武井壮とイチローの意外な共通点。「身体を思い通りに動かす能力」は一流アスリートの条件だ

   

武井壮とイチローの意外な共通点。「身体を思い通りに動かす能力」は一流アスリートの必須条件だ

「百獣の王」と、「伝説の安打製造機」に共通するもの

武井壮選手の発言:「スポーツするにあたって重要なのは、自分の体を思った通りに動かす能力」

日本にはものすごい人がたくさんいます。

苫米地英人氏、マッスル北村氏、中村天風氏、藤平光一氏、高畠導宏氏、室伏広治氏、王貞治氏、長嶋茂雄氏、イチロー選手などなど…日本には、「ああ、日本って西洋に比べて劣ってるわけでは決してないんだな」と思える人々がたくさんいます。

 

今回は、そんな「物凄い人」をもっとみなさんに知ってもらいたいな~…ということで、肉体派・野生派タレントの

「百獣の王」こと、武井壮さん

をご紹介します。

今回の記事では、その武井さんの提唱する「まず、思い通りに体を動かす能力を鍛えよ」という理論が、実はあのイチロー選手とも共通している…ということを明らかにしていきます。さらには、体を思い通りに動かす能力を鍛えるためのヒントになりそうなものも紹介していくつもりです。

 

武井壮さんのプロフィールは以下の通り。

職業、肩書き、「百獣の王」。
住所、「地球」、趣味「成長」。

元・陸上 十種競技の日本チャンピオン。
テレビやラジオなどのメディア出演を中心に活躍しつつ、
昨年フランスでおこなわれた世界マスターズ陸上の4×100mリレー(M40クラス)で金メダルをとるなど、今も様々なスポーツにチャレンジし続け、
毎日「自分史上最高」をめざして日々成長を続けている、最強の43歳。

(武井壮さんの公式ウェブサイトより)

 

そんな武井さんは、

「スポーツするにあたって重要なのは、自分の体を思った通りに動かす能力である」

という持論を持っています。以下の動画をご覧下さい。

8:50~11:10あたりまで。

 

ざっくり要約すると、

・小学五年生のとき、「自分の体が思い通りに動かないこと」に衝撃を受ける。

・自分では西武ライオンズの選手の真似をしているつもりだったが、父親が買ってきたビデオを観てみると全然似ていなかった。ここで「自分の体を思い通りに動かす能力」の大切さに気付く

・たとえば、コップに注がれたお水を飲むことは百発百中でできるのに、野球で毎打席ホームランを打つことはできない。これは「野球をやっているときの自分の体が思い通りに動かない」から。身体が思い通りに動かないヤツがスポーツをやっても、うまくいかないのが当然ではないか?

これが発展して、体を思い通りに動かす能力を鍛え上げる「パーフェクトボディコントロール理論」を提唱するに至ります。

 

そして武井壮さんは、「体を思い通りに動かす能力」を高めたうえで、「肉体的なトレーニング」をすることをおすすめされています。

なぜなら、

①体が思い通りに動かないのに反復練習をしても、効率が悪い

②体が思い通りに動かせさせすれば、あとは体の勝負になる。フィジカルの強いほうが勝つ

③体を思い通りに動かす能力が高ければ、どんなスポーツでも食っていける。ひとつのスポーツに専門化しすぎてしまうリスクを軽減できる

実際に考えてみると、確かにその通りです。

あらゆるスポーツで「センス」と言われるものを紐解いてみると、それは往々にして「自分の体を思い通りに動かす能力」のことを指します。たいていのスポーツ選手は、「こう動きたいということはわかっている。でも、その通りに動けない」という点で悩むのです。

逆に、その「体を思い通りに動かす」さえクリアしてしまえば、あとはフィジカルの勝負。実にシンプルで合理的な考え方です。

さらに、体を思い通りに動かす能力が高ければ、どんなスポーツでもできるようになります。

 

早い話が「スポーツ万能」になれるわけです。それは、武井さんの↓ポテンシャルを見てもらえればわかる通り。


実際、武井さんは競技歴わずか二年半で十種競技の日本チャンピオンになっていますから説得力が物凄い…。

 

まずは「体を思い通りに動かす能力」を鍛える。

それから、「徹底的にフィジカルを強化」する。

そうすれば、一つのスポーツを極めることも簡単になるし、たいていのスポーツで通用するようになる……ということになります。

 

イチロー選手の発言:『「思い通りに体を動かす力」に関しては、メジャーの誰にも負けない』

さて、そんな「体を思い通りに動かす能力」を重視する武井選手と似た考え方を持っている一流選手として、現マーリンズのイチロー選手が挙げられます。

 

