「体幹~肩甲骨帯」の硬さが野球の投球動作に与える影響について

   

こんにちは、栗山ただよし(栗栖鳥太郎)です。

甲子園が真っ盛りですね。

私は高校野球を見るとき、「体の状態がどのように動作に影響するか」という視点で見ています。

なぜなら、「野球とは、脳が体を動かしてやるもの」であり、「その選手の限界を決めるのは、その選手の身体の限界である」と考えているからです。

野球選手は体が資本なんてよく言われますが、まさにその通り。

今回は、野球の投球動作における「体幹ー肩甲骨帯の硬さ・柔らかさ」の影響を考えてみます。

「体幹~肩甲骨帯」の硬さが野球の投球動作に与える影響について

「身体の柔らかさ」は、良い動作のための”前提条件”である

筋肉に柔軟性がないと、良い動作はそもそも不可能

本題に入る前に:少しだけ勉強を

 「体幹ー肩甲骨帯の柔軟性」は以下のように考えます。
野球をやるうえで必要最低限の知識なので、軽く読んでみてください。
<体幹の柔軟性>
体幹をひねるときの可動域。簡単に言えば、「ひねる動作が楽にできるかどうか」
「内腹斜筋・外腹斜筋・腰方形筋・腸肋筋」などがメイン。かなり広い範囲を指す。
<肩甲骨周辺の柔軟性>
簡単に言えば、「肩甲骨が自由自在に動くかどうか」。
①肩甲骨の外転が楽にできるかどうか(外転:肩甲骨を広げる動き。手を腰につけて肘を前に出す動作)
②肩甲骨帯の伸展が楽に深くできるかどうか(肩甲骨帯の伸展:投球動作の「胸を張る」動き)
筋肉でいえば「僧帽筋中部・僧帽筋下部・前鋸筋・大菱形筋・小菱形筋・大胸筋・小胸筋」など。
体幹と肩甲骨・腕を結ぶ筋肉をメインに考える。
③肩甲骨の上方回旋が楽にできるかどうか(上方回旋:腕を上げるときに肩甲骨下角が体側に動くこと)
なお、胸鎖関節・肩鎖関節も含める。
一般的に言う「肩甲骨」よりもかなり広義でとらえる。
では、勉強が終わったところで本題に入りましょう。

「体幹ー肩甲骨」部分の柔軟性が足りないため球速ダウン・スタミナダウンしていると思われる例:不来方高校・小比類巻投手 MAX136km/h 170cm73kg

今回は、不来方高校の小比類巻投手を例にとります。
小比類巻投手は2016春の甲子園で不来方高校のエース・四番として躍動した選手です。MAX136km/h、170cm73kg。
小比類巻投手には申し訳ないですが、この例を通して
「甲子園に出場するレベルの投手であっても、筋肉の硬さによって投球動作にロスが生じてしまうのだなあ」
ということをわかっていただければと思います。
「体幹の柔軟性」と「肩甲骨帯の柔軟性」に注意しながら連続写真を見てください。
この連続写真から、以下のことがわかります。
1.「体幹の硬さ」:四枚目・五枚目の時点で早々と体がホーム方向に向いてしまう。体幹が硬いといわゆる「開きを我慢できず」、上半身が早い段階で回転してしまう
2.「肩甲骨帯の硬さ」:五枚目・六枚目で肘が上がりきっていない。肩甲骨帯が硬いので肘を上げる(伸展・上方回旋)のが難しい
後に示すプロ選手の例と比べてみるとよくわかりますが、一流選手になるほど「体幹ー肩甲骨帯が柔軟性に富んでいる」という傾向があります。
小比類巻投手のストレートはMAX136km/h・平均球速127km/h程度ですが、
私の勝手な想定によれば、「体幹ー肩甲骨帯がもっと柔軟性に富んでいれば、MAX145km/h・平均球速130後半くらいを試合終盤まで放れるようになるはずだ」と思います。
なぜこのように想定できるかといえば、小比類巻投手は以下のような形でエネルギーロスを起こしていると思われるからです。

★「→の数」が少ないほうが原因、多いほうが結果です。

 

1.「体幹が硬い」(=外腹斜筋・内腹斜筋・腰方形筋など、体幹をひねるための筋肉が硬化している)

→ステップ足が着地すると同時に、上体がホーム方向に向いてしまう(ガマンできない)

