目次
「練習では打てるのに試合では…」という選手・チームへの処方箋(昨日の記事の続き)
確実性と飛距離を同時に求めると、結局同じような打ち方に収束する。その打ち方が現代のメジャーリーグで主流となっている
「0.0数秒の遅れ・数ミリ数センチのズレを修正する」には?
前回の記事の続きですが、
「練習では打てるのに試合では…」という人が手を付けるべきなのは、
2.試合に出ながら修正を繰り返す。これまで失っていた0.0数秒の遅れ・数ミリ数センチのズレを修正する
ここなんだよ、という話をしました。
では、なぜ「試合に出ながら修正する」なのか?
練習の時点でさっさとやっておけばよいのではないか?
そう思われるかもしれませんが、
「練習でボロが出ることがなくても、試合になって初めてボロが出るケース」が案外多い
のです。
つまり、練習だけじゃ気づけない欠点がある。試合になってはじめて出るボロがあるのです。
基本的に、練習では打ちやすい球・タイミングがとりやすい球・比較的遅い球しか打たないですよね。
しかし試合になると途端に、相手投手は
「奥行き・間合い・左右の幅・球種の組み合わせなど、あらゆる手段を使って揺さぶってくる」
わけです。
試合になると一気に攻められ方が厳しくなるのですから、練習のときには見逃されていた「0.0数秒の遅れ」や「数ミリ数センチのズレ」が露呈します。閾値を超えてしまうと「とたんに打てなくなる」のです。
野球というのは、約17m先から変化しながら150km/h近い高速で飛んでくる直径約7cmのボールを0.数秒の反応で打つスポーツです。ボールの中心より7mm下をたたけばホームラン、14mm下ならポップフライ…というスポーツですから、「0.0数秒の遅れ」や「数ミリ数センチのズレ」が致命傷になります。練習なら打ち直しできますし何球も打てますが、基本的には試合では打ち直しはききません。練習では「確実性のなさ」を痛感することは少ないでしょうが、試合ではそうもいきません。
だからこそ「狙ったところに狙ったタイミングでバットを出せる能力=確実性」が試合でコンスタントに結果を出すために必須なのです。いくら良いスイングをしていようとも、毎回かならずボールの一個分下をバットが通るのでは打率はいつまでたっても0割です。
この「練習と試合との違い=多少確実性がなくても打たせてもらえるかどうか」をきっちり認識しておく必要があります。
ここを認識したうえで適切な対策を打たないと、「練習では打てるのに試合では…」という打者になってしまうわけです。
たとえば、贔屓球団か自分のチームにこんな感じの打者はいないでしょうか?
練習ではものすごい当たりや柵越えを連発して監督やチームメイトからの期待値は高いのに、
試合になると「インの直球にどんづまり→抜き球をひっかけて内野ゴロ→高めのストレートをファールフライ→甘い球を簡単に見逃して追い込まれ、外の変化球にバットが止まらず空振り三振→たまに甘い変化球やど真ん中付近に来たストレートにはバットが合って、まぐれ当たりが出る…」というサイクルをひたすら繰り返す打者。
こういう選手を見るにつけ、非常にもったいなく思います。
ポテンシャルは高いのに…と言われ、本人も周囲も悶々とした思いを抱えることになります。
そこで、今回の記事では、
「練習では飛ばせる打者が試合でも打てるようになる方法」
=「確実性を担保するにはどうするか?」
を紹介します。
確実性を上げる要素、下げる要素
「確実性=狙ったところに狙ったタイミングでバットを出す」
という能力は、高いにこしたことはありません。
打撃フォームについていえば、以下の4つのポイントが主なものとなります。
練習で打てる人が、試合でも打てるようになるための長期的な改善点1.体重移動(並進運動)の距離と時間を短くすることによって、①無駄な動きを減らして再現性を上げる ②目線の上下・奥行きのブレを減らす→3と並行して行うと、飛距離と確実性を両得できる。ジョーイ・ボットー選手やクリス・ブライアント選手やミゲル・カブレラ選手やホセ・バティスタ選手やマイク・トラウト選手やミゲル・カブレラ選手などが良い例2.肩のラインを捻り過ぎない。斜め45度くらいに最小限だけ捻って回転するイメージで打つ。別の表現をすると、肩甲骨をタテに使うイメージ。胸郭の向きはなるべく変えずに肩甲骨だけを使ってバットと腕を引く感じ→肩のラインを水平方向へと捻ると、ひねり戻しのタイミングを合わせるのが難しくなる。タイミングが合わせやすい置きティーやフリー打撃ではいいが、実戦だと確実性が大幅に下がってしまう。緩急や左右の幅への対応が難しくなる3.バットの芯がボールの軌道となるべく重なるようなスイング軌道を練習から徹底する→ボールは10度くらい上から下に来るということを念頭に置く。思ったよりカチ上げるくらいでちょうどよい。コツとしては、「肩の回転面をボールの軌道に合わせてやや斜めに傾けておいてから振り出すイメージ」「振り出すときに、肩の回転面とバット軌道を一致させて(平行にして)おくようにする」。この2つを踏まえたうえで、あとは「軸足の内旋と踏み出し足の膝伸展」によって鋭く骨盤を回転させてやれば自然にバットがボールの軌道と重なるように出てくるはず4.バットを体に近いところで操作する。構えで耳の横あたりに置いておき、ステップする時に最小限だけ引いて準備する5.スイングの力感は「8割くらいの力でコンスタントに打ち返す」感じ。マン振りではなく、ちょっと力を抜いて振るくらい
