プロ野球中継を「センターカメラ」で観る球児たちに伝えたいこと

   

プロ野球中継を「センターカメラ」で観る球児たちに伝えたいこと

本当は怖いセンターカメラ

プロ野球中継をセンターカメラでずっと見ていると、「誤差」が生じる可能性が高い

プロ野球中継といえば、↓この角度からの中継が思い浮かびます。

昔(1970年代後半以前)の野球中継は、バックネット裏から映したものが主流でした。

しかし、バックネット裏から移した映像は打者も投手も小さく映ってしまい、ボールの変化や細かいコースも分かりづらいものでした。

そこで、「1977年にパ・リーグの野球中継でセンターカメラが導入・採用され、それが好評だったので、セ・リーグも1978年にセンターカメラを導入した」ということのようです。

 

プロ野球中継はおしなべてこの角度ですから、日本の野球少年・野球選手たちが一番よく観ている映像は、↑のアングルからの映像だということになります。

つまり、この「センターカメラからの映像」は、実は、日本の野球少年たちが「これがプロ野球選手の動きだよ」というイメージを作り上げるときにもっとも参考にされるものでもあるということになります。

 

・・・しかし、その「センターカメラからの映像」こそがクセ物なのです。

理由はこの記事のなかで触れていきますが、センターカメラの映像にばかり慣れ親しんでいると、

・「(特に右投げの人は)いわゆる開きの早い動作をしてしまうようになる」

・「頭の中でイメージした『プロ野球選手の理想的な動作』と、実際のプロ野球選手の動作の間に、かなりの誤差が生じる」

という結果を招く可能性があります。

 

具体的にはどういうことなのか、解説していきます。

 

センターカメラの落とし穴①:「右投手の投球フォームが10°ほど開き気味に見え」てしまうのに、それを意識できない

日本のセンターカメラは、

①「投手の真後ろからではなく、若干レフト側から(約10°くらい)撮っている」

②「カメラの位置が高く、だいたい地上4m~6mくらいから撮影している」

③「かなり遠くから(100m~120m)ズームして撮っているので、18.44mという距離がかなり圧縮されて見える」

という特徴があります。

 

まず一つめの、①「投手の真後ろからではなく、若干レフト側から(約10°くらい)撮っている」について。

ピッチャーズプレートとホームベースを結んだ線というのは、だいたいこのようになります。

神宮球場の場合

甲子園球場の場合

ふだん野球中継を見ているとなかなか気づかないんですが、こうやって赤い線を引いてみると、

思ったよりもはるかに角度が付いていることがわかります。

 

水平面だけを考えてみると、誤差はだいたい10°~20°くらい?

「カメラがズームしている」「高いところから撮影している」という事情も重なるので、

センターカメラの映像というのは正確に見えて、かなり歪んだものだ・・・ということがはっきりします。

確かに、「パッと見のわかりやすさ」だけで言えばセンターカメラに軍配が上がるんですが、

センターカメラの映像ばかり見ていると、プロ野球選手の素晴らしい動作をかなり誤解してしまうことにもなります。

 

たとえば、センターカメラの映像からだと、「右投手が、かなり開いて投げているように見え」ます。

楽天・則本投手のテイクバック時の「体の開かなさ」が、センターカメラだとこの程度↓にしか見えませんが、

角度の誤差がほとんどない審判カメラだと、このように見えます。

(球場こそ違いますが、カメラの位置はそれほど変わりません)

 

上の画像を見た感じだと、けっこう「開いて」いるように見えます。

しかし、ほぼ同じタイミングを映した下の画像だと、かなり「開きが抑えられて」いる感じを受けませんか?

 

センターカメラは、水平面の角度でいうとだいたい10°強ズレているわけです。

となると、「センターカメラ映像だと、右投手の投球動作が、実際のそれよりもだいたい10°近く開いて見える」のは当たり前(左投手であれば、逆に「開きが遅い」ように見えます)。

 

怖いのは、その誤差をしっかりと意識しないでセンターカメラ映像ばかり見ている(90%くらいの球児はそうでしょう)場合の影響です。

もしかすると、「プロ野球選手はこうやって投げている」という確固たるイメージを持っている右投げの選手ほど、体が早く開く・・・という現象が起きているのではないでしょうか。

 

いわゆる「体の開きが早い動作」をしていると、下半身で生み出され、筋肉の収縮によって伝えられてきたエネルギーが肩・肘のあたりで遮断されて、そのあたりに余計な負担がかかります。

