「日本人の右打者にほぼ共通と思われるバッティング動作」について

      2017/12/08

「日本人の右打者にほぼ共通と思われるバッティング動作」について

はじめに:前提となる話

今回の記事では「日本人の右打者にほぼ共通と思われるバッティング動作」についての私の考えを紹介します。

ただし、本編に入る前に

・「『意識・感覚』と『実際の動作』の話はきっちり区別する必要がある」

・「バッティングに『正しい』『絶対』は存在しない」

ということを知っておいていただきたいので、軽く説明しておきます。

 

①「感覚・意識」と「実際の動作」はきっちり区別する必要がある

バッティングを語るときに気を付けなければならないのは、

「感覚・意識」と「実際の動作」の間にはズレがある

ということです。

 

たとえば、実際の動作では、軸脚から前脚に体重を移してスイングしている」プロ野球の一流選手であっても、

本人のなかでは「軸脚に体重を残したままその場で回転しているという感覚でスイングしている」のかもしれません。

十分あり得るケースです。

 

本人のなかだけで「自分は軸脚に残してスイングしている」と思っているだけならまだ良いのですが、その選手がバッティングのコツを訊かれたときに

「バッティングの基本はね、軸脚に体重を残したままその場で回転することなんだよ」

と答えたり本に書いたりして、それを聞いた人が

「なるほど、バッティングは軸脚に体重を残したままその場で回転するものなんだな。プロの選手が言っているんだから間違いない」

と鵜呑みにする場合があります。

 

しかし、実際にやってみるとわかりますが、軸脚に体重を残したままスイングなんてできるものではありません。

①軸脚に体重を乗せたままでスイングすると、大腿四頭筋・ハムストリング・内転筋群・殿筋群などの軸脚の筋肉が強い緊張(+共縮)を起こします。筋肉が緊張状態から100%の収縮力を発揮するのは至難の技(ほぼ不可能に近い)です。本来であれば「弛緩→伸長→短縮」というサイクルで力を発揮すべき。

②複関節筋(膝関節と股関節を同時に動かせる)である軸脚の内転筋・ハムストリングの同時収縮作用=一般的に言われるところの「下半身の割れ」も形成されないので、軸脚の力・体重移動の力を使えないフォームとなります。

 

つまり、「軸脚に残したまま回転する」という感覚は、現時点で打てている人が自分の中だけで持っている分には良いのですが、

それを伝え聞いたほかの人が実際の動作で軸脚回転を実行してしまうと色々な不都合が生じます。

一生懸命軸脚に体重を残したまま回転しようとするが、うまくいかない。

自分には軸脚の筋力が脚りないのだ、自分にはセンスがないからできないのだ――という結論に至ってしまう人も多いはずです。

 

これが、「意識・感覚」と「動作」のズレに気を付けなければならない理由です。

ですので今回の記事では、「感覚・意識の話」と「実際の動作の話」は区別して考えます。

 

②バッティングに「正しい」「絶対」は存在しない

基本的に、バッティングに「絶対的に正しい唯一無二の答え」というのは存在しません。

世の中には数多の「○○理論」「××メソッド」「△△式」「□□打法」が存在しますが、そのどれ一つとして絶対に正しいわけではありません。

 

せいぜい存在するのは、

・「××と比べると、相対的には正しい」

・「○○%の確率で妥当である」

くらいのものです。

原則として、「絶対」とか「正しい」とかいった言葉を使う人の言うことは疑ってかかる必要があります。

完全に正しいバッティング理論というのは未だ存在したことがありません。どんな優れた理論にもかならず妥協点は存在します。

 

当然ながら、この記事のなかで紹介する「日本人の右打者にほぼ共通なバッティング動作」でも同様です。

 

③左重心について誤解をしないための補足事項

★「左重心」とは

→「左の腰・左の股関節あたりに重心を集約する感覚をキープする」こと。

 

★「左重心」と「左加重」は違う!

「左重心」とは、読んで字の如く「体の左側(左の腰・左の股関節あたり)に重心を置く」ということ。左荷重ともいう。

左加重とは、読んで字の如く「体の左側に重さを加えること」。

 

そもそもなぜ左重心なのかといえば、

1.バットを体の右側に構えるので、そもそも軸脚に体重が乗りすぎる傾向がある

2.人間の体にはかなりの左右差がある。右打者の場合は左重心にしてみることでその左右差をうまく使えると思われる

 

また、左重心という言葉を誤解して「左加重」になってしまう人が多いんですが↓

左加重とは、読んで字の如く「体の左側に重さを加えること」。

要は上半身がピッチャー側に突っ込むことです。

当然ながら、このような動作をすると軸脚のパワー(軸脚荷重→軸脚抜重をする間に発揮される)は使えません。

 

本当に左重心をキープすることができれば、むしろ上半身の突っ込みは抑えられます。

 

