「心技体」から『フィジカル・動作・マインド』へ――その1:「フィジカル」のためにできること①

   

「心技体」から『フィジカル・動作・マインド』へ――その1:「フィジカル」のためにできること①

「心技体」から「フィジカル・動作・マインド」へ

なぜ「フィジカル・動作・マインド」なのか?

「心技体」というのはもともと柔道界発祥の言葉です。

 

しかし、「心技体」という言葉はどこかつかみどころがない&ややイメージされる範囲が狭い、とずっと感じてきました。具体的には、

①「心」というと、根性とか精神といったものだけに限定されてしまう(ように思える)

②「技」というと、なんとなくテクニックのことを思い浮かべてしまう(ように思える)

③「体」という言葉のインパクトが弱い

③心技体というと、イメージがちょっと漠然としている(気がする)。もっと具体性のある言葉のほうが実感しやすいはず

という違和感をずっと抱いてきました。

 

そこで私は、20世紀~21世紀初頭のスポーツ界で広くつかわれてきた「心技体」という言葉の代わりに、

「フィジカル・動作・マインド」

という表現を使います。

そして今回の記事では、その「①フィジカル ②動作 ③マインド」をそれぞれバランスよく鍛えていくにはどうすればいいのか、ということを考えてみます。

 

ちなみに、もともとは『「動作」というより「動作&技術」かな?』と考えていたのですが、

考え直して「動作」のみにしました。

技術というのは結局「動作」のことを指している、と考えたからです。

動作として表現されない技術はまずありません。あらゆる野球の技術(たとえば、薬指を中心にしてグラブを扱うなど)は結局、動作として表現されます。

 

また、「マインド」のなかには「戦術・配球・戦略」「勉強・人生・処世術」といったものも入っています。

マインドというと、選手としての基本的な考え方や自己イメージの作り方だと思う人が多いかもしれませんが、野球のために&人生のために必要なすべての精神的・頭脳的要素を「マインド」と総称しています。

 

1.フィジカル強化のためにできること

1-A.「食事」

増量期なのかシーズン中なのか、どの程度運動しているのか、痩身なのか肥満気味なのか、筋肉質なのかそうでないのか・・・といった個体差があるので一律には決めることができないのですが、だいたいの目安としては

・3500-5000kcal/日 程度

・炭水化物の量:500-800g程度

・タンパク質:「体重×2.2g」以上

・サプリメント類の上手な摂取(ビタミン・ミネラル系 + トレーニングの補助用)

・野菜などを積極的に追加する。理想は一日あたり350g以上だが、野菜ジュースでもある程度は代用可

栄養学やS&Cに詳しい人から見るといろいろ言いたいこともあるかもしれませんが、

だいたい↑このくらいが野球選手(瞬発系アスリート)の基準かな、と思います。

 

よく「アスリートにとって、食事は基本中の基本」と言われますが、

私が思うに、その根本的な理由は次の通りです。

・現在の自分の身体は、「これまで自分が食べてきたもの」だけでできている

・食事は、「筋肉量の多さ・筋肉のコンディション・脂肪量の少なさ・脳のコンディション・胃腸のコンディション・体調の良し悪し・精神状態の良し悪し」などに多大な影響を与える

・食事で摂取できるものは、①「自分の状態をよくしていくもの」 ②「自分の状態を悪くしていくもの」に大別できる

・結局、迷ったら「良いものたくさん食って、たくさん鍛えて、たくさん寝て休む」のが一番確実。たくさん食ってたくさん鍛えてたくさん寝るヤツが強い。

食事は意外とプレーに影響します。

「あと一歩でセーフになれたのに」

「あと10cmで追いつけたのに」

「あと10km/h出ればプロに入れたのに」

「あと1メートル飛んでいれば外野の頭を越したのに」

・・・

こういった「あと○○していれば」という後悔を極力減らすことができるものがあるとするなら、

そのひとつは間違いなく「食事」だと思います。

 