→→体幹をひねる筋肉の「弛緩ー伸長ー短縮」のリズムが阻害される

→→→筋肉に負担がかかり、さらなる硬化の原因となる

→→→筋肉の力がうまく発揮されず、体幹をひねる速度が落ちる

→→肘が上がりきる前に腕が振られ始める

→→→肘が下がったままなので肘・肩への負担が大きくなる

→→→→肩・肘のケガをしやすくなる

→→→→スタミナが落ちる

→→→→肘or肩のところでエネルギーが途切れるので、球速が下がる

 

2.「肩甲骨帯が硬い」

→「胸が張られる動作」が不十分になる

→→腕が加速するための距離が不足する

→→→球速が落ちる

→→肩甲骨周辺筋群・胸筋群の「弛緩ー伸長ー短縮」リズムが悪くなる

→→→肩回り・腕・胸筋が硬化しやすくなる

→トップ~リリースまでの「腕のたたみ方」が甘くなる

→→慣性モーメント(加速のし辛さ)が大きくなる

→→→球速が落ちる

→スムーズに肘が上がらなくなる

→→肘が低いまま腕を振ることになる

→→→肘・肩がケガしやすくなる

「体幹が硬い」「肩甲骨帯が硬い」ことが、いかに投球動作全般に大きな影響を与えるかがわかります。
小比類巻投手の場合も、体幹ー肩甲骨帯の柔軟性を向上させ、ロスの少ない投球フォームを獲得すれば大幅な球速アップ・スタミナアップが期待できます。
(ちなみに後々、体幹・肩甲骨帯の柔軟性を向上させる方法が載った本を紹介します)

「体幹ー肩甲骨帯」が柔軟性に富んでおりロスのない投球動作が実現できている例:中日・谷元投手

最速150km/h。167cm72kg。

小比類巻投手のケースと比べてみてください。

体格や手足の長さはほぼ同じ。下半身などの筋力も大差ないはずです。

さきほどの小比類巻投手が
1.「体幹の硬さ」:四枚目・五枚目の時点で早々と体がホーム方向に向いてしまう。体幹が硬いといわゆる「開きを我慢できず」、上半身が早い段階で回転してしまう
2.「肩甲骨帯の硬さ」:五枚目・六枚目で肘が上がりきっていない。肩甲骨帯が硬いので肘を上げる(伸展・上方回旋)のが難しい
という特徴を備えていたのに対して、谷本投手の場合は
1.「体幹の柔軟性」:六枚目まで上半身の開きが我慢できている(柔軟性がないとこの「開きの我慢」は無理)
2.「肩甲骨帯の柔軟性」:五枚目・六枚目で肘がきっちり上がっている(肩甲骨が柔軟でないと、肘は上がりにくい)
のです。
注意してほしいのは、
あくまでも「肘が下がる」「体の開きが早い」というのは結果であって、
本当の原因は「体幹の柔軟性に乏しいこと」「肩甲骨帯の柔軟性に乏しいこと」なのです。
野球界ではなぜかこの「原因と結果を取り違える」という間違いをする人が非常に多いのが気になります。
小比類巻投手の場合も、
「肘を引き上げる筋力トレーニングをしよう!」
「体幹が弱いからケガするんだ!体幹トレーニングしよう!」
「投げた後に肩が張るのはローテーターカフが弱いからだ!チューブで鍛えろ!」
「下半身が安定してないからケガするんだ!走り込め!」
という指導をすれば、それこそケガ一直線。
本当に動作改善をしたいのであれば、まずは「良い動作の前提条件となる体の柔軟性」を確保することです。
順番としては「柔軟性を確保する → 良い動作を求めて技術練習をする → 技術だけではまかないきれない部分をカバーするためにトレーニングをする」でしょう。
体幹・肩甲骨帯が硬い人に「プロの選手の良い動作を真似してごらん」と言っても無理ですし、
良い動作を習得しないまま「フィジカルの強さは球速に直結する。メジャーリーガーはみんな大きいだろう」と考えてトレーニングをしても、
もともとの動作上のロスが解消されていないのですから劇的な改善は望めませんし、
ロスした力がこもってしまう部分(小比類巻投手の場合は肩・肘)にかえって負担がかかりケガをする場合すらあります。
プロの投手の例をもう一つ挙げましょう。

比較例その2:楽天・美馬投手

153km/h。169cm75kg(小比類巻とほぼ同じ体格)です。
体幹ー肩甲骨という連動部分の柔軟性が十分に確保されており、ロスの少ない投球動作ができている例です。
「投球動作の型」がほとんど谷元投手と同じであることがわかります。特に、四枚目~六枚目はほぼ同じ動作です。
なお、連続写真を形だけマネしようとするのはあまりおすすめしません。
たとえば、↑の写真を見て「よっしゃ、このくらい肘上げればいいんだな!」と考えるのは短絡的です。