イチロー選手には、歴代の名選手たちに比べて、比べようもないくらい圧倒的に優れているところがあります。

それは、「自分の体を思った通りにコントロールする能力が、歴代の選手たちと比べてもずば抜けている」ということ。

 

「自分の体を思い通りに動かす力」が高いからこそ、たぐい稀な動体視力を活かして難しいボールでもついていくことができるし、守備でもファインプレーを連発できるし、来たボールを正確に打ち返すことができるし、予想外の球にとっさの対応をすることができるし、きわどいボール球にもバットが止まるわけです。

アメリカの野球界でも最近「Hand-eye-cordination(ハンド・アイ・コーディネーション)」が重視されており、これは「目で見たものに対して正確に素早く(手で)反応する能力」を指します。

逆に、自分の体をコントロールすることのできない人は悲惨も悲惨。「運動神経悪い芸人」みたいな感じになります。バッティングをやらせてもピッチングをやらせてもうまくいかない、早い話が「センスがない」とみなされます。

 

西洋人に比べれば「パワー・筋力・筋肉量・体格」の差は歴然としている東洋人が、メジャーの安打記録をいくつも塗り替えた・・・という事実のウラには、「体を思い通りに動かす能力」を徹底的に鍛え上げたという秘密があったのだろうと私は見ています。

 

参考までに、イチロー選手の発言をチェックしておきましょう。

どれも、スポーツ科学でいう「体性感覚」「主観と客観のズレ」というテーマに沿ったものです。

◆僕は大リーグでは一番小さい部類です。でも、こちらに来て強く思ったのは、体が大きいことにそんなに意味がないということです

◆「思い通りに体を動かす力」に関しては、メジャーの誰にも負けない

◆当時はゆっくりしたイメージがあるのに、動きはゆっくりではなかった。今はそれもゆっくり見えているはずなんですよ、僕の動きって。僕が頭で抱いているイメージと、体が表現していることっていうのは、おそらく繋がって見える

◆いままで一度も、自分のグラブを人に貸したことはない。チームメイトにだって、グラブの中には手を入れさせない

◆グラブはもちろん身体の一部だと考えています。外野手だから長いグラブを使っているのですが、指先まで神経が通らないと、感覚が麻痺してボールが捕れない。グラブの先まで感じられるグラブでないとイヤです

 

もちろん、イチロー選手の場合は「トラやライオンはウェイトトレーニングしないでしょ」という発言に代表されるように、一般的な「ウェイトトレーニングや体幹トレーニングで体を強くする」といったフィジカル強化については懐疑的な立場をとっています。

しかしイチロー選手も初動負荷トレーニングという形で肉体の鍛錬はしっかりと行っており、「イチローはトレーニング全否定論者である」というのは間違い。ちなみに初動負荷トレーニングについては、一般的な理解としては「筋肉を柔らかくするトレーニング」くらいに思われているようですが、ワールドウィングの公式サイトでは次のように説明されています。

初動負荷理論定義:反射の起こるポジションへの身体変化およびそれに伴う重心位置変化等を利用し主働筋の弛緩-伸張-短縮の一連動作を促進させるとともに拮抗筋、並びに拮抗的に作用する筋の共縮を防ぎながら行う運動

◆初動負荷トレーニング®(B.M.L.T.)は,反射機能の促進,神経筋制御の向上に代表される特徴と,B.M.L.T.カムマシン®の用途に応じた多機種化の成功により,柔軟性と強さ,しなやかな動きの獲得,スピード,加速度の向上,機能的純粋パワーを求める数多くのトップアスリートに活用されています.

「初動負荷トレーニング」の大きな特徴は、トレーニングをやればやるほど神経筋協応能(これこそ、指令通りに筋肉を動かす=体を思い通りに動かす能力のこと)が向上すること。

逆に、初動負荷の定義からすると、一般的なウェイトトレーニング(特に筋肥大を主な目的としたもの)は、やればやるほど体が思い通りに動かなくなる…ということにもなります。誤ったトレーニングを行うことによる筋肉の可動域制限、全身の筋力バランスが崩れることにより生じる身体操作の誤差、脳の回路が筋トレの時の動作をクセとして覚えてしまう可能性、など。

 

私は初動負荷トレーニングのトレーナー資格を持っていないので無責任なことは言えませんが、少なくとも初動負荷理論の定義を字面通りに受け取ればそういう結論になります。もっと詳しく知りたい方は、「初動負荷理論による野球トレーニング革命」をお読みください。

実際、オリックス時代のイチロー選手は「冬にウェイトで体を大きくする→春先調子が出ない・スイングスピードが上がらない→筋肉が落ちてくるとスイングスピードが戻って調子が良くなる」というサイクルを数年間繰り返していました。