1-B.「サプリメント」

残念ながら、「アスリートに必要な栄養素を、すべて食事から摂る」のはおそらく不可能に近いと思われます。

いろいろな理由があって食物中の栄養素の量が下がっている(らしい)のと、

単純に「毎日良いものばかりを食べる」という食生活は手間と時間がかかりすぎます。

 

・・・そこでサプリメントの出番です。

サプリメントとはあくまでも「栄養補助食品」であって、医薬品とは違いますし、完全に食事の代わりになるものでもありません。

「なるべく食事を充実させるようにして、さらに高いパフォーマンスを得るためにサプリメントを使う」というのが本来のあり方だと思います。サプリメントは目的ではなくあくまでも手段である、ということさえ忘れなければ、これほど力強い味方はそうはいません。

以下に、ひとつの例として、私が北大の野球部員におすすめしているものを記載しておきます。

 

①人間の身体に必要な微量栄養素(ビタミン・ミネラル)を補充する 

マルチビタミン・ミネラル → 個人的おすすめはOPTI-MEN(90or150or240錠)

(ElanVitalやAnimalPakやtwoperdayやアルファメンなどいろいろありますが、費用対効果がもっとも良いと思われるのがこれです。なお、D○CやN○turem○de、ディア何とかなどは個人的にはおすすめしません。一般人向けには良いかもしれませんがアスリート向けとしては含有量が全体的に少なすぎます)

亜鉛 → 個人的おすすめはNOWFoodsの亜鉛50mg×250錠。テストステロン合成・筋タンパク合成促進・メンタル強化

ビタミンC → 個人的おすすめはヘルシーカンパニーの粉末ビタミンC1kg免疫力向上・抗酸化作用・コラーゲン合成・筋タンパク合成上昇効果があるとか。ちなみに高濃度ビタミンC点滴療法というのも存在し、かなりの効果を上げているそう

(なお、ビタミンCは吸収率や脂溶性or水溶性などがよく議論の対象になります。今後の展開をチェックしておくべきです)

 

このほかにもビタミンE・ビタミンD・マグネシウムカルシウム・ZMAなどいろいろサプリメントはありますが、値段と効果のバランスを考えると↑の3つがあれば良いかな、と思っています。

 

②トレーニング効果を高めるもの(★マークはおすすめ)

★クレアチン・・・挙上重量増加・筋肥大の促進・除脂肪体重の増加・脳の疲労軽減など

★BCAA・・・バリン・ロイシン・イソロイシン。筋肉の分解抑制・疲労軽減など

・EAA・・・9種類の必須アミノ酸のこと。筋タンパク合成促進など

・グルタミン・・・ハードなトレーニングからの回復促進

★フィッシュオイル(DHA・EPA)・・・筋タンパク合成促進・脳の健康維持・精神的健康

★ワークアウトドリンク用の粉飴orマルトデキストリンorヴィターゴ

・HMB・・・筋肥大促進?

など、よく耳にするのはこのあたりです。

このほかにもカフェインとかクエン酸とかいろいろありますが、私は生化学・栄養学を専攻している人間ではないので正直あまり詳しい情報までは把握していません。私に訊くよりGoogle先生に訊いたり医学論文を読んだり筋肉博士に訊いた方が良いです。

 

世の中にはたくさんの相反する情報があります。

「BCAAは効果ない!!」「いや効果がある!!根拠のないことを言うな!!」とか「HMBはアメリカでは一旦流行したが効果がなくて廃れた!!」「いや、○○という論文では統計的に有意な差が出ている!!」など。

そういう情報について、正直なところわれわれ一般人というのは真偽のほどを見極めることができません。専門的な知識を持っている人でないと無理でしょう。↓こういう情報とか。

正しい情報とは??