この5つのポイントを踏まえておけば、試合での投球に対しても対応しやすいはずです。
なお、「確実性を下げる要素」は、その真逆です。
↑のまったく真逆をやれば、確実性はみるみる下がります。
確実性を下げる打ち方
1.体重移動(並進運動)の距離と時間を長くする
→①無駄な動きが多くなり再現性が下がる ②目線の上下・奥行きのブレが増える
2.肩のラインを大きく捻る。投手に背番号が見えるくらい。水平方向へとせいいっぱい捻って、その捻り戻しの力を活かして打つ
3.「バットの芯がボールの軌道となるべく重なるようなスイング軌道」以外の軌道を採用する。極端なアッパースイング・極端なダウンスイングなど
4.バットを身体から離して操作する。ボトムハンドをめいっぱい張ってオーバースイングする
5.マン振りする
ホームランドラコンならこういう(※3のみ除外)打ち方でもいいと思いますが、試合でコンスタントに打つということを考えるとまったくおすすめできません。
しかし、実際は、試合でもこういう打ち方をしている選手が多いのです。
前述のとおり「練習で打てたから試合でもこれで行こう」という落とし穴にはまってしまった人々です。
なまじ練習では飛距離が出るだけにそれに固執してしまいがちです。
試合でコンスタントに打つということを考えると、前者の「確実性を上げる打ち方」をしておきたいですよね。
指導者の側からしても、コンスタントに長打・単打を打ってくれる打者と、たまーに誰も打てないようなものすごい当たりを飛ばす打者とでは、コンスタントに打ってくれる打者を使うはずです。
要するに、「メジャーリーガーの打ち方を参考にするといいよ」
私がよくお世話になっているTwitterのアカウントで、
「Craig Hyatt」
という方?のタイムラインには、メジャーリーガーの打者の打ち方がたくさん載せられています。
MLBの強打者たちのフォームをずっと見ている私個人の感想ですが、
「最近のメジャーリーガーの打ち方ってだいたい同じだよな」
と思っています。
たとえば、さきほど挙げた5つのポイントはほとんどのMLBの打者が満たしています。
CraigHyatt氏のタイムラインを追ってみるとわかりやすいでしょう。
1.並進運動の距離と時間が短い。重心移動の距離が短い
2.肩のラインを水平に捻りすぎていない。斜めに最小限捻っている
3.バットの軌道がボールの軌道とほぼ一致している
4.バットを身体に近いところで扱っている
5.マン振りというよりは、8割くらいの力で気持ち良く振っているように見える(身体がねじ切れるほどのフルスイングをしている打者が少ない)
他にも「ローテーショナル打法」「その場で回転するように打つ」「重心は前に出さないけど体重移動はしっかりする」といった表現はありますが、基本的にはこれらのポイントを押さえた打者が活躍しています。
MLBといえば、平均球速が150km/hを超え、140km/h台の高速チェンジアップやSFF・カットボールが飛び交う世界。入れ替わりも激しく、すぐにクビになる世界です。
淘汰圧が強いため、「打ち方がおかしい打者は結果が残せずあっという間に淘汰される」のでしょう。淘汰された結果として、今回の記事で紹介したような「確実性を高める要素をきっちりと備えた打者」ばかりが生き残っているのだと思われます。
「メジャーリーガーは上半身に頼った打ち方をしている」「メジャーの打者は粗い」といったことをいまだに言っている人もいますが、実際はメジャーリーガーのほうが技術面においてはるかに洗練されているわけです。満を持してMLBに移籍した日本人打者のほとんどがNPB時代ほどの打撃成績を残せていないことなどからも明らかですね。
※ごくまれに、イチロー選手やハーパー選手やムーキー・ベッツ選手のような「かなり大きく重心を移動させる=目線のブレが大きい打者」が出ることもありますが、彼らにしてもそれをカバーするだけの何か(ハンドアイ能力や打球コントロール技術など)を持っています。
※「確実性が上がる打ち方」には、「フィジカルの強さ」が代償として必要となります。タダで確実性が上がるほどおいしい話はありません。MLBの打者って、基本的にデカい・ゴツいですよね?