当時のトレーニング環境の悪さもあったのでしょうが、子供のころから自分の感覚を大事にしてきたイチロー選手にとって、体を思い通りに動かす能力を高めてくれる(維持向上してくれる)初動負荷トレーニングは最高の相棒だったのでしょう。

 

もしかすると、「体の感覚を大切にする」という点でイチロー選手と共通する武井さんも、初動負荷トレーニングと相性が良いかもしれません。

余談ですが、↑に引用した「初動負荷理論の定義」は、理想的なスポーツの動作を本当に考えたことのある人ならものすごくピンと来るはずです。初動負荷理論は非常にエレガントで抽象度の高いもので、野球でもサッカーでも水泳でも陸上競技でもなんでも、ほとんどのスポーツの動作分析に使えます。(ついでにいえば、「なぜ、うまく動けると気持ちいいのか」「なぜうまく動ける人は故障しにくいのか」を説明するのにも使えます)

反射の起こるポジションへと重心移動を先行させて、それをフォローするように体の各部の筋肉が反射的に「弛緩ー伸張ー短縮」を繰り返した結果、スムーズでロスのない動作が発現する。「Anticipatory Postural Adjustment (APA)先行随伴性姿勢調節」(:たとえば「パンチを打とう」と思ったとき、意識上は上半身を使ってパンチを打つだけなのに、実際は下半身や体幹の筋肉が無意識化で先行している)とあわせて考えると、とっても革新的で本質的な理論だとわかります

 

「身体を思い通りに動かす」に関するひとつの真理

実は、「体を思い通りに動かす力」というのは、スポーツの核心のひとつでもあります。

 

仮に「完全に思い通りに、寸分たがわず自分の体を正確にコントロールできる人間」がいたとします。

この選手はおそらく、ほとんどの競技で成功を収めるはずです。

 

なぜなら、彼にとってのスポーツ動作とは

①理想の動作とは何か、を理解すること

②フィジカルをうまく向上させていくこと

に過ぎないから。

 

①は、その競技のトップエリートの動作をそのまま真似すればクリアできます。

②は、スポーツ科学や生化学・トレーニング理論の知識をもとにしてやっていけば、これもクリア可能。

どうにもならないのはせいぜい「遺伝による体格差・肉体的素質の差」くらいでしょう。

自分の思い通りに体を動かす能力が高い人にとっては、たいていのスポーツ動作習得はイージーです。

 

もちろん、普通の競技者であれば、

③理想の動作と実際の動作とのズレを修正する反復練習

が必須であり、これに一番時間がかかるわけです。

クセを修正するために、よりよい動作に近づけていくためには膨大な反復練習が必要となります。

 

武井さんのおっしゃっていることはつまり、

「その反復練習を競技ごとに繰り返すより、スポーツの根本となる操体能力を一括で鍛えてしまったほうが早いよね?」ということ。

うーん、確かにその通り……。ハンマー投げの室伏広治選手のトレーニング理論である「同じ動作の反復はしない」にも通じるところがあります。

 

二人はどのようにして「身体を思い通りに動かす能力」を鍛えたのか?

武井壮さんの場合

武井さんが行っていたトレーニングとその理論は以下の通り。

「目をつぶって腕を真横に上げてみてください。トップアスリートでもこれができる人は少なくて、ほとんどの人が水平よりも腕が上がっていたり下がっていたりしています。これができないということは、運動中も自分が思っている腕の位置と実際の位置にはズレがあるということです。腕を水平にするという基準がないから、その日の体調などによって腕の位置が変わって、プレーにも影響がでてきてしまいます」

ぼくは子どものときから自分の身体を思いどおりに動かすことを意識して、腕を水平、垂直、45度、40度にする練習もしました。陸上に取り組んだのは大学に入ってからですが、『武井壮』を動かす練習をずっとしてきていたから、わずか2年半という短い時間で十種競技のチャンピオンになることができました」

「たとえば、ペットボトルを持って普通に飲んだら日常生活ですが、これもスポーツになります。僕はペットボトルを持つときは、親指と中指の気持ちいいところだけを使って、角のところをピタッと持つというルールを決めています。イメージ通りにできなかったら、またやり直します。」

スポーツとは、頭の中でああしよう、こうしようと考えて、そのとおりに身体を動かすこと。日常生活でする普通の動作でも、それを『ああしてみよう』という意識を持ってやることで、スポーツになります。サッカーで、ボールをあそこまで飛ばそうと思ってボールを蹴るのと同じことです。日常的なそれができたら成功、できなかったら失敗と楽しめるし、しだいに成功率が上がっていきます