ですから、われわれ一般人がすべきなのは「ある程度信頼のおける(=自分が絶対に正しいとは思っていない&エビデンスを明確に示せる人)情報源を見つけること」「その情報源をこまめにチェックすること」「少なくともいま飲んでいるぶんのサプリメントについては調べておくこと」くらいです。

そうしておけば、サプリメント市場でいたずらに散財することも減るでしょう。

 

③さらなるパフォーマンスアップ

①と②だけでも月1~2万円の出費になるかもしれません。それでもなお懐が温かいという人はこういうものの摂取も考えてみていいかもしれません。

・チロシン

・アルギニン

・高麗人参

・イチョウ葉

・コエンザイムQ10

など・・・正直ここまではいらないかな、という感はありますが、お金があるなら摂ってもいいでしょう。

 

ぶっちゃけた話、「これを飲めば○○という効果が出る!」という実験結果が出ているサプリメントというのは世の中に無数にあります。信頼のおける方法で検証されたものもあれば、製薬会社と科学者が結託したのでは?と疑いたくなるようなものもあります。

良いとされているものすべてを飲もうとすると、冗談抜きで年数百万は飛んでいきますので、まずは①と②からはじめてみてはいかがでしょうか。

 

1-C.「ウェイトトレーニング」

ウェイトトレーニングについての議論は錯綜していますが、ウェイトをまったくしないというのは正直もったいないように思います。私はウェイト肯定派(ただし、やり方には注意すべき)という立場なので、いちおう「ウェイト否定派」の方がよく言っておられることに反論を加えておくことにします。

 

・「筋トレの筋肉は実戦では使えない!野球の筋肉は野球で!」

→「鍛えた身体で実際の動きをする練習」をすればいい。筋力トレーニングで鍛えた身体を活かす、というのも「技術」じゃないんですか? きちんとトレーニングメニューを組めば、「筋肥大→最大筋力アップ→瞬発力→実際の動き」という流れになるはず

・「筋力トレーニングで身体が重くなる・動きが鈍くなる!」

→100メートルの世界王者は筋骨隆々だけど…NFLの選手なんて190cmの110kgくらいでもものすごい敏捷性ですよ。阪神の金本選手は一番体重のあった93kg時代が一番足の速い時期だったとか

・「筋力トレーニングをすると身体が硬くなる!」

→たしかに、スロトレばかりやりまくったり、あまりにも広背筋だけを鍛えまくったりすると関節可動域に支障は出るかもしれない。しかしそもそもそんな極端な鍛え方をすること自体がおかしい。また、柔軟性を増す初動負荷とウェイトを併用すればいいのでは

・「昔の選手は走り込みで下半身を作った!」

→プロでも平均球速が140km/hに行かない時代でしたけど・・・明らかに今の選手のほうがパフォーマンスは高い。140km/hを投げる高校生が全国に数百人単位でいる時代。

・「昔の選手はケガしにくかった!」

→ただ単に「ケガしているなんて言えなかった」だけじゃないのか? 今はそういう時代じゃない

・「筋力トレーニングは実際の動きとは違う!」

→実際の動きにそのまま負荷をかけたらケガします。キューバのナショナルチームでさえボールの重さを+10g程度に収めているのに…正確には「トレーニングで獲得した圧倒的フィジカルを使って野球をする」です。

・「西洋人と東洋人は骨格的特徴が違う!日本人にはトレーニングは合わない!」

→なら日本人の骨格的特徴に合わせてウェイトトレーニングをやればいいだけの話

・「イチローはウェイトトレーニングをしない!」

→そりゃ、ウェイトしなくても成功する人は成功するでしょう。ただ、普通の人はウェイトをやったほうが成功する確率は高くなるんじゃないですか? 皆が皆イチロー選手と同じわけではないですよね? 「冬に筋肉をつけると春先に動きが悪くなって、筋肉が落ちてくると調子が上がる」というイチロー選手の実体験は、1990年代当時の未熟なトレーニング環境からすると当然と言えば当然だったのかもしれません。

