「甲子園への遺言」にみる伝説のプロ野球打撃コーチ・高畠導宏さんの稀代の「努力」

   

こんにちは、栗栖鳥太郎です。

きょうは書評記事になります。

今回紹介するのは、「甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯」という本です。

プロ野球界ではまさに「知る人ぞ知る」という伝説的な打撃コーチであった故・高畠導宏氏の波乱に満ちた生涯を描き出した傑作。著者はノンフィクション作家として有名な門田隆将氏(wiki)です。

高畠氏は打撃コーチですから当然多くの打者を育ててきたのですが、主な教え子としては、元ソフトバンクホークスの小久保裕紀氏(WBCでは監督をされていましたね)や、元メジャーリーガーの田口壮氏、元中日ドラゴンズ監督だった落合博満氏など、名だたる名打者たちの名が挙がります。

高畠氏は「伝説の打撃コーチ」ですから当然、数多くのエピソードや伝説を残しているのですが、それは本の中にたくさん書いてあるのでここでは紹介しません。その代わり、高畠氏が行っていた「努力」にスポットライトを当ててみようと思います。

書評と言っても、単なる書評ではなく、このブログならではの視点から評論してみます。

『甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ 高畠導宏の生涯』

希代の「努力家」だった高畠氏のエピソードを抜粋する

①少年時代

当時の高畠の野球の虫ぶりを表すエピソードがある。

岡山市の中心部を南北に流れる旭川。その堤防が、高畠少年の素振りの場所だった。いつも枕元にバットをおいて寝ていた高畠は、夜、目が覚めると、旭川の堤防にバットを持ってそっと出掛けていった。昼も夜も、高畠はひたすらバットを振りつづけた。

やがて掌は豆だらけになり、つぶれ、血が流れた。それでも高畠は、バットを振るのをやめない。血だらけの手を、水道で洗い流して、そして、また黙々と振りつづけるのだ。一日に何千回素振りをしていたのか想像もつかない。

「なんぼいうても、そこまでやらんでも……」

その凄まじさは、割烹旅館に同居する親戚の女性が、高畠の血だらけの手を見て涙を流したほどだった。

 

②岡山南高校の同級生による高畠評

「とにかくスピードが全然違う。バットをブン、ブンと振る音も迫力も、ほかの選手とはまるで違うとった。掌なんてこぶだらけですよ。豆がつぶれた痕なんです。バットを振らんと眠れんかった、と高はよういうとったが、あいつは一日中、バットを放さん男じゃったのう」(中略)

「まるでプロレスラーです。今と違うて、ダンベルなど器具を使って筋トレをやる時代じゃない。高は、その肉体をバットを振ることだけで作り上げていったんです。いったい一日に何千回、バットを振っていたのかわかりません。ユニフォームを着ていると気がつかんが、脱ぐと高のものすごい肉体が出てくる。胸囲が1メートル15センチ、太腿も70センチを超えとったのう。とても高校生の身体じゃなかった」

 

③中央大学時代

そして、中学時代からつづく”素振りの虫” ぶりも相変わらずだった。

「中大のグラウンドの外野の方は明かりもないし、暗いんです。夜中、その真っ暗なところで延々と素振りをやっていた高の姿を思い出します。あいつは人一倍努力家でもありました」

高畠がバットを振りつづけたのは、自分のためだけではなかった。恩師や母校に恩返しするためでもあった。

「高校時代、母校を甲子園へ連れていくことができなかった。せめて大学で活躍して、岡山南高校の名前を新聞に出したかった。レギュラーになれば、出身高校が新聞に出るからね。それに、神宮球場で打席に入る時に、”岡山南高校出身”とアナウンスされるのが嬉しくてね。少しでも母校に恩返しできていると思ったよ」

当時、高畠は知人にそんなことを語っている。

 

さらに、プロ野球のコーチとして三十年を迎えるころから、高畠氏は「高校教師になるための勉強」を始めています。50代後半のことですから、普通の人であれば「さて、そろそろ定年か。老後はどう過ごそうかな」と考えるころに、高畠氏は「高校野球の監督になる」という夢を持ってそれを目指し始めたわけです。高畠氏は、プロ野球のコーチという重責を担いながら、そのコーチ業が終わってから、夜ひとりで黙々と勉強していたそうです。ものすごい精神力としか言いようがありません。

 

野球における「努力」は特別な意味を持つ

私は過去に、このブログのなかで「努力という言葉の持つ意味を、一度明確にすべきだ」ということを言いました。多くの人は、努力という言葉をフワフワして抽象的な状態のままで使っているように思います。

(参考:日本に蔓延している「努力教」という病理について をご覧ください)

 

そこがあいまいなまま議論を始めようとするから、「 「努力しても報われない!私はどうしたらいい?」 悩める若者に「努力したら報われるというのがそもそも間違い」」という記事に見られるように、「努力は無駄だ」「いや無駄じゃない。成功者はみんな努力している」「でも努力は苦しいしやだ」という袋小路に入ってしまうように見えます。

 

特に野球界というのは体育会系の総本山といいますか、日本の精神主義の権化のようなところがありますから、

「努力!根性!あとは気合い!」

「努力すれば必ず花は咲く」

「結果が出ないうちは努力とは言えない」

といった言い方がよくされます。

数あるスポーツのなかでも、「努力」という言葉に特別な重みがあるように思います。

 