「床のフローリングに途中で線が入っていたら、この角のところをつま先の先端で踏もうとか、ドアノブを持つときもこう握ろうとイメージしてそのとおりに持つなど、『こうしよう』と思ってすることがみんなトレーニングになります。日常生活をすべてスポーツにすると、24時間鍛える時間。これだけトレーニングしているんだと思うとメンタルも強くなりますよ」

子育てのヒントになるか? 武井 壮の「 パーフェクトボディコントロール 」とは より

 

「日常生活=スポーツ」というのは、けっこう多くの人が言っていることで、たとえば私が勝手に敬愛する苫米地英人氏は「同じエレベーターに乗った人と突然格闘になったときのことを脳内シミュレーションする」そうですし、昭和の哲人・中村天風氏は、弟子である藤平光一氏を試すために、「ちょっとこっちに来い」と呼びかけてから突然思い切りどつき、常に自然体がキープできているか試していました(『中村天風と植芝盛平 氣の確立』より)。どちらも日常生活が修行です。

また、イチロー選手も「小さいころ、電線の区切りが来るごとに目をつぶるクセがあった」「対抗車線の車のナンバーを使って四則演算していた」ということですから、やはり「日常生活=スポーツ」という考えのようです。野球つながりでいえば、前・侍JAPAN監督の小久保裕紀氏の座右の銘は「一瞬に生きる」(=仏教でいう一念三千とか刹那瞬)で、これも日常生活=スポーツという図式が根底にあります。野球の時も日常生活も、同じ「刹那瞬」として処理するわけですから。

 

もっと発展させれば、「人生すべての瞬間=スポーツ」でもあり、「人生すべての瞬間=勉強」でもあり、「勉強=スポーツ」でもあります。

たとえば、日常生活の諸事をできる限り高速かつ正確に処理することを心がければ、日常生活すべてがスポーツになります。あるいは、スポーツ上達のために勉強すること・勉強に必要な頭のキレや頭の回転の早さを養うためにスポーツするという選択肢もありえます。

 

なお、人生におけるゴールをとても高く設定すれば勉強もスポーツもうまくいって当然となります。

たとえば「世界一のサッカー選手になって、世界中の人を笑顔にしたい」というゴールを持っている人は、当然勉強もしっかりやるはずです。サッカーバカでは、世界一とは言えないでしょう。本当は、「世界一のサッカー選手なんだから勉強はできて当然だ、テストでも学校トップがふさわしい」くらいの自己評価ができるはずです。あるいは、「自分は世界一のサッカー頭脳を持っているんだから、勉強だって上手にこなせるのが自分らしい」とか。

そうやって高いゴールを目指せば、勉強もスポーツも同じ人生の一部として難なく処理できるようになります。これがそのまま文武両道のコツともなります。

 

仏教の中観派っぽく言えば、すべてのものはおしなべて「空」ですから(→参考:中村元氏の『論書・他 (現代語訳大乗仏典)』)、勉強=スポーツ=人生である、というのはある意味自明のことです。文武両道ができている人はそれをよくわかっていますし、逆に勉強≠スポーツ≠人生であるという考えを持ってしまうと、3つのことに別々に労力を注ぐ羽目になり、上達の速度は遅くなります。

 

日常生活をスポーツ化し、日常生活を勉強化し、スポーツを勉強化し、勉強をスポーツ化する・・・という意識を持つようにすれば、同じ24時間でも、積もり積もってものすごい差がつくことになりそうです。勉強=スポーツ=人生 と考えれば、実に密度の高い一日が過ごせるでしょう。

 

もしかすると、勉強でもスポーツでも「生まれながらの天才」というのは存在せず、

自我が確立する思春期以前の個人の能力というのは「遺伝 + 生育環境 + 日常生活をどれだけ密度高く過ごしたか」によって決定されるのかもしれません。

 

ちなみに、武井さんのイチロー選手評は以下の通り↓

 

イチロー選手の場合

イチロー選手の場合、前述のとおり、初動負荷トレーニングを相当重視しています。

「人が見たら、こいつおかしいんじゃないかというレベルでマシンにさわっている」と述べているくらいですから、一日数時間はマシンを用いたトレーニングをされていると思われます。

 

この「初動負荷トレーニング」で

①ロスの少ない動作ができる、しなやかで弾力性に富んだ体を作る

②体を思い通りに体を動かす能力を高める(前述。神経筋協応能という、ある動作を遂行するための合目的的な神経ー筋肉の協調能力のこと)

ことを徹底し、そのうえで野球というスポーツの動作を徹底的に練習しているようです。

 

ただしイチロー選手の場合、小さいころからずっと野球の技術練習を反復されてきた(野球に特化してきた)ので、武井さんの言われるような「体を思い通りに体を動かす能力」の割合は少々低くなるのかもしれません。実際、イチロー選手がバスケをやっている動画を見る感じ、あまり上手な感じではなかったので…。