 

なぜなら、「本人の感覚」と「連続写真にあらわれる動作的特徴」が一致するとは限らないので。

美馬投手・谷本投手はそもそも「肘を上げよう」なんて考えていない可能性もあります。

上げようとして上がるのではなく、柔軟性があるから「勝手に肘が上がってしまう」のかもしれません。

 

あくまでも今回の例は
「体幹ー肩甲骨の柔軟性がどのように実際の投球動作や球速に影響するか」
「野球の動作を改善するには、まず身体を変えねばならないこと」
を示すためのものです。誤解なきよう。

番外編その1:股関節が硬い人は肩甲骨も硬いのか? → そんなことはない! 元日本ハム多田野投手

「股関節の硬さ」で有名な多田野投手。
180cm81kg、MAX148km/h程度。
連続写真を見てもらえればわかる通り、「開脚」的な柔らかさはありません。
多田野投手にしても六枚目の写真から分かるとおり決して体幹の柔軟性がないわけではないし、
七枚目のポジションがとれるあたり肩甲骨周りはかなり柔らかいといえます。
だから、「股関節まわりが極端に柔らかければそれでよい」と考えて「開脚をひたすらさせる」という方法はアテにならないのです。
推測ですが、「下半身が硬くて上半身が柔らかい人」のほうが、「下半身が柔らかくて上半身が硬い人」よりもいいボールを投げると思われます。
下半身の主な役割は「大きな筋出力を発揮して、ボールに伝えるエネルギーの源泉となる」ことですから、下半身に極端な柔軟性はいらない。
それに対して、上半身は「下半身で生み出されたエネルギーを伝達・変換して指先を加速する」役割を負いますから、
柔らかいほうがロスが少なくなり、さらに加速動作のために必要な「加速距離」も確保できます。
多田野投手の場合も、股関節が硬いだけで肩甲骨・体幹まわりは柔らかいのです。
誤解してほしくないのですが、「下半身にまったく柔軟性がなくていい」というわけではありません。
特に「お尻・もも裏の筋肉・もも表の筋肉」の柔軟性はあるに越したことはありませんし、
「股関節をクローズする動作」も楽にできたほうが良いに決まっています。
下半身の筋肉をほぐすメニューとしては、「まとめ」で紹介する『初動負荷理論による野球トレーニング革命』の「ストレッチ」の項を読んでいただけると詳しく書いてあります。

番外編その2:メジャーリーガーの柔軟性

細身でありながらメジャー随一との強肩とまで言われたイチロー選手の柔軟性を見てみましょう。
さらに、あまり柔らかいイメージのないマー君も、実は非常に柔らかい。
小比類巻・谷本・美馬の三投手は低身長でしたが、大柄なマー君も非常に柔軟な体幹ー肩甲骨の筋肉を持っています。
プロの投手がことごとく柔らかいのを見ると、「体幹ー肩甲骨帯」の柔軟性は良いピッチャーの必須条件では? とも思えてきます。

 

まとめ:肩甲骨・体幹のみならず、野球動作に必要な筋肉の柔軟性を確保するためのストレッチメニューが書いてある本の紹介

小比類巻投手と、谷本・美馬両投手は、体格面でいえばほぼ同等です。
前者と後者の差の原因はどこにあるかといえば、特に「体幹ー肩甲骨」あたりの柔軟性が確保されているかどうか、というただ一点です。
筋力の強さ・遺伝的素質・競技歴の影響ももちろんあると思いますが、
少なくとも動作面で見れば、間違いなく「体幹ー肩甲骨帯の柔軟性」が球速・スタミナ・故障しやすさに大きな影響を与えています。

 

では、実際どのようにすれば「体幹ー肩甲骨帯の柔軟性」を手に入れられるのか?

一般的なストレッチである「静止した状態で強く長く引き伸ばす静的ストレッチ」はあまりおすすめできません。

というのも、そういうストレッチは筋肉の血液に対するポンプ作用がはたらきにくいと考えられ、血流の促進が期待できないからです。

また、野球の動作の基本である「弛緩ー伸長ー短縮」のリズムにもマッチしません。

 

私の経験からしても、静的ストレッチによって無理やりに獲得した柔軟性が競技に活きるかどうか、は怪しいと感じます。

どうせやるのであれば、実際の動作と同じように、「一度に複数の筋が協調して稼動する」形態のストレッチが望ましいでしょう。

 

参考までに、欧州スポーツ医学会は、「静的ストレッチは最大筋力を発揮する種目におけるパフォーマンスを下げる」という公式見解を示しています。

とにかく、柔軟性を向上させるという意味においても、競技のパフォーマンスアップという点においても、

「静的ストレッチ」をやる意味はほとんどありません、というのが経験的・科学的な結論です。

 

