「ピッチング」と「ブリッジ」の奇妙な関係
ブリッジできない人は…?
一流投手の共通点:「こいつブリッジできるだろうな」と思わせるような場面がある
良いピッチャーの投げ方を観察していると、「ボールを投げる側の肩関節の最大外旋角度出現からのボールの加速がスムーズ」という共通点があることに気付きます。肩関節の最大外旋角度出現とは、↓の瞬間のことです。Maximum. External Rotationを略してMERとも呼ばれています。

(腕のしなりと前鋸筋 より)

さて、この「スポーツ動作の科学」という書籍の表紙を見るとよくわかりますが、
ボールを投げる側の肩関節の最大外旋角度出現の直前になると、ボールの移動速度はほぼ0になります。
そこから最大外旋角度が出現して、「最大外旋からの捻り戻し=肩関節内旋」と「肘関節が伸びる動き=肘関節伸展」を伴いながら、ボールが一気に打者方向へ向けて加速されていくわけです。

……さて、「ボールを投げる側の肩関節の最大外旋角度出現」と先ほどから何度も言っていますが、
実は「肩関節外旋角度」だけが重要なわけではありません。
肩関節最大外旋時には、「胸郭の伸展角度」や「肩甲骨の後傾角度」も大きくなっています。

この時、肩関節が一番動いている様にみえますが、実は肩関節の捻りは30°~40°しかしていないと言われています。
あとの残り140°のうち120°程度を胸と肩甲骨で行っていると言われます。ご存じの通り、胸と肩甲骨の柔らかさが非常に重要です。https://t.co/uk4vlj34yh pic.twitter.com/Kxc1VJONNt
— スポ.ラボ (@Spo_Lab) July 3, 2018
要するに、
・良いピッチャーの共通点…「投球側肩関節の最大外旋角度出現からのボールの加速」が非常にスムーズである(いわゆる腕のしなり)
・しかし、肩関節の最大外旋角度だけで「しなり」が生まれているわけではない。「肩甲骨の後傾」や「胸郭の伸展」なども大きく貢献している
ということです。
では、ここから何が言えるか?
私が力説したいのは、
「ピッチャーはきちんとブリッジくらいはできるようにしとかないとね」
です。
さて… pic.twitter.com/8OF9rtDXPA
— 栗山 彰恭/Tadayoshi KURIYAMA (@HU_KURI) July 3, 2018
ブリッジすらできないのになぜうまく投げられると思うのか?
まず、
「やりたい動きがあるのに、筋肉の物理的な硬さや筋力不足が邪魔をする」
というのは、本人に自覚しづらいところで起こっています。
単純に、開脚で地面に肘すらつかない人が急に胸を付けようとしても無理ですよね?
それと一緒で、可動域の狭さが邪魔をするケースというのは結構あります。
「柔らかければ良いってもんじゃない」…のは確かですが、
これまで見てきた経験上、「最低限の柔らかさは前提条件」であり、「硬さが邪魔をする」ケースも多いです。
どこか特定の箇所だけが硬い(弱い)と、それを補うために他の部位が犠牲(代償)となります。
そうなると、ピッチングでも
1.「肩関節の最大外旋角度が出せない人」
2.「胸郭の伸展角度が出せない人」
3.「肩甲骨の後傾がうまくできない人」
は、大分損をしていることになります。
1.については正直、ピッチングという動きの中で意識せずとも自然に出てくるものなので、現在肩に故障を抱えている人でもない限り、さほど重要視しなくて良いかもしれません。
ピッチングでは「腕の先にボールという重りを持っている」ので、普通に投げればボールの重さ分だけ腕が取り残されて肩の外旋角度はかなり大きくなります。釣り竿がしなるような感じです。普通に立った状態で腕を自力で後ろにやるよりも、ボールを投げるときに自然に腕が後ろに取り残されるときのほうが外旋角度は深くなります…ので、私はさほど重要視していません。
むしろ、多くの投手が改善すべきなのは2.と3.です。
2.「胸郭の伸展角度が出せない人」
3.「肩甲骨の後傾がうまくできない人」
これが意外と多いのです。
2.と3.がうまくできないということは、
A.その分をどこか別の部位に代償してもらわないといけない
または
B.どこにも代償させないでそのまま投げる
という2通りの道に分け入ることになりますよね。
Aの道に入ると肩か肘かのどちらかをケガしやすくなります。
Bの道に入ると、ケガのリスクは多少下がるかもしれませんが今度は球速が伸びません。
どっちに転んでも「良い投手」には程遠いですね。
そうなると、投手が最低限やるべきなのは
2.「胸郭の伸展角度が自然に出せるようになること」
3.「肩甲骨の後傾が自然にできるようになること」
この2つではないでしょうか。
そして、「きれいなブリッジの体勢」というのはこの2つが組み合わさって初めて実現されるものです。

366日間フィットネスチャレンジ
ブリッジの変化はこちら。#366日間フィットネスチャレンジ#backbend #ブリッジ pic.twitter.com/MzNO18qHdG— 池田仁@はだし先生 (@hadashisensei) May 6, 2018