・「身体が細くても打てる! ボディビルダーだからといって必ずしもホームランは打てないだろ!」

→「筋肉の出力」って、飛ばすためのひとつの要因ではあるんじゃないですか? 飛距離と体重の相関関係をどのように説明しますか? もしも王さんがあの技術にプラスして圧倒的なフィジカルを持っていたら1000本塁打に到達していた可能性はありませんか? (ちなみに、ちょっと前のメジャーリーグでは「ボディビルダー兼野球選手」という肩書のゲーブ・キャプラー選手が活躍していました)

 

いちおう私は「古臭いものと、古きよきものと、新しくて良いものと、新しくても効果がないものを区別しよう」と言っています。ウェイトトレーニングは基本的には「新しくて良いもの」ですが、やり方を間違えると「新しくて効果のないもの」になる可能性はあります。

 

特に、「もともと動作がきれいな人」はウェイトトレーニングで「覚醒」する可能性が高いといえます。

楽天の美馬投手や元阪神の金本選手、巨人澤村投手・戸根投手、元西武のGG佐藤選手などは、もともとそこまで評価の高い選手ではなかったのですが、徹底的なウェイトトレーニングで「覚醒」を果たします。

逆に、現時点であまり動作がきれいではない人は、まずは初動負荷トレーニング(次の項で紹介)を行って股関節・体幹・肩甲骨の柔軟性確保&動作改善に努めてからフィジカル強化に移っていく・・・というアプローチをとる手もあります。

 

1-D.「初動負荷トレーニング」

「機能マヒの方のマヒが改善される」「立てなかった人が歩けるようになる」「数日間で飛距離が数十メートル延びる」「100m13秒台だった選手が10秒台で走れるようになる」「肩肘の痛みが消える」といった奇跡的な実績を上げている初動負荷トレーニング。

私は、初動負荷トレーニングの優れたところは「実際の動作をもとに組み立てられたトレーニングである」という点にあると考えています。この点において、初動負荷トレーニングはウェイトトレーニングの対極に位置します。

いちおう初動負荷トレーニングの定義を貼っておきます。

初動負荷理論定義:反射の起こるポジションへの身体変化およびそれに伴う重心位置変化等を利用し主働筋の弛緩-伸張-短縮の一連動作を促進させるとともに拮抗筋、並びに拮抗的に作用する筋の共縮を防ぎながら行う運動

 

提唱者の小山裕史さんは「しなやかで美しい動き」という表現をよく使われます。

しなやかで美しい動きとは何でしょうか?

→反射の起こるポジションへの重心移動の先行をきっかけとして、主導筋と拮抗筋が共縮を起こさずに、少ない力感で「弛緩ー伸張ー短縮」を繰り返しながら、中心部→末端への運動連鎖が行われていく・・・というものです。

 

↑は私なりの説明ですが、↑のようなしなやかな動作を行うための身体作り、という意味で初動負荷トレーニングはかなり有用だと思います。

もっと具体的に言うと、「投げるときにどこかでロスを起こしている選手」「打つときにどこかで力をロスしている選手」などが、その力のロスを無くしたいと思ったとき、いちばん役に立ちそうなのは初動負荷トレーニングだろう、ということです。動作によるロスというのはかなり深刻な問題で、逆に言えば、それさえ解決してしまえば「球速がいきなり10km/h上がる」「飛距離が数十メートル伸びる」「足が突然速くなる」というのは当たり前のように達成できます。

動作自体を劇的に改善できるトレーニングというのはごく少数で、初動負荷トレーニングはその一つの手段です。

 

整理しておくと、

・ウェイトトレーニング:もともと動作のきれいな人が、より強い身体を手に入れるために行う・・・と効果が高い。もちろん、動作がきれいじゃない人でもやっていいけど、動作の改善をしないことにはどこかで頭打ちになる

・初動負荷トレーニング:もともと動作がきれいではない人は、より良い動作を手に入れるために行う・・・と効果が高い。もちろん、もともと動作のきれいな人がもっと良い動作を求めるためにやってもいい

というものです。あくまでも私個人の考えです。

次回、『「心技体」から『フィジカル・動作・マインド』へ――その1:「フィジカル」のためにできること②』に続きます。

 

 

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