「軸足回転打法」は存在しない?

   

「軸足回転打法」は存在しない?

「軸足回転打法」は原理的に成立しようがない…と思われる

「軸足回転打法」とは?

★野球界で信じられている「軸足回転打法」とは何か?★

・軸足回転打法とは、「軸足に体重を残したまま、軸足を強く使って回転させる」「その回転を使ってボールを飛ばす打法」とされる

・バリーボンズ選手やデビッド・オルティズ選手といった打者が採用しているとされる。日本人だとパワーがあり体格に優れた松井秀喜選手や筒香選手が採用しているとのこと

・多くの指導者やプロ現役選手たちに「理想」とされている打ち方である

・「筋力の強靭な(背筋の強い)外国人選手に向いた打法であって、非力で体格の劣る&骨格の違う日本人には向かない」と解説されることもある。また、軸足回転打法を習得することができれば打球角度が上がりホームランが量産できるという説明が付くこともある

・「変化球全盛の時代だから、ボールをしっかりと見極めるためになるべく引きつけて打つ必要がある。そのためにはバッターは、軸足にしっかりと体重を残したままスイングすべきである」とのこと

 

実際、「軸足回転打法」で検索をかけてみると、このようなページがヒットします(2017/12/5時点、抜粋)。

・【筒香打法検証 】”超軸足回転”やってみたら…ホームラン7連発! – Youtube

・バリー・ボンズの軸回転打法 – YouTube

・軸足回転打法を股関節回旋台で身につける(バリーボンズ編) – YouTube

・【検証】バッティング指導で多い「軸足回転で振る」フォームは正しいか

・軸足回転打法のコツ – 自然身体構造研究所 – 古武術・整体の教え 野球体…

・筒香嘉智のバッティングフォームを分析!連続写真でポイント解説 …

・変化球が打てるようになる!?話題の「軸足理論」とは?

・「軸足に体重を乗せる」打ち方教えて

など。本当に多くの人が「軸足回転打法」について考えておられるのだなあと思います。

 

「軸足回転打法」とまではいかなくても、私が聞いたことがある表現としては、

・「軸足をしっかりと使って振れ」

・「軸足の母指球にタコができるのが良い打者の条件だ」

・「下半身は上半身の30倍強いんだから、軸足の力をフルに使ってスイングしなければ打球は飛ばない」

このあたりでしょうか。これらは実際に言われたことがあります。

「軸足回転打法」とはちょっとニュアンスの違いを感じますが、「軸足をしっかりと強く使いながらスイングする」という意味では同質のものです。

 

私が見る限りでは、少年野球からプロ野球に至るまで、

「軸足回転打法=軸足に体重を残したまま、軸足を強く使って軸回転させてスイングする」

という考えは、日本球界にかなり根付いているようです。

 

しかし、私は今回の記事で、その「軸足に体重を残し、軸足をしっかりと使うことでスイングする」という常識を徹底的に疑ってみることにしました。

というのも、プロ選手やメジャーリーガーの打撃動作を見ていると「本当に軸足に乗せているのか??」と疑いたくなるようなフォームをしていたり、

あるいは自分やチームメートが軸足にしっかりと乗せてうとうとするとどうにもうまく打てないという経験をしたことがあるからです。

★今回の記事の目的★

日本野球界で広く信じられている「軸足回転打法」は本当に合理的なのかどうかを疑ってみる。

もしも合理的でないとしたら、なぜ非合理的だと言えるのかを理由付きで検証する

 

なぜ「軸足に体重を残して打つ」が理屈として怪しいのか?

なぜ「軸足にしっかりと体重を乗せて、軸足を強く使って軸回転で打つ」という打ち方には疑問符が付くのでしょうか。

その理由は4つあります。

 

理由その1 そもそも、プロの打者は軸足に体重を残していない・・・ようにしか見えない

「軸足回転打法=軸足にしっかりと体重を残して打っている」とされるメジャーリーガーの例を見てみましょう。

左上から順に、デビッド・オルティズ、ブライス・ハーパー、アーロン・ジャッジ、ジャンカルロ・スタントン、サミー・ソーサ、マニー・ラミレス、デレク・ジーター、マーク・マグワイア、マイク・トラウト、バリー・ボンズ、ミゲル・カブレラ、ケン・グリフィー・Jr、アレックス・ロドリゲス(敬称略)。いずれもメジャーリーグを代表する屈指の強打者です。

 

この画像を見ると、「アレッ?」と思いませんか?

水色の○で囲った部分を見てください。

これは「インパクトの瞬間」だけを集めた画像ですが、写真に出ているすべての打者が、

・インパクトの瞬間、軸足はつま先がほんの少し地面に振れている程度である

・インパクトの瞬間、軸足が完全に地面から浮いている打者もいる(ハーパー選手、スタントン選手、ミゲル・カブレラ選手、アレックス・ロドリゲス選手)

 

普通に考えて、「本当に軸足に体重を残したまま回転するのであれば、インパクトの瞬間、軸足のつま先はしっかりと地面を押さえていなければならない」はずです。つま先がガッチリと地面と押さえていないことには、体重など支えようがないのですから。本当に軸足に体重を残すと↓こういう形になるはずです(データマンより)。

これがいわゆる本当の「母指球ターン」です。

軸足のつま先部分だけが接地しているor軸足が浮いているのであれば、軸足に体重を残すことはできません。

「軸足はほとんど浮いてるけど、体重は軸足に残している」ということは、原理的にも物理的にもありえないはずです。

 

…ということは、考えられるのは次の可能性です。

「軸足回転打法をやっているとされるメジャーリーガーたちは、本当は軸足に体重を残していない」

「外国人選手は、軸足回転打法をやっていない」

のではないでしょうか?

