『キノの旅 19』(時雨沢恵一)には、いぶし銀な面白さがある

      2016/08/31

ライトノベル業界の一等星

書店によく行く人ならわかると思いますが、ライトノベル売り場に立ち入るのはちょっとした勇気がいります。

本屋さんというのは「知識こそ正義だよ」みたいな顔をしているもんですが、その中でいえばライトノベル売り場はプチ魔境です。

 

うかつに足を踏み入れようものなら、

「うわあ、あの人、あんな表紙の本買ってる・・・いい年なのに」とか、

「教養も品性もなさそうな本だね。恥ずかしくないの?」とか、

「ラノベコーナーにイケメンっていないよね。みんな冴えない顔してるじゃないですかーやだー」

とか、いろいろな声(幻聴)が聞こえてきます。

表紙が表紙なので、レジの女性店員の目も確実に険しくなります。(幻視)

さて、今回は、ライトノベル界の読売巨人軍こと電撃文庫の誇る看板シリーズ「キノの旅」の最新・19巻。

 

資源ごみが多いと言われるライトノベル市場ですが、この『キノの旅』シリーズだけは、ぜひ、恥ずかしい思いをしてでもライトノベルコーナーから買ってきてほしい。

それだけの面白さがあります。

 

キノの旅の面白さってどんな面白さ?

私見ですが、このシリーズは、プロ野球でいえば.298 17 65を15年続けている選手のような感じ。

具体的な選手名で例えると、元ロッテの山崎裕之くらいでしょうか。

軽いノリの作品やガッチガチのハイファンタジーが多いライトノベル業界の中では、いぶし銀というか、爆発的ではないにしろ確実な面白さを届けてくれる稀有な存在です。

 

この本をはじめて手に取ったのは、たしか、中学校の図書室だった。

当時はライトノベルという言葉を知らなかったので、「なんかボーイッシュな感じの可愛い女の子? 女の子っぽい美少年? が写ってるな」と思いながら本を手に取って、いざ読んでみると、その中身にびっくり。

ダークというか、寓話的というか、心をジワジワと締め付けてくれるような鋭い視点の短編がたくさん入っていました。

斬新というか、妙に生々しいというか、「ああ、人は死ぬんだな」という感触がやけに生温かかった。ソフトタッチな絵柄とのコンビネーションが絶妙で、妙に印象に残りました。

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将来お金持ちになったら買いたいです。

キノが乗ってるバイク(ブラフ・シューペリア)と、師匠と相棒が乗ってる黄色い車と、シズ一行が乗り回してるバギー。

全部買うとしたら2000万円くらいはすっ飛んでいくんですかね?

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うーん、欲しい。乗らなくてもいいから、縁側に置いて毎日眺めたい。

 

作家志望者向けに格好の教材

一冊につきだいたい短編が10話ちかく入っています。短編連作というか、アンソロジーというか、そんな感じです。

なお、この作品のなかで、小説家志望の人間にとって参考になるのは、

・キャラクターの立たせ方

・短編の書き方

でしょう。

「キノの旅」に出てくるキャラクターは、どれも血肉の通った人間のようなリアルさと、偶像チックな一面とを兼ね備えています。「奇抜な設定が先行しちゃって、行動の回路が見えないキャラ」とか、「平凡すぎて印象に残らないキャラ」とかは出てきません。キャラを立たせるテクを盗みましょう。

短編としても完成度が高い。捻りが利いたものが多いし、アイディアも「あっなるほど、それがあったか」という質の高いものがバンバン出てきます。短編集としても高い水準にあるといえます。

読んで損はない、というより読めば得するし、逆に読まなかったら、読んでる作家志望者との差がついてしまうようなシリーズでしょう。

おすすめ!

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