それでも、イチロー選手は「野球に関する動きのなかでは、誰よりもうまく体を操ることができる」というのは事実です。


 

ちなみに:歴代最高と称される天才安打製造機・榎本喜八氏も「自分の体の動きを正確に認識できる能力が異様に高まった時期があった」らしい。。

平成のヒットメーカーといえばイチロー選手ですが、昭和ナンバーワンの安打製造機として誉れ高いのが、元オリオンズの榎本喜八選手です。一般的な知名度こそ高くありませんが、高卒選手としての1000本安打到達がイチロー選手よりも早かったということで、コアな野球ファンには有名な存在です。

最近文庫化された「打撃の神髄 榎本喜八伝」には、こんな記述があります。

榎本は、自分の体の奥深いところで何かが変わり始めているのを感じていた。昭和34年の9月、初めて藤平光一と出会ってから一日も欠かさずに続けてきたトレーニングの成果が表れてきたのではないかと思っていた。

骨や筋肉、それに胃や腸、肝臓などが、どこにどんなふうにあるのかわかるようになったんです。自分の体は、その日その日で状態も、感じ方も、動き方も違うよね。だから、ソファに座ったり、遠征の列車に乗ると、まず、その日その日の身体の状態をありのままに感じるようにしてた。そして、呼吸法(注:榎本が身体感覚の錬磨のために行っていた、藤平光一氏により教えられた丹田呼吸法のこと)をしながら、自分の体の調子を整えてたの。大阪から東京まで特急列車に乗っていても、目をつぶって体の中をじっくり感じているとアッという間に時間が過ぎたものね。そうすると、体調のいいときには、体のなかがまるで目に浮かぶかのようにわかるようになっちゃった

榎本氏は、合気道の達人・藤平光一氏により伝授された「丹田呼吸法」を徹底的に行います。

その鍛錬の結果、昭和38年の7月7日、阪急の米田投手と対戦した打席で榎本氏は一種のゾーン状態、いわゆる「神の領域」に足を踏み入れることとなりました。『打撃の神髄』よりもう少し引用します。

バットを構えて、脚の内側のユニフォームの線を意識した榎本は、それから深く呼吸をして臍下丹田に気持ちをしずめた。そして、改めて臍下丹田から五体のスミズミまでを結び、全身に気力をみなぎらせる。すると、突然、全身の脈や血流、関節や筋肉の動きがありありと感じられるようになった。まるで透明人間にでもなったかのように、自分の体内の様子があるがままにはっきりとわかる。バッターボックスでこんな感じになったのは、初めてのことだった。

この感覚に驚いていると、ますます指先からバットへ血が通い、身体とバットが一体になるのを感じた。そして、構えたバットの状態や芯までもが、まるで目の前で見ているかのようにわかるのだった。バットが自然と揺らぎだした。…

自分の身体の動きが、それこそ五体のスミズミまではっきりとわかったんです。言葉でいうと難しいんだけど、毎日毎日バカ正直に稽古していた臍下丹田に、自分のバッティングフォームが映ったとでもいうのか、脳裏のスクリーンに映ったとでもいうのか。本当に自分の身体がどんなふうに動いているか、寸分の狂いもなく、実によくわかったんです。夢を見ているようでしたね」…

榎本は「この状態になると、どんなボールに対しても、自分の思い通りに打てるようになった」と証言している。

丹田呼吸法についての説明は松井光氏による『打撃の神髄 榎本喜八伝』や、藤平光一氏の『氣と生活』『氣の呼吸法』を読んでいただければ詳しく書いてありますが、榎本氏にとって、丹田呼吸法とは「心を臍下丹田に静める」ためのものであると同時に、「体の感覚(=体位性感覚と神経筋協応能)を研ぎ澄ませる」ためのものでもあったのでしょう。

 

考えてみれば、野球選手にとって「体を思い通りに動かす能力」は生命線です。

体を思い通りに動かす能力に乏しければ、良い球を投げるための良い動作は習得できません。

また、仮に良い球を投げることができたとしても、体が思い通りに動かなければノーコン投手で使い物になりません。

150km/hにも達する末端部加速によってボールに速度を与え、18.44m先のキャッチャーミットめがけて正確に投擲する・・・というピッチングの本質を考えてみるに、プロ野球で通用するかどうかは「体を思い通りに動かす能力がどれくらい高いのか」にも左右されるはずです。

 

これは野手も同様で、バッティングというのは「150km/hで飛んでくる直径72.9~74.8mmのボールを、直径65mm以下のバットの、幅10cmほどのスイートスポットで正確に捉える」「18m先から変幻自在の変化を見せながら飛来する小さな球体を、0.4秒というごく短時間で打つか打たないかを判断する」というものですから、やはり身体を思い通りに動かす能力は命綱でしょう。