ボールはスライダー回転(トップスピン)し、球速も出ません。

体の開きが早いと、自動的に「頭が突っ込み」「肘が潰れる」投球動作になります。

肘が潰れると、上腕二頭筋・上腕三頭筋が共縮を起こします。肘が痛くなる原因にもなります。

 

これは、『初動負荷理論による野球トレーニング革命』のなかで小山裕史さんが述べているような「腕を加速させるときに、肩より後方に肘が位置すると、肩も肘も楽である」という投げ方の対極です。ケガしやすく、球速も上がらないので、「体の開きが早い」と良いことが何一つありません。

参考:大リーグ300勝ピッチャーの投球動作(テイクバック時)。ダルビッシュ IN MLB様より引用

 

体の開きが早い動作になってしまうと、選手生命が縮んだり、上のレベルでやるだけの能力が付かないという結果になりかねかません。

 

日本の野球人口が700万人だとすると、そのうち80%~90%は右投げです。

つまり、日本の野球人口の大半にあたる約600万人の人々が、

「センターカメラ映像をぼんやり見ていて、プロ投手の動作を誤認し、体の開きが早くなる」

→「肘が潰れるような投球動作になり、球速も出ないしケガもしやすい。何より、投げていてちっとも気持ちよくない」

という黄金ルートに乗っかってしまっている可能性があります(体が開く、というのはかなり漠然とした表現ですが)。

 

私の個人的な経験からしても、

・「左投げで、体の開きが早い選手は少ない」

・「右投げで、体の開きが早い選手の割合は、かなり高い」

というのが実感としてあります。

外野手の送球フォームなどを見ていても、左投げは体を開きませんし、逆に右投げの人は体があまりにも早く開く選手が多いのです。

体の構造による影響もあるのでしょうが、センターカメラ映像による開き具合の誤認というのもひとつ大きな要因ではないか、と思っています。

 

・・・というわけで、「センターカメラばっかり見ていると、特に右投げの人はヤバいかも」という結論になります。

 

「そんな大げさな」と言いたい人もいるかもしれませんが、一応科学の雑学的な知識を使ってヤバさを説明することもできます。

ジャコモ・リッツォラッティ氏が発見した「ミラーニューロン」という概念を使います。

ミラーニューロン(英: Mirror neuron)とは、霊長類などの高等動物の脳内で、

自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。

他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように”鏡”のような反応をすることから名付けられた。(wikipedia から引用)

このミラーニューロン、他人の表情やしぐさを見ているだけで発火します。

もともと、研究者がサルの前でアイスを食べているときに、アイスを食べていないはずのサルの脳内に、まるでアイスを食べているかのような反応が現れた・・・ということで、発見に至ったそうです(行動科学の授業のうろ覚えですが)。

ミラーニューロンは、ばっさり表現してしまえば「勝手に他人の物まねをする機能」。これがないと赤ちゃんが社会性を獲得できませんから、極めて重要な機能です。

 

ぼんやりとセンターカメラ映像で野球中継を見ている子供たちの脳内でも、ミラーニューロンが発火していた可能性はあります。

約10°強という、脳にとってはごく小さな(しかし大きな)ズレを修正できないまま、「プロの投手はこうやって投げている」と脳内シミュレーションを行って、よしと思って実際にボールを投げてみるものの、「アレ、なんか球が行かないし、肘も痛いし、投げてて気持ちよくないぞ」と。

こう考えると、センターカメラによる誤差というのは小さい問題に見えて、かなり深刻だともいえます。

 

・・・というわけで、「センターカメラ映像は、ヤバい」というのを一応科学的に(雑学的に)説明することはできました。

 

「ピッチャーの真後ろから撮ればいいじゃないか!」とも思いますが、

打者の集中力を削ぐ可能性があるからか、日本ではあまり「ピッチャーの真後ろからの映像」は見かけないですね。

バッターからすると、ピッチャーのすぐ後ろに見えるバックスクリーンに余計なものがあると気が散るんだろうと思います。

 

真後ろからの映像は、メジャーリーグの中継では比較的よく目にしますが、日本だと福岡ドームなどのフェンスが高い球場くらいでしか見られません。

高い位置から撮影しないと、ピッチャーとキャッチャーが重なってしまうからでしょうか?