実際、桑田真澄氏が指摘したように、昭和から現在まで野球界には「野球道」のような考え方があって、「忍耐」とか「根性」とか「努力」といった抽象的な言葉がよく使われてきたという歴史があります。つまり、「努力や猛練習といった苦しいものを超えていくことそのものに価値がある」という価値観が根付いているのです。

 

そこで考えてみてほしいのが、前述した高畠氏の「努力」です。

普通であれば「高畠氏は素晴らしい努力をした。あそこまで苦しい努力を継続できたからこそ彼は大成できたのだ」となるでしょう。たしかに、素振りを一日何千回も何時間もやり続けるというのは、肉体的な辛さが半端ではありません。ましてや掌の豆が破けてもかまわず素振りしていたというのですから、痛みもあったでしょう。

常人なら、手の豆が破けたらそこで中断して、しばらく休むか、スイングの量を減らすはずです。

でも、高畠氏は素振りを続けた。

それはなぜか?

 

ひとつは、「素振りはすればするほど効果がある」という信念があったことに起因するでしょう。

「これはやればやるだけ効果がある」と確信していなければ、途中で「このくらいでいいだろう」と思って辞めてしまうはずです。おそらく、「素振りをするだけ自分は良いバッターになっていくな」という実感があったと思われます。

 

そしてもう一つは、「自分の肉体的な苦しさが、快感と結びついていた」であろうことです。

ランナーズハイがそうですが、人間の脳は、苦しさが閾値を超えると逆に「苦しさを緩和して気持ちよくなる脳内物質を出さねば」という指令を送るようになっています。

素振りという肉体的苦しさに対して、脳がベータエンドルフィンやセロトニンという快楽物質を分泌していたと予想されます。そのため、肉体的にはたいへんキツいことであっても、精神的にはむしろ「もっともっと振って、気持ちよくなりたい」という感覚があったのではないでしょうか。

 

ほかにもいくつかの要因があるとは思いますが、↑の二つの条件は「確実に継続できる努力」をするための必要条件だと考えられます。うまくなる実感がなくてもダメでしょうし、単に苦しさしかなくてもダメでしょう。

「肉体的に苦しいけど、やる必要があることを続けるコツ」として、「良くなっている実感」と「脳内麻薬が分泌される」という二つの条件があることをぜひ知っておいてください。

(ちなみにほかの条件としては、「素振りという動作自体が好き」や、「自分のためだけではなく、他の人に恩返しするためにやる」といったこともあります。)

 

「やっている」の基準

ついでに、「努力しているのに結果が出ない」という人のためのチェックリストも出しておきます。

普通に考えればわかることですが、努力⇒成功 というのは100%でつながりません。

ただし、努力の方法次第でその確率は上下します。あなたが努力しようとするものが「そもそも本当にやりたいことなのかどうか」という前提条件を踏まえたうえで、下記の四つを参考にしてください。

「努力しているのに結果が出ない」人のためのチェックリスト

①質・やり方が悪い

②量が足りない

③時間の経過による洗練がまだ不十分

④何らかの障害があるのに、それが解決されていない

①と②は言わずもがなですね。

③については、「どんなに効率的に努力したとしても、一定の時間(これ自体、努力の効率に左右されますが)は必要である」ということです。メチャクチャ効率的にやれば一か月かもしれないし、逆にのんびりやっていれば一年かかるかもしれません。

④については「自分では気づけないもの」と「自分で気づいてはいるけど、まだ放っておいているもの」の二種類があります。

 

以上のチェックリストを参考にして、効率的な努力を心がけましょう。

 

まとめ + 努力の意味についてもっと知りたい人のための本

さて、いかがでしたか。

今回紹介した本は、私が読んだ野球関係の書籍の中では1,2を争うレベルの傑作です。

野球関係の本はあまり読むに堪えるものが少ないのですが、この「甲子園への遺言」は本当に骨太というか、読み返すたびに新たな発見がある本です。野球関係者でなくても、十分に楽しめる本だと思います。ひとりの偉大な人間の生きざまを克明に描き出した本として、特におすすめします。

この本を買ったのはたしか四年くらい前のことだと思いますが、いまだに読み返しています。もうボロボロになっていますが、中身は全然錆び付きません。

ぜひ一度読んでみてください。本当におすすめの本ですよ。

では、グッド・ラック!

 

★おまけ 「努力の意味について考えたい人」のためのおすすめ本★

・・先日も記事で書きましたが、私は苫米地英人氏の本を70冊近く読み切り、「ああ、この人はモノホンだ。うさんくさいのはアレだけど本物だ」と確信しました。この人の本を読むと、どんどん思考の盲点が外れて、今まで見えなかったものが見えてくるようになります。私がこのブログで言っていることの大半は、この人の理論を応用して考えたものです。

以下におすすめの本を挙げておきます。

・「立ち読みしなさい!~美しいほどシンプルな成功術

・「ディベートで超論理思考を手に入れる

・「苫米地英人、宇宙を語る

・「洗脳原論

・「思考停止という病

・「すべてを可能にする数学脳のつくり方

・「「生」と「死」の取り扱い説明書

・「君は1万円札を破れるか?〜お金の洗脳を解くと収入が倍増する

 

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