よく「物まねがうまい選手はプレーも上手」とも言いますね。やっぱり野球においても身体を思った通りに動かせると「強い」のです。

 

極端な話、もしバリー・ボンズと同等の肉体を持った選手がいたとしても、その選手が「毎回かならずボールの上10cmのところを空振りする」のであれば、ホームランは通算で0本に終わります。ヒットも0本です。

 

今季からホームラン数が急増したメジャーリーグではいま「フライボールレボリューション」というのが大ブームになっていて、投球されたボールの「下半分」を狙い打て、フライを上げて長打を狙えという話になっているようです。

ヤンキースの新星・アーロン・ジャッジ選手(右打者)はインタビューで、「ボールを時計とすると、7時のところを狙い打つんだ」と答えています。体を思い通りに動かす能力が高いからこそそんな芸当ができるのです。運動音痴の人であればそもそもボールにバットが当たりませんから・・・。

 

ちなみに②:武井壮さんのパーフェクトボディコントロール理論は、苫米地英人氏の「運動と思考は同一」理論にも通じる

認知科学者である苫米地英人氏の理論でいえば、

スポーツとは、物理空間での身体運動

勉強とは、情報空間での身体運動

勉強もスポーツもどちらも、「運動」という意味では脳にとっては同じものである。

となります。

 

というのは、思考でもスポーツでも運動性の神経伝達物質であるドーパミンが出ることが確認されているので。

(この辺りは、ジョン・J・レイティ氏が『脳を鍛えるには運動しかない!』で詳しく解説されています)

 

また、苫米地氏の定義によれば、IQの高い人とは、「抽象的なものに対して、身体的にコミットできる力が高い人」です。

つまり、勉強の話で言えば、抽象度の高い概念=たとえば、愛とか人類とか宇宙といった概念を、まるで目の前にあるかのように体感できる人のことを「IQが高い」と言います。物理や数学のできる人がよく「答えが見えた」などと言いますね。

これをスポーツに当てはめて考えると、IQの高い人でないと「理想の動作」という抽象度の高いものをイメージすることはできないはずです。なぜなら、理想の動作というのはあくまでも「理想」であって、情報空間にしかないものだから。IQの高い人であればその情報空間にダイレクトでアクセスできます。逆にIQの低い人は抽象度の高いものを考える力がなく、したがって理想の動作が何なのかもわからないと思われます。

 

情報空間に思い描いた理想の動作を、現実に落とし込む。その際にやはり「自分の身体をイメージ通りに動かす能力」がモノを言います。「IQが高く、理想の動作がイメージできること」と「そのイメージ通りに体を動かす能力」、一流のアスリートになるにはこの二つが最低限必要だ

と私は思っています。

 

ちなみに③:自分が見てきた限り、「本当に優れたアスリート」は勉強もやればできる

「IQが高い」と「知識が多い」は別物です。

一流スポーツ選手はだいたいIQが高い(理想の動作のイメージのために必要だから)のですが、物理的な勉強時間が不足しているために知識が足りていないことが多いと思われます。

つまり、一流スポーツ選手というのは「地頭はいいんだけど、知識がない」という状態にあることが多いのです。人間は知識を持っていないものを認識することができません。

勉強というのはだいたい知識量がモノを言いますから、アスリート=「勉強」できないというイメージはある程度正しいのでしょう。

 

しかし、勘違いしてはいけません。彼らは「勉強は、やればできる」のです。それも、一般的な人々よりもはるかに早いペースで伸びていきます。なぜなら、もともとIQが高い(スポーツによってIQが上がっている)から。あとは知識をどれだけ詰め込んでいけるかというだけの話です。

現に、進学校の受験指導ではよく「現役のときに部活をがんばっていた奴は、部活を引退してからあっという間に伸びて合格する」と言われているようです。実際、スポーツにはIQを向上させる効果があります(:『脳を鍛えるには運動しかない!』や『本番に強い脳と心のつくり方 スポーツで頭がよくなる 』など)。

 

参考までに、アスリートたちの「勉強やればできる」列伝を書いておきます。

・イチロー選手は高校時代成績優秀で、当時の校長から「東大合格も夢ではない」と言われていたらしい

・武井壮選手は修徳学園中学校・高校ではずっと成績トップで学費ゼロ+奨学金をもらっていた

・初動負荷理論を提唱された小山裕史さんは読書好き(特に布団に横になっての仰向け読書)で、「学生時代、一年に三百冊くらい読むこともあった」とのこと(エッセイ集『夢の途中で』より)