それか、センターカメラを切り替え可能にして、↑審判カメラ目線を視聴者が好きな時に見れるようにしたほうがいいかもしれません。

 

センターカメラの落とし穴②:「やや高いところから映した映像である」ことを忘れがちになる

①では「左右のズレ・水平方向の誤差」について触れましたが、

「上下の角度のズレ=垂直方向の誤差」も考えておく必要があります。

 

センターカメラというのは、スタンドの半ばあたりに設置されています。

甲子園球場↑はだいたい地上4~5メートルでしょうか。

ドーム式の球場だともう少し高くなります。

「100メートル先でやっていることを、5メートルくらいの高さからズームして撮影する」わけですから、

だいたい、

1.やや上のアングルから撮影しているので、「投手の踏み込み幅をやけに狭く感じる」ことになる。横から見た映像だと思いっきり広くステップしている投手でも、センターカメラからだとかなり高い姿勢で投げているように見える

2.マウンドの傾斜があることを忘れがちになる。マウンドというのは、実際に投げてみるとわかるが、そこそこの傾斜がある。センターカメラからだと、角度的にマウンドの傾斜を意識しづらい

という結果になります。

 

というわけで、センターカメラには「水平面の誤差」に加えて、「垂直面での誤差」が生じることを覚えておかねばなりません。特に投手の人は。

 

③18.44mという距離感を「やけに短い」と錯覚しがちになる

もしかすると、これが一番厄介かもしれません。

「18.44m」というのは、けっこうな距離になります。

まったく運動していない人であれば、たとえ男性でもノーバウンドで届くか怪しいくらいの距離です。

↑こうやって見ると、かなりの距離があるとわかります。このくらい遠いのが、

こうなるわけです。こっちのアングルだと、かなり近いように感じます。

 

実際、「130km/hくらいの球」というのは、野球中継のセンターカメラだとかなりお辞儀しているような印象を受けます。高校野球中継などを見ていて、「なんであんな球を空振りするんだろう」と思う方は多いと思います。

しかし、実際打席に立ってみるとかなり速く感じるはずです。

センターカメラだと打てそうに見える140km/hくらいのボールでも、球場に行って実際に見てみると相当なスピードがあります。審判カメラの映像で実際のバッター目線に近い感じを体感してみると、かなりの迫力があります。


この「センターカメラだと、18.44mをかなり近いものと感じてしまう」というのは、

ピッチャーにはあまり影響がないと思いますが、バッターには相当な影響があると思われます。

 

私自身、小学生時代に、当時ファイターズの主砲だったセギノールや小笠原が軽々とホームランを打つのを見て、

「なんだ、ホームランって簡単に打てるんだな」と思っていましたが、野球少年団に入団するとともにその鼻は木っ端みじんにへし折られました。

ホームランって、センターカメラだと簡単に打っているように見えますが、相当なスイングスピードでジャストミートしないと打てないんですよ。ブライアントの四打席連続や、バリー・ボンズのホームラン集などを見ている限りでは「ひょっとして自分でも打てるんじゃないか」と思いたくなりますが、実際はまるで違います。

 

・・・ちなみに、「センターカメラによる水平面・垂直面の誤差」は、バッターにも影響を与えます。

ピッチャーの場合と逆で、

「右打者は実際よりも開かないように見えて、左打者はかなり開いているように見える」

ということになります。

 

センターカメラでバッティングを見るのであれば、

「バッターボックスのラインの角度と、選手の両肩同士・両股関節同士を結んだ角度とを比べる」

ことをおすすめします。こうすれば正確な動作を把握できます。

そうしないと、ピッチャーの場合同様に、理想の動作のイメージがかなり(10°程度)ズレることになりかねません。

 

・・・あるいは、センターカメラで野球を簡単なものと錯覚してしまう(あるいは、パワプロで打てるから実際の球も打てるだろうと思う)ことによって一番心理的に「得」をしているのは、

テレビの前で寝そべりながら「あ~、なんであんな球を振っちゃうのかなあ。ダメだなこいつは」と選手をボロクソに言える、野球好きのおっさんなのかもしれません。

 

まとめ:「思った通りに体を動かす」

問題だ問題だと言っているだけではこの記事を読まれた方へ何一つ情報をお送りしたことにはならないので、

センターカメラ映像に騙されないための方法を考えてみました。

①他のアングルの映像も見てみること。審判カメラ・真横・真正面から・・・など。多角的に分析する。

②センターカメラの映像を見るときは、頭の中で補正をかけてやる。

③「実際に自分がその選手になりきる感覚」を大切にしてやる。各関節の角度や、動きのタイミングを完全に同化させる(頭の中で)。

だいたいこの三つを心掛けると、頭の中にあった「ピッチングの誤った理想像」がだんだんと浄化されていくのを感じるはずです。最初は多少難しいかもしれませんが、慣れれば簡単です。