もし本当に軸足で回転しているなら、↑の集合写真でも、軸足のつま先がもっとグリグリと地面に接しているはずです。

 

画像に出ている方々は、正真正銘世界最高峰のトップリーグであるメジャーリーグを代表する、圧倒的成績を残してきた真の強打者たちです。つまり、世界最高峰の投手陣と対戦していく中で世界最高峰の技術を磨き上げてきた打者たちといえます。その彼らが、「軸足に体重を残さない打ち方をしている」としか思えないような打法を採用しているわけです。

 

もしも「いや、それでも彼らはやはり軸足に残して回転しているのだ。なぜなら、松井秀喜選手は『軸足で回転する感覚で振っている』とインタビューで答えているからだ」と主張するのであれば、

「それは『感覚』と『実際の動作』の区別を忘れている可能性が高い」

と私は考えます。詳しくは後述しますが、感覚としては「軸足に乗せて振っている」人でも、実際の動作ではバッチリ軸足から体重が抜けている場合がけっこう多いのです。

 

ですから、「軸足に残す感覚で振っている、と言っている人がいる」という事実は、かならずしも「軸足に体重を残して打つのが正解である」という結論を導かないといえます。

 


 

ただ、これだけだと「外国人選手は例外だ!日本人にはそんな打ち方はできない!」という反論(?)が出てきそうなので、念のため駄目押しをしておきます。今度は日本人の強打者たちです。

ご覧の通り、日本の強打者たちも「軸足のつま先が軽く地面に触れている程度の状態」でインパクトを迎えています。軸足回転打法と言われる松井選手・筒香選手・阿部選手ですら、「軸足がこの形では、体重を支えることは無理だろう」という軸足の形です。

 

「本当にそうなのか?」と思われる方は、ぜひ上の写真のような足の形を作って、そこに体重を乗せようとしてみてください。とても支えきることはできないはずです。つま先のほぼ一点という極小の面積で数十kgの体重を支えるというのはかなり苦しいでしょう。これほど苦しい動きをわざわざ打撃動作の中で行う意味があるとは思えません。

 

これを、

「プロ野球選手は鍛え上げられた下半身があるからこそ、この形でも力を出せるのだ。なんて強靭な軸足の持ち主だろう。やっぱりプロはすごいなあ。自分もしっかりと下半身を強靭に鍛え上げて、軸足をしっかり使った形ができるようにしよう」

と解釈するのか、それとも

「そうか、軸足に体重を残して打つなんて無理なんだ。別の方法があるに違いない」

と解釈するのか。ここで選択肢を選び間違えると、場合によっては10年分くらいの努力を損することになるかもしれません。

 

ただ、ここで注意しなければならないのは、

①日本人は骨格が「骨盤の後傾・下方回転=骨盤が下方向に滑り落ちる」ような形になっているので、連続写真で見ると西洋人よりもつま先の地面への付き度合いがやや強く見える。もちろん、日本人選手にしても軸足に体重を残しているわけではない。逆に西洋人・黒人は「骨盤が上方向・前方向に向かって傾斜する」ような形になっているので、軸足のつま先はかなり容易に浮きやすい。バッティングのときの下半身の形を作って、骨盤を前傾/後傾させてみると違いがよくわかるはず。

つまり、インパクト時に軸足が接地する度合いは「西洋人・黒人<日本人」となる。

 

②日本人の場合、小さいころから「軸足に残す」ように指導されてきた選手が多い。動作に関してカンの良いプロ野球選手であれば「無意識に軸足から体重を抜いている」選手が多い・・・が、軸足に残せと言われ続けてきたのが影響して、一生懸命「軸足に残そう残そう」と思いながらスイングしているプロの選手も多い

ということです。ここにさえ気を付けておけば誤解は避けられます。

 


話を戻すと、写真のような軸足のつま先の状態で、本当に「軸足にしっかりと体重を残して振っている」と言えるでしょうか?

「プロは軸足に体重を残さずにスイングしている」という話をすると、

・「軸足のつま先が浮くなんて考えられない。彼らは特別だ。君たちは真似してはいけない。あれはプロだからこそできるんだ」

・「トップからは前脚に体重が移るから、軸足には体重を乗せない? そんなはずはない、プロの選手だって『軸足に残すのが大切』と言っているじゃないか。軸足に残すのが正しいに決まっている」

と言う人もいます。

 

しかし、

「彼らが特別」「軸足に残さないなんてありえない」なのではなくて、「軸足に残さないのが正解で、軸足に残すのが間違っている」「軸足回転打法が難しいと言われるのは、そもそもそんな打法は実現不可能だから」という可能性も十分にあるわけです。

もし反論するのであれば、主観的な感覚や実績のある人の意見だけを頼りにするのではなく、原理的なところまで考えてから反論すべきだと私は思います。日本の野球界でそういう筋道だった議論が活発に行われるようになれば、日本の野球はもっと進歩できるはずです。

議論という観点からしても、「自分が絶対的に正しい。お前は間違っているに違いない」としか思っていない人とは議論など成立しないのです(もちろん私が間違っている可能性もあります)。

 

では引き続き、私が「軸足回転打法=不合理」と考える理由を見ていきましょう。

 

理由その2 軸足の筋肉が緊張して力を出せなくなる

「軸足に体重を残したまま打つ」ということは、言い換えると

「軸足に体重を乗せる時間が長くなる」ということでもあります。

 

さて、ここで「人間の筋肉の性質」を考えてみましょう。

よく言われることですが、

・筋肉は、「緊張した状態からさらに力を出すor素早く動かす」のは難しい

・筋肉は、「リラックスした状態から一気に力を発揮する」ことは得意である

これは自明の理だと思います。

 

試してみればわかりますが、

・「思いっきり握りこぶしを作って緊張