・桑田真澄氏は早稲田の大学院を主席卒業している(→ちなみにその研究成果は『野球を学問する』にまとめられている)。

・ハンマー投げの室伏広治選手はスポーツ研究の名門・中京大学で博士号を取得。ちなみに博士論文のテーマは「ハンマー頭部の加速についてのバイオメカニクス的考察」。現在(2017年9月時点)、東京医科歯科大学教授。

・不世出のボディビルダー・マッスル北村氏は東大・東京医科歯科大・防衛医大に合格している。ちなみにボディビル界はほかのスポーツに比べて明らかに高学歴の人の割合が高いようで、石井直方氏(東大)や山本義徳氏・山岸秀匡氏(早稲田)など名だたるトップビルダーたちが名門大学を卒業している。ボディビルには自己管理や強い意志の力が必須だし、解剖学や生理学・生化学の知識も必要だから当然なのかも?

 

もちろん、「頭が良くないアスリートもいるじゃないか」と思われるかもしれませんが、たぶんそういう人々は単に勉強時間が物理的に不足しているだけでIQ自体は高いので、いざ勉強を始めたらものすごいスピードで伸びるはずです。もちろん一部には、例外と思われる人(完全に身体能力とセンスだけでやっている人)もいますけど・・・

 

ちなみに④:昭和のプロ野球選手は「思い通りに体を動かす能力」を(はからずも)重視していた?

私が思うに、「走り込み」には、思い通りに体を動かす能力を鍛える効果があります。

理屈から言えば、ランニングを30~45分程度継続して行うことによって、脳由来神経成長因子(BDNF)に加え、IGF-1(インスリン様成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)、FGF-2(繊維芽細胞成長因子)といったホルモンが血液脳関門を通過し、脳内での「学習にかかわる分子メカニズム」を活性化させることがわかっています。

簡単に言えば、「一日30~45分程度のランニングによって、脳が新しいことを学習しやすい状態になる」ということです。

脳における学習とは、つまり「情報を伝達するために神経細胞どうしを新しく結びつける」ことを意味しますから、ランニングを30~45分程度してから技術練習に入ると、技術習得がとてもスムーズになると思われます。

 

さらに、ランニングでは野球の動作に不可欠な「重心移動を先行させて、筋肉が勝手に反射を起こすポジションへと移動する」能力が鍛えられますし、重心を拾うように移動する足の使い方、スローイングの際の足の踏み込み方も練習することができます。

また、米国の難関資格であるNATAのトレーナー認定を受けている小山啓太氏によれば、「野球の投球動作における足の運び方は、短距離走者の足の運び(=つま先着地)よりも、長距離走者のそれに似ている」とのこと。長距離走者の足の運びは、「かかとの外側→小指・薬指→母指球 で圧が抜ける」という特徴があります。実際、プロの投手で投球時につま先着地している人はまずいません。誰でもかかと側から先に着地しています。

 

つまり、昭和の投手・野手たちがランニングを重視していたのは、ある意味では理にかなっていたわけです。

昭和の大打者・門田博光氏は『門田博光の本塁打一閃』のなかで、「小さいころはひたすら走りこんでいた」と述べていますし、NPBで唯一400勝を達成した金田正一氏もやはりランニングと柔軟体操を重要視していたそう。プロ野球で伝説の打撃コーチと呼ばれた高畠導宏氏も「ランニングで下半身を作ったうえで、投球動作改善のための遠投をやるといい」という持論の持ち主でした(→『甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ 高畠導宏の生涯 』より)。

 

また、昭和の時代は道路が未舗装のところが多かったですから、デコボコの地面を走ることになります。そのデコボコの地面をうまく、ねんざすることなく走り抜こうとすれば、「体を思い通りに動かす能力」は必然的に鍛えられます。

現在では「スポーツ=整備されたグラウンドでやるもの」「スポーツ=専門的に習うもの」という風潮がありますが、昭和の時代は、生活そのものがスポーツだったのでしょう。「昭和の時代にはエースで四番が多かった。いまは投手は投手、野手は野手になっている」――と落合氏(だったかな?)が言っていた記憶があります。エースも四番もできるということは、まさに武井さんの「体を思い通りに動かす能力が高ければ、どんなことでもできる」を体現しています。

 

デコボコの地面と言えば、野球強豪国・キューバの野球グラウンドはまさに「デコボコ」だった(少なくとも平成初期あたりまでは)そうで、あのキューバの選手の柔らかいグラブさばきはそういった「どこにハネるかわからないものに対処する」という練習の積み重ねによって身についたものなのだろう、と小久保裕紀氏は『一瞬に生きる』のなかで述べています。

あの甲子園を連覇した駒大苫小牧も、名物である「雪上ノック」(=打球が減速しない&イレギュラーしやすい・足場が不安定である)によって守備を鍛え上げたといいますから、やはり、「思い通りに身体を動かす能力」というのは意識すれば鍛えられるものなのでしょう。