おわりに
なお、今回の記事では
・ハンドアイコーディネーション能力
・ビジョン能力(動体視力など)
・当て勘
・クセを見抜く能力
といった要素は省きました。これらを具体的に説明するのは非常に難しいためです。
とりあえず、「練習では打てるのに試合では…」というタイプの人は、長期的に以下のポイントを改善してみてはいかがでしょうか。これらのポイントはいずれも「0.0数秒を稼ぎ出す」「数ミリ数センチのズレを消す」ために役立つものです。
1.並進運動の距離と時間が短い。重心移動の距離が短い
2.肩のラインを水平に捻りすぎていない。斜めに最小限捻っている
3.バットの軌道がボールの軌道とほぼ一致している
4.バットを身体に近いところで操作している
5.マン振りというよりは、8割くらいの力で気持ち良く振っているように見える(身体がねじ切れるほどのフルスイングをしている打者が少ない)
そして、これらはメジャーリーグで現在主流となっている打ち方である、とも。
以下に具体的な例を10つほど載せておきます。
Manny Machado HR #13 (RCF). 0-0, 94 mph away. pic.twitter.com/I5PzTaxb8V
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 12, 2018
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 14, 2018
Kris Bryant HR #8. 0-1, 77.8mph SL away. pic.twitter.com/rNwv4YTTnM
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 15, 2018
Trevor Story HR #8. 1-1, 79.3mph RH SL in. pic.twitter.com/zTxdJma3dj
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 11, 2018
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 11, 2018
Ozzie Albies GS HR #11. 1-1, 88.9mph SL. pic.twitter.com/SmhSE4mR68
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 11, 2018
CLE announcer shared Lindor's (10th HR/Player of the week) comments about his changes- said he's slowing things down, trusting his hands to allow the ball to get deeper in and/or he can shoot it the other way. He feels comfortable by slowing everything down. Appears so- 96.4 in pic.twitter.com/B0DkUHQwLW
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 10, 2018
Justin Upton HR #7. 1-1, 82mph SL in. pic.twitter.com/JDdsBnJk6m
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 9, 2018
Jose Ramirez HR (CF) #10. 2-2, 89.3 mph FB. pic.twitter.com/ayAumcOeHF
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 9, 2018
Marwin Gonzalez HR #3. 2-2, 94.4 mph in. pic.twitter.com/rlpiae8eAv
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 8, 2018
Nolan Arenado HR #8. 1-1, 94mph. 106exit , 24°, 430ft. pic.twitter.com/6PnAxYtjRg
— Craig Hyatt (@HyattCraig) May 5, 2018
一言でいえば、メジャーリーガーの打ち方というのは、一般的な(古い)イメージである「豪快にブンブン振り回す」とは逆でとてもシンプルです。確実性と飛距離を両立しようと思えばこういうスイングになるわけです。例外もありますが、例外には例外なりの「そうであるべき理由」があるのです。
今回の記事が、打撃向上に役立てば幸いです。
では、また明日!