ですから、野球の競技能力向上のためには「弛緩ー伸張ー短縮」をリズム良く行うダイナミックストレッチのほうが適しています。

筋肉をリズムよく「弛緩ー伸長ー短縮」させることによって筋肉に対する血流量も増大しますし、

神経系をウォーミングアップする(固有受容器に対する刺激を与えて神経筋協応能をアップさせる)ことにもなります。

もちろん、ダイナミックストレッチであればアップにもなりますし……。

 

 

私の知る限り、ダイナミックストレッチ関連のもので、一番野球につながりやすいのは「初動負荷マシンを用いたトレーニング」と「初動負荷形態のストレッチ」です。初動負荷トレーニングは、先ほどみたイチロー選手や、山本昌・岩瀬仁紀投手といった「選手寿命が長くて、しかも活躍している人」が行っているトレーニングでもあります。

初動負荷トレーニングはマシンがないとできないので、ここでは初動負荷マシンに近い効果を得られるストレッチが載っている本だけ軽く紹介します。これです。

この本に載っているストレッチは非常に実践的で、効果の高い種目がそろっています。

あんなことや

こんなことや

こんなものまで

この初動負荷形態のストレッチを継続すれば、「筋肉がすぐに柔軟になる」「怪我しにくくなる」「球速が上がる」「ボールの切れがよくなる」「疲労が早く抜けるようになる」「走るのが速くなる」「運動のセンスが良くなる」といった効果があります。実際、北大野球部の投手数名にやってもらって↑こういうフィードバックを得ていますし、彼らは「これはやればやるほど良くなる。悪くなることは絶対にない」と言い切ります。

 

しかし、著作権やら何やらの関係で詳しく紹介することはできません(&ストレッチの方法を誤解される可能性がある)ので、

もしも「体幹ー肩甲骨の柔軟性を向上させて球速を上げたい」「柔軟性に富んだ体を手に入れて、ロスのない動作を実現したい」と思われる方がいれば、↓『初動負荷理論による野球トレーニング革命』を読んでみてください。

 

最後に、「体幹・肩甲骨帯が硬いとこういう影響が出るよ!」という一覧を掲載して〆とします。

指導に使うなり、自分の練習の参考にするなりしてください。

 

1.「体幹が硬い」(=外腹斜筋・内腹斜筋・腰方形筋など、体幹をひねるための筋肉が硬化している)

→ステップ足が着地すると同時に、上体がホーム方向に向いてしまう(ガマンできない)

→→体幹をひねる筋肉の「弛緩ー伸長ー短縮」のリズムが阻害される

→→→筋肉に負担がかかり、さらなる硬化の原因となる

→→→筋肉の力がうまく発揮されず、体幹をひねる速度が落ちる

→→肘が上がりきる前に腕が振られ始める

→→→肘が下がったままなので肘・肩への負担が大きくなる

→→→→肩・肘のケガをしやすくなる

→→→→スタミナが落ちる

→→→→肘or肩のところでエネルギーが途切れるので、球速が下がる

 

2.「肩甲骨帯が硬い」

→「胸が張られる動作」が不十分になる

→→腕が加速するための距離が不足する

→→→球速が落ちる

→→肩甲骨周辺筋群・胸筋群の「弛緩ー伸長ー短縮」リズムが悪くなる

→→→肩回り・腕・胸筋が硬化しやすくなる

→トップ~リリースまでの「腕のたたみ方」が甘くなる

→→慣性モーメント(加速のし辛さ)が大きくなる

→→→球速が落ちる

→スムーズに肘が上がらなくなる

→→肘が低いまま腕を振ることになる

→→→肘・肩がケガしやすくなる

 

3.「体幹ー肩甲骨帯が硬い」

→上半身の柔軟性の有無が下半身の動きにも影響を与える

→→下半身が硬化する

→→→ケガしやすくなる

→→バランス能力が落ちる

→→→制球の悪化

→→下半身をダイナミックに力強く動かしにくくなる

→→→球速が落ちる

→→下半身が思った通りに動かない

→→→制球の悪化

(※ちなみに、起こりやすさとしては「上半身の柔らかさが下半身の動きを邪魔する」>>>「下半身の硬さが上半身を硬くする」です。)

 

この記事で書いたことは、あまり科学的ではありませんが、論理的ではあると思います。

参考にしてみてください。

 

以上、栗山ただよし(栗栖鳥太郎)がお送りしました。

では。

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