 

まとめ:「体を思い通りに動かす能力を高める」ためのアプローチ

では、具体的にどのようにすれば、体が思い通りに動く能力を鍛えることができるのか? をまとめてみました。

「体を思い通りに動かす能力を鍛えるための専門的トレーニング」を行う(→自分の主観と客観のズレを修正するために、鏡を見たりカメラで撮影したりする)。野球や陸上であれば、ウォーミングアップのなかで正確無比に体を動かすことを毎日継続する。もも上げのときに太ももは肋骨の○本目のところまで上げる、など。

「日常生活=スポーツ」にしてしまう。たとえば、歩くときにつま先をタイルの角にピタリと合わせてみたり、ペットボトルを持つときに指のどこでボトルのどこをつかむという自分ルールを決めておくなど

初動負荷トレーニングで、神経筋協応能を高める(→マシンがないのであれば、初動負荷形態のストレッチを行う)。思い通りに動く体(柔軟性+筋力のバランス+神経筋協応能)を手に入れる。思い通りに動く体を作るという意味では一般的なウェイトトレーニングには疑問符が付くかも?

栄養補給を充実させる。炭水化物に加え、タンパク質やマルチビタミン・ミネラル(MVM)を最適量補給して、脳と体の状態を良くしておく

意識的に「昭和のように」走りこんでみる。特にランニングは全身運動としては優れているので、「不整地を、自分の体をモニターしながら走破する」「変則的な走り方をしてみる」など。もちろんやりすぎは害になる

自分の状態や食べたもの・一日の行動・服装などをすべて記録して、どんなときに自分の調子がいいかをつかむ

瞑想をしながら、自分の体の隅々にまで神経がいきわたるイメージを育てる。丹田呼吸法を行う。脳をローアルファ波支配へと調整するよう作られた「機能音源」を用いた瞑想も効果的

・もちろん、自分の体を思い通りに動かせる能力に加えて、「どんなふうに動きたいのか」はわかっておく必要がある。一流選手の動きを観察したり、運動理論を学んだり、自分の考えをノートにまとめてみたり、運動学やスポーツ科学・解剖学などを学んでみたり。

あたりですね。

 

どれもほとんどタダ(初動負荷についてはジム代がかかる)でできますので、さらに上を目指したいアスリートの人も、運動神経を良くしたいと思っている人も、すぐにとりかかることができます。極端な話、スマホのフリック入力もスポーツにできますし、パソコンのマウス操作だって野球のバット操作に通じるものがあります。

 

「思い通りに動かす能力」についてもうひとつ。

西洋人・黒人は遺伝的に骨盤前傾ー肩甲帯伸展という身体的特徴を持っており、打撃・投球における「パワー」を発揮しやすいといえます。逆に、東洋人は骨盤後傾ー肩甲帯屈曲が顕著ですから、「パワー」で西洋人・黒人に比肩するのは難しいのかもしれません(将来的に克服される可能性はありますが)。

ただ、東洋系の選手がどんなスポーツでもまったく通用しないかといえばそうでもなく、野球においてはまさにイチロー選手が素晴らしい成績を残し、メジャーレベルでも突出したヒットメーカーとして活躍されました。逆に、現時点では、「純粋なパワーヒッター」としてメジャーのHR王争い常連になるような選手は、アジア系打者では皆無です。

もちろん、将来的には「東洋人が西洋人以上のフィジカルを手に入れる」可能性はあります。遺伝や体格差の壁すらも取り払ってしまうような技術が生まれるかもしれませんが、少なくとも現時点では実現できていません。

 

東洋人が西洋人よりも優れている可能性が高いもの、それは「巧緻性」=身体を思い通りに動かす能力です。

初動負荷理論を提唱された小山裕史氏も、『初動負荷理論による野球トレーニング革命』のなかで「生来骨盤が前傾している西洋人のトレーニングは、遺伝的に骨盤が後傾し膝関節伸展に頼る比率が高い東洋人にマッチしない可能性が高い。その一方で、東洋人の骨格的特徴からすると、下半身の操作の巧緻性は求めやすい。だから、下半身の巧緻性を保持しながら、西洋人のような骨盤前傾=股関節進展の力をもある程度身に付けていくということが優先課題ではないか」という意味のことを述べられています。

その意味で、「身体を思い通りに動かす能力=巧緻性こそがスポーツの要である」と見抜いた武井壮さんの慧眼はお見事としか言いようがありません。

 

フィジカルを上手に最適化しながら、「体を思い通りに動かす能力」を鍛える。

東洋人がスポーツで活路を見出すには、それが一番だと私は思っています。

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