 

なお、「良い動作ができるようになるための3ステップ」というのを考えてみました。

①理想の動作を頭に叩き込む。考える。理屈で理解する。一流選手の動きや感覚を調べたり、運動理論をたくさん学ぶ。とにかく「ここがこうなるとこうなる」という情報を頭の中にたくさん詰め込む。

②理想の動作ができる身体を作っていく。特に「股関節ー体幹ー肩甲骨」の柔軟性と、筋力のバランス。

③あとは効率的に技術練習を行っていく。時には量をこなしたり、自分の動きをビデオや連続写真にして見てみるとか。理想の動きと自分の実際の動作との間にある差を埋めていく作業を繰り返す。

つまり、動作改善のためには、

①「理想の動作をイメージできるようになる」→②「理想の動作ができるだけの身体作りをしていく」&③「理想の動作と現実の動作との間にある差を、動作練習・技術練習で埋めていく」

というのが、現時点での私の結論です。

今回のセンターカメラの話は、①と関連します。理想の動作を誤認しますよ、というわけですから。

 

ちなみに、「動作が改善する」ことで、野球のパフォーマンスは劇的に向上します。

私が実際に聞いた例だと、

・ロングティーの飛距離が数日で30m-50mも伸びた

・高校時代は遠投60mだったのが、大学に入って投げ方を直したら一気に100mまで届くようになった

・下半身と腕の振りが連動していなかった学生に、「前足が付くと同時に腕を振る感覚で投げてごらん」とアドバイスすると、すぐに遠投の距離が10m伸びた

・『私は100メートル13秒台の男子選手が数か月の指導で10秒台に突入する例などを、数多く見てきました。長い間、彼なりに努力をしつづけて「13秒台」、これが「10秒台」に突入した時、彼が言われ続けてきた「13秒台が君の能力の限界」をどのように説明できるのでしょう。』(――『「奇跡」のトレーニング 初動負荷理論が「世界」を変える』より)

 

良く考えてみれば、そもそもピッチングやバッティングというのは、

「下半身・体幹で生み出したパワーを、筋肉の弛緩ー伸張ー短縮というリズムのなかでスピードを増加させながら伝達していく」

という作業です。

動作がおかしいと、そのパワーが途中で中断することになります。

 

100ある力が70くらいに減ったりする・・・ということは、その逆もあるということです。

実際は70のパフォーマンスしか出ていないのに、自分では「100」=これが自分の限界、と思い込んでいる人が案外多いのではないでしょうか? 少なくとも、「打っていて気持ちのいい感覚がない」「投げていて爽快感がない」人は、改善の余地がかならずあります。

具体的な数字で言えば、

・140km/hが出ない

・ホームランを打つことができない

という人であれば、かならず動作の改善ポイントがあります。

 

ただ闇雲に素振りや投げ込みの数を増やしたり、きついトレーニングに取り組むよりも、

・より良い動作ができるための身体を作る、そういうトレーニングを継続する

・より良い動作とは何かを考え、学び、自分の身体でどんどん試していく。良い動作とは何かを知っている人の目で見てもらう

というアプローチがもっと重視されていいのかな、という気はします。

(ちなみに私のおすすめは断然初動負荷トレーニングです。動作指導であれば、鳥取本部の合宿に参加すると良いでしょう)

 

いまの野球界は「量を重視する」という思想がかなり根強いようで、

白米をどんぶり○杯詰め込んだり、一日1000スイングしたり、100m走を100本走ったり・・・というのが主流のようですが、「そもそも良い動作ができていないのに…」という感じもあります。いま私たちは昭和の野球界のトレーニングを「古臭い、非科学的な根性主義だ」と一笑に付すがわの立場ですが、今度は「平成の野球界はどんだけ理不尽がまかり通っていたんだ」と言われないとも限りません。

 

良い動作さえ身に付ければ、良い動作のできる身体さえ手に入れれば、もっともっと簡単に能力がアップするはずです。良い動作を身に付けたあとに、思う存分振り込んだり投げ込んだり走りこんだりすればいい、と私は考えています。効率よく量をこなすということは技術習得には絶対に必要なことですから。

 

長い記事になりましたが、野球好きの方のために、この記事が役に立てば幸いです。

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