戻しのタイミングが一瞬ズレる」

という意味の記述がありました。つまり、骨盤が前傾している打者であれば、骨盤が回転すればすぐに上体もついてくる……のですが、骨盤が後傾している打者だとそうもいかず、上体の捻り戻しが一瞬遅れてしまうそうなのです。

 

私がよく読んでいる「少年野球ブログ」様に、それを確かめるための良い感じの実験が載っていました。

骨盤を前傾させて、片方の足を回してみると(右打者なら、軸足=右足を内旋させる)、上半身の向きが変わるくらい、肩も回ってしまう。

しかし、猫背になり骨盤を後傾させて、片足を回してみると、上半身の向きはそのまま、つまり上半身にまで伝わらない。

どうやら、バッティングで「上半身の回転をスムーズに行う」ためにも、骨盤前傾は有利なようです。

 

実際、外国人打者はこのように「手首を返さない かつ 捕手側の上半身がしっかりと前に出てくる」打者が多いのに対して…

日本人打者は「手首が返っている かつ 捕手側の上半身が前に出る」、あるいは「そもそも捕手側の上半身がそれほど前に出てこない」フォロースルーをとる打者が多い という傾向があります。

この原因(遠因)となっているのも、「骨盤が後傾していることによって、上体の捻り戻しのタイミングが一瞬遅れること」だと思われます。

 

また、上体の捻り戻しのタイミングが一瞬遅れる……ということは

「インパクトの瞬間に、捕手側の上半身がしっかりと<入って>いるかどうか」

にも影響します。この画像↓のようなイメージです。

要するに、「腰の入ったスイングになるかどうか」「腰砕けのスイングになるかどうか」の違いです。

単純な話、骨盤後傾のために上体の捻り戻しのタイミングが一瞬遅れれば、上体が回るタイミングがワンテンポ遅くなるので、「インパクトの瞬間に捕手側の上半身が回転しきっていない(しっかりと腰が入っていない)スイング」になりやすくなります。

逆に、骨盤が前傾していて上体の捻り戻しのタイミングのズレがないなら、上体は素直に素早く回転するので、「インパクトの瞬間に捕手側の上半身が回転しきっている(腰の入った)スイングになりやすくなります。

 

当然ながら、打球速度が高くなるのは「腰が入っている・上半身がきちんと回り切っている」スイングのほうです。

 

 

 

この記事のまとめ

Q.なんで外国人はいかにも外国人的な打ち方をするの? なんで日本人は日本人っぽいスイングになるの?

 

 

・打撃フォームについて:①自然科学の法則 ②身体の法則 といった打撃の根本原理は日本人でも外国人でも一緒。ただし、その①②にしたがうなかでも、「身体の違い」と「身体の違いに由来する、最適な動作の違い」によって、日本人と外国人とのバッティングの違いが生まれている。

 

・外国人打者は「骨盤前傾with肩甲帯伸展」という特徴を持つ

「骨盤前傾度合い+股関節伸展筋力が強い」ほど、ローテーショナル打法がマッチしやすい。したがって、ほとんどの外国人打者はローテーショナル打法を採用する。

・日本人打者は「骨盤後傾with肩甲帯屈曲」という特徴を持つ

「骨盤前傾度合い+股関節伸展筋力が弱い」ほど、ウェイトシフト打法がマッチしやすい。したがって、日本人打者の打ち方は全体的に「ウェイトシフト気味」になる。ただし、「極端なウェイトシフト打法」はすでに絶滅していて、日本人打者の多くは「ウェイトシフト寄りの中間型~中間型~ローテーショナル打法」へと移行しつつある。これは①トレーニング環境の充実 ②ローテーショナル型の打者のモデルが増えた ことに起因する。

 

・総合的に考えると、これからの時代は「ローテーショナル型の打者」が増えていく。ローテーショナル型は「フィジカル強化」という条件さえクリアすれば、打球速度や打球角度や確実性や対応力という点で優れているため

ローテーショナル打法 比較項目 ウェイトシフト打法
フィジカルが強ければ上がりやすい。

→MLBではスタントン選手が194km/hを、NPBではペゲーロ選手が193.5km/hを記録。ただし、打者のフィジカルが弱い場合、打球速度はウェイトシフト打法に劣る

打球速度 フィジカルがさほど強くない打者でも、「ヘッドスピードが最大化する投手寄りのポイント」で打てば、ある程度の打球速度が出る。しかし「フィジカルの強いローテーショナル型打者」に比べれば、やはり打球速度は劣る。
上がりやすい。打ち方的にバットがやや下から上(slightly upward)へと振られるため、ボールには「下から上へカチ上げるような力」が加わる 打球角度 上がりにくい。打ち方的にバットがダウンスイング気味になりやすく、ボールには「上から下の力」が加わってゴロになりやすい傾向がある

極端なウェイトシフトで飛ばすには「前でさばく」かつ「ボールの下にバットを入れる」必要がある

高い。

①打撃時の重心移動・並進運動の距離が少ないため「目線の上下奥行きのブレ」が少ない

②打撃時の並進運動の距離が小さいぶん、ボールを長く見ることができる。バリー・ボンズ選手などは「構えよりもインパクトの時のほうが目線が捕手側に下がっている」というヘッドバック型のスイングを完成

③スイングのために必要な動き・予備動作が少ないため打撃の再現性が高い

確実性 低くなる。

①打撃時の重心移動が大きいため「目線の上下奥行きのブレ」が大きい

②打撃時の並進運動の距離が大きいぶん、ボールから目を切るのが少し早くなる

③スイングのために必要な動き・予備動作が大きいため打撃の再現性が低い

ムービングファストや高速変化球には(ウェイトシフトよりも)強い。クイック投法やスローボールにも比較的対応しやすい 対応力 ムービングファストや高速変化球に弱い。また足を高くゆったりと上げる選手が多く、外国人投手のクイック気味の投法に合いづらい
・実打・ドリル系中心

・素振りは熱心にはやらない

練習方法 ・「ウェイトシフトによってバットを加速させる」ために、素振りが重視される
強いフィジカル(身体各部の質量・筋力:特に股関節伸展筋力・筋量・パワー)が備わっていないと打てない 求められるフィジカルのレベル ・少年野球選手はほぼ間違いなくウェイトシフト打法

・イチロー選手や落合選手のように、ウェイトトレーニングを(ほぼ)しなくてもかなりの成績を残せるウェイトシフト型の選手が一応存在していた(いる)

……が、あまりにも神懸かり的なので再現性はどうなのか? というところ。もちろん現在のNPBではウェイトトレーニングはかなり普及しつつあり、選手のフィジカル向上と並行して、打ち方は中間型・ローテーショナル型へと移行しつつある

 

その他 ・重いバット・長いバットを扱いやすい

(→藤村富美男さんの「物干しざお」や、落合選手・中村紀洋選手・野村克也さん・門田博光さんらの「長いor重い」バットなど)

 

結局、「個々人のバッティングをどうするか?」という選択は、選手各人に委ねられています。

その方向性を考えるために、今回の記事がお役に立てばと思います。

長い記事でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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