だからこそ私は、「ブリッジもできないのに投手やってるの? それでいいの?」と思うわけです。
順序と組み合わせについて:いきなり高難易度のものにチャレンジする必要はない
ブリッジそのものを熱心にやるのも良いですが、ブリッジだけやっていれば万事解決…というわけでもありません。
ブリッジは「胸椎伸展・肩甲骨後傾がスムーズにできるかのチェックor感覚を掴む」ためにはかなり使えますが、
そもそも可動域に乏しいと最初からフルでブリッジをやるのは難しいです。
そこで、
①ブリッジを段階的にやる
②ブリッジと組み合わせると良いメニューがたくさんあるので、それらも並行して行う
のがおすすめできます。
①ブリッジは「10ステップ+α」に分割する
①についてですが、これは『プリズナートレーニング』に10ステップに細分化されたものが載っていますのでそちらをご参考にしてください。1ステップ目は「ショート・ブリッジ」というごく簡単なもので、最終的には10ステップ目の「スタンド・トゥ・スタンド」という大技にまでたどり着きます。
ちなみに10ステップ終了後は「ブリッジからの後方回転」や「バック転」などにも移行することができます。1ステップごとにじっくり慣らしていくことができれば、確実に10ステップをクリアすることができますので、非常におすすめです。
②ブリッジと組み合わせると良いメニューがたくさんあるので、それらも並行して行う
「ブリッジ」と平行して行ってみると良いメニューがいくつかあります。
「ぶら下がり」「立甲」「うんてい」「ウィングストレッチ」「逆立ち」「開脚」、このあたりです。
ぶら下がり
「ぶら下がり」は単純ですが効果絶大です。
ぶら下がりをきっちりやっておくと、ブリッジのみならず逆立ちなども比較的簡単にできるようになります。
行うのは、「順手」「逆手」「大逆手」この3種類。だいたい各20秒×2-3セットくらい。
立甲

いわゆる「立甲」も、前鋸筋の柔軟性確保に効果の高いストレッチの一種です。前鋸筋は肋骨と肩甲骨を接続する筋肉で、前鋸筋が収縮すると肩甲骨は身体の前のほうに出てきます。
ということは、前鋸筋が硬い(硬いという言葉の定義に迷いますが、とりあえず「十分に伸ばすのが難しい」くらいで)と、それだけ肩甲骨は身体の前のほうに出てきます。逆に、肩甲骨を身体の後ろに向けて「はがす」(立甲の動き)と、前鋸筋はストレッチされます。
(https://muscle-guide.info/serratusanterior.htmlより)
この図を見て頂くとわかる通り、前鋸筋が硬いと「肩甲骨の後傾」の邪魔になります。柔らかいと邪魔しません。ちなみに小胸筋も硬くなると後傾の邪魔になります。この2つの筋肉(前鋸筋と小胸筋)が硬くなるようだと投球に悪影響が出るだろうな…というのは直感的に理解していただけると思います。

(腕のしなりと前鋸筋 より)

「うんてい」
「うんてい」もおすすめできます。
原理はぶら下がりと一緒ですが、こちらのほうが高難易度です。
ぶら下がりに慣れてから行うことをお勧めしておきます。
ウィングストレッチ
もともとは初動負荷理論の本に載っていたものです。
体幹を捻る筋肉・肩甲骨周りの筋肉などを連動させながらストレッチする…ということで、特にピッチャーには推奨しています。某大学の野球部でも流行っているようです。



「逆立ち」
ブリッジ・ぶら下がり・うんてい・立甲などにプラスして、「逆立ち」もおすすめできます。
逆立ちのメインの目的は3つあると考えてます。
①身体全体の重心感覚を養う。両手の間に重心から引いた垂線を下ろさないと倒れる。身体全体の重心位置を感知する訓練になる
②身体全体を使ってバランスをとる感覚を磨く。固有受容器(前庭感覚・筋肉にある筋紡錘や腱にあるゴルジ腱器官など、身体の上体を感知するセンサー)の能力を向上させる
③体幹の筋肉や肩周りの筋肉に刺激を入れること。特に腹横筋の締まりや「肩を入れる動作」の習得など
どれも重要ですが、特に③ですね。
右側画像の「肩が前に出ている」は要するに、肩甲骨の後傾が甘いということだと解釈できます。
左側は俗にいう「肩が入っている」逆立ちです。肩甲骨がより後傾しているのがわかります。

(http://www.geocities.jp/nekokupi/daredemo.htmlより)
…ということは、逆立ちがうまくできるようになれば
「肩甲骨が後傾している状態を覚えることができる」
とも考えられます。そのほかにもたくさんメリットはありますが、ブリッジと平行して行うことでピッチングにも活きてくるでしょう。
おわりに
今回の記事で紹介したようなトレーニングを理屈含めてこなしてもらえれば、
漫然と走り込んだり考えもなしにウェイトに励んだりするよりははるかに高速で安全に上達できると思います。
ぜひご活用ください。
では、また明日!