リア充を爆発させるのがお上手な朝井リョウさん―ぼっちをどう描くか―

      2016/08/31

「桐島、部活やめるってよ」で2009年度の「小説すばる新人賞」を受賞し、華々しいデビューを飾った新進気鋭の作家・朝井リョウ氏。

若年層のみならず、既に青春が遠い昔の思い出になってしまっている中年層からも支持される彼の作品から学べることはたくさんたくさんあって、とてもじゃないけど紹介しきれないのですが、

今回は、彼のもっとも高い評価を受けている技術、十八番である「自意識過剰でレッテル好きな現代の若者をどう描き出すか」を盗みましょう。実は、それはある図式を使えば簡単に描けるんです。

 

「桐島、部活やめるってよ」と「何者」で共通して描かれている、「リア充のキャラクターと、それをうらやむ非リア充の主人公」という図式

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自分の作品で「嫉妬する奴の心理を克明に描きたいんじゃ!」と思う方は多いでしょう。

でも、自分の力だけではどうにも難しいはずです。嫉妬する奴の気持ちを文字に起こすのって、正直かなり面倒臭い。

そんな時は、先人の上手なやり方を真似してあげればいいんです。

具体的なキャラ名などの要素だけ変更して、骨組みだけパクってしまえばいい。

それだけで、自分の作品にも簡単に「愛憎なかばする登場人物たちの心理がよく描き出されている」というもっともらしい評価が付きます。

「何者」では、「人当りが良くて要領も良い、リア充のバンドマン」というキャラクターに対して、就活も演劇部の活動もいまいちパッとしない、どちらかといえば日陰者である皮肉屋の主人公の心理が描かれています。

一方、「桐島、部活やめるってよ」でも、「チーム内の要である、彼女持ちの、バレー部のキャプテン」という典型的なリア充のキャラクターに対して、万年控えに甘んじている主人公がどういう思いを抱くのか――を題材にした短編が挿入されています。

 

 

……似ていますね。

朝井リョウは、この図式をよく用いていることがわかります。

現実の若者が、誰しも多少なりともこんな風な心理になるからこそ、それをうまく利用して作品の中で生かしているといったところでしょうか。ならば、使わない手はありません。この構造を上手に真似すれば、簡単に若者の共感が得られるはずです。

実際「イマドキの若者」という年齢である私にしてみても、「そうそう、こうなんだよ」と納得させられる構造になっております。

 

「嫉妬の公式」を、どう応用するか?

この二つの作品で利用されている図式を抽象化すると、こんな感じになります。

『どんなときでも自然にふるまい、頭の回転が速く、いともやすやすと主人公が手に入れられないものを手に入れる、能力が高く嫌味もない、ハイスペックなリア充キャラクター。

それに対して、

そのリア充のことを羨ましく思いながらも、自分で自分を変えるための行動は何も起こさずに、人間観察をする自分をかっこいいと思う一方で、他人の努力を冷めた視線でしか見ない、そのくせ自意識過剰な主人公』

という公式になります。

もちろん、これをそのまま活用するのも良いでしょう。

ただ、それだと芸がなさすぎるような気がしますから、いくつか応用・発展のパターンを考えてみます。

 

発展① 主人公の傍観者的な性格を強調したい場合

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・基本的に、小説の主人公というものは、「悩むやつ」か「悩まないやつ」かといえば、圧倒的に「悩むやつ」の方が多いんです。それは、読者にも一緒になって考えてもらうことで、物語にのめり込んでもらうという効果が期待できるから。

・そのために、「リア充キャラ」と「主人公」に加えて、「リア充の輪に入ろうとしている痛いヤツ」を登場させる。その「がんばってるけど痛いヤツ」を見ながら、主人公は「ホラ、目立たない人が目立とうとするとああなる。身の程を知ろうや」と感じます。主人公と読者を同一化させるテクニックです。ちなみにこのやり方は、同時に、リア充キャラがいかに特別な、天賦の才能を持っているかを強調することにもなります。

 

発展② リア充キャラの方の心理も描く

・公式を逆にしてみましょう。「リア充キャラ」が、「非リアキャラ」を羨ましく思うというパターンです。

・非リア充キャラによくある特徴として、「ニッチな趣味に没頭する」とか、「少数の、本当に気のあう奴とつるむ」というものがあります。それらに対してリア充キャラが、「おれはああいう熱中できる趣味がない」とか「おれのまわりにいる友達のうち、いったい何人が、この学校を卒業してからも付き合っていくのだろう。おれの友達は、たしかに多いけれど、どれも薄っぺらいトモダチなんじゃないのか」などと悩みます。

・物語に重みが加わります。単なる「非リア→リア充」という一方通行ではなく、その逆も描いてやることで、現実味が付加されます。

 

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