とりあえず、ここでは

「左重心」とは、読んで字の如く「体の左側(左の腰・左の股関節あたり)に重心を置く」ことである

・あくまでも感覚の話である

・「左重心と左加重とは似て非なるもの」

ということを押さえておいてもらいたいと思います。

 

本編:日本人の右打者にほぼ共通なバッティング動作

1.構え

・「左重心=左の腰・左の股関節に重心を集約する感覚」で構えると↓のような形を作りやすい。このとき軸脚の膝は真っ直ぐか、やや捕手側に割れる。軸脚に乗せる感覚だと膝は内側に折れやすい。

 

2.軸脚荷重期

・「左重心をキープする」という感覚のまま投手側の足を上げる(すり足でも一本足でも)と、軸脚に勝手に体重が乗る。これが軸脚荷重。
・左重心をキープする感覚の場合は、横から見ると軸脚よりもやや投手側に頭が位置する。それに対して、軸脚にしっかり体重を乗せようとする感覚だと、頭は軸脚のほぼ真上に来る&軸脚膝が内側に折れることになる

 

 

※少数派ながら、構え~脚上げの時点では軸脚に乗せている人もいる。たとえば小久保選手や城島選手。ただ、そういう人であっても体重移動からは左重心に移っていくことになる

 

 

3.体重移動開始

・「足を上げることによって軸脚に勝手に全体重がかかる(軸脚荷重)ので、スクワットの要領で、短時間で切り返すor押し返す。左重心をキープしたままだと軸脚でスムーズに押し返せる。このとき軸脚の百数十キロのパワーが発揮される」

・軸脚でうまいこと切り返すor押し返すと、投手側に向かって体重移動が始まる。体重移動が開始されてからも左重心をキープしておくと、下半身に割れができる。下半身の割れというのは、軸脚の内転筋群・ハムストリングの強制伸張のこと(膝がやや捕手側に割れる)。

・このフェーズでは、骨盤が前傾しているほうがハムストリングをうまく強制伸張できる。下半身がうまく割れるためには内転筋群・ハムストリングの柔軟性・弾力性は必須で、胸郭・体幹・肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性も求められる

・強制伸張された内転筋群・ハムストリングが「強制伸長からの短縮」を始めるあたりで、軸脚からの『抜重』が起こりはじめる。

・左重心をキープし続ける感覚がつかめれば、上半身は突っ込まない。なお、軸脚に乗せたまま運ぼうとする感覚だと軸脚膝が内側に折れて内転筋群・ハムストリングが緊張するので、下半身の割れはできなくなることが多い。

 

4.トップ形成&前脚接地

・前脚が接地する直前に、いわゆるトップができる。トップというものは、意識的に作るものではなく、「体重移動の反作用」で上半身が捕手側に捻られる結果勝手にできる・・・と考えるほうがスマートだし、『弛緩ー伸長ー短縮』というリズムにも適っている。

・左重心をキープしたままだと、うまく上半身が割れる。上半身の割れというのは
①体重移動の反作用による体幹の筋肉(外腹斜筋や腹直筋・腰方形筋など)の強制伸張。体幹の筋肉・胸郭周りの柔軟性と弾力性が求められる
②それにともなってバットが弓を引くような形で捕手側に引かれること を指す。

つまり割れる順番は下半身→上半身となる。

・前脚が接地するときの標準的な動きは以下の通り:「つま先で接地→(踵の)インエッジで着地→踵と捻りの軸・前脚伸展の支えとしてスイングする」。ややこしいので、感覚としては「前足全体をバランスよく着地する」くらいでいいかもしれない。

・もちろん個人差はあるし、個々の感覚では「実際にはつま先接地なのに、本人の感覚では思いっきり踵着地」というケースもある。

5.前脚荷重・軸脚抜重&スイング開始期

・前脚が接地した直後、前脚を伸展して体重移動をストッピングする(前脚の着地・前足の荷重)。この瞬間、前脚の百数十キロの伸展力が発揮される(スクワットやデッドリフトといったヒップドライブ系・股関節伸展系の種目が重要である理由)。キャッチャー側の脚から右脚へと軸脚が移行する。体重の抜けた軸脚も自動的に内旋・内転し始める。

・「左重心を置いている場所=前脚付け根あたり」から頭までを貫く直線が回転の仮想軸になる(※この時点で軸脚に体重が残りすぎていると回転半径が大きくなる→慣性モーメントが増大して回転が鈍くなる)。コンパクトなスイングの「コンパクト」とは慣性モーメントが小さいことを指す。

・加速度を付けて体重移動してきたものが急に前脚でストップをかけられるので、慣性の法則でバットが振り出される(→急停止した電車で「おっとっと」となるのと同じ原理)。

・ちなみに「振り出しの支点」となるのは前の肩。腰が開いても肩は開くなと言われるのはこのため。

・ちなみに、前脚のかかとが接地する瞬間には、骨盤はまだ横向きを保っていることが望ましい。いわゆる捻転差(=骨盤と肩ラインの角度差。セパレーション・上下分離とも)が出現するのもこのフェーズ。

 

6.アクセラレーション~インパクト期

・「左重心のための意識を置いていたところ=左の腰・左の股関節あたり」が、そのまま前脚の回転軸になる。体重はほぼすべて前脚に移される(前脚荷重)。抜重された軸脚は勝手に、前脚に引き寄せられるように内旋&内転される。軸足つま先は勝手に浮くことが多い。

・一般的に、アベレージヒッターほど浮き方は小さくなる。連続写真ではベタ脚に見えるかもしれないが、軸脚に体重を残したままスムーズに回転するのは不可能。

・インパクトにかけてのバットの軌道は、いわゆる最短距離・直線軌道ではなく、サイクロイド曲線(重力のある環境において最も効率的に加速することができる軌道。曲線となる)を描く(らしい)。

・インパクトではボールとバットの軌道が完全に一致して中心衝突を起こす&ボールのやや下を叩くのが最もエネルギーロスが少ないし打球速度・飛距離も出る。ちなみに中心衝突の対義語は偏心衝突。ダウンスイング・極端なアッパースイングの軌道では偏心衝突が起きて、バットとボールの軌道(5-10°下向き)が不一致を起こすことになるのでエネルギーロスが大きいし打球速度も飛距離も出ない。

・なお、上半身に関して言えば、インパクトの前後には手が減速して偶力(正反対の向きにはたらく同一の大きさの力のこと。バットに回転トルクを生じさせる)が生じ、バットは最後の加速を迎えることになる。

・また、インパクトの瞬間に押し手側の手首が掌屈orストレートな状態であればボールの威力に負けず強い打球を打てる。押し手にマグダビッドを付ける人が多いのはこれが理由、逆に、押し手側の手首が背屈するとボールの威力に押し負けることになる。

 

7.フォロースルー

・前脚がしっかり伸展して、前脚が回転軸となっていれば、バットの遠心力に対抗するために頭と上半身は勝手にステイバック(=頭と上半身が後ろに残る)する。インパクト後まで左重心をキープできていればフォロースルーも綺麗に決まる。なお、軸脚重心のままだとへっぴり腰になる。アベレージヒッターほどステイバックは浅い傾向がある

 

おわりに

以上の説明が絶対に正しいとは限らないし(外国人選手も原理的には同じ動作をするのですが、↑とはやや違ったフォームになります)、

日本人打者であっても例外はある・・・のですが、例外には例外である理由がきちんとあります。

 

たとえば、小久保選手や城島選手は構えの時点では軸脚に乗せています。城島選手は足を上げ切るあたりまでは軸脚に乗せています。

ただし、小久保選手も城島選手も、体重移動が開始する段階からは左重心にシフトしていきます。

一度軸脚に体重を乗せるのは、メカニズム上云々と言うよりも本人の感覚の問題なのですが、

独特な構え方をしている選手であっても、やはり従うべき物理法則・運動法則はあるのです。

 

また、落合博満選手のように「もともと背骨がやや右側に曲がっている」といった特殊な身体的特徴を持つ選手は、その特徴をうまく生かした特別な打ち方をする必要があるかもしれません。

あるいは、昔の長嶋さんのように「なんでこんなスイングで一流の成績を残せるのか」と思わせる選手もいます。かならずしもフォームが理に適ったものではなくても、反応速度の速さや卓越した身体操作能力にモノを言わせて圧倒的な成績を残す選手も存在します。

 

ただ、「バッティング理論には唯一絶対の正解は存在しない」のですが、

・筋肉や関節の数は誰でもだいたい一緒である

・誰もが同じ物理法則のもとで運動を行う

という事情がある以上、「95%の打者に共通する原理」は存在すると思います。

 

つまり、今回紹介したのは

・「物理的にはこうしたほうが効率が良いだろう」

・「人体の構造からするとこうするのが理に適っているだろう」

という、ほとんどの人が従うべき基本原則である――と私は考えています。

 

「バッティングの基本的な理屈」を知った上であれば、とんちんかんな練習や意識付けをする危険性も減ります。

上達のスピードも格段に早くなるでしょう。

理に適っていないスイングや間違った練習を繰り返して「自分にはセンスがないのか・・・」とがっくりすることも減るでしょう。

「まずは理論で納得して、それから感覚を調整していく」というタイプの人にはかなり役に立つ情報になったのではないかと自負しています。

 

 

なお、今後の予定ですが、まずは左打者の基本原則をまとめたものを作ってみたいと思います。

その後には「右投手の基本原則」「左投手の基本原則」まで作っていきたいです。左打者verはすぐにできると思いますが、投手のほうはもう少しかかるかもしれません。

気長にお待ちいただければありがたいです。

 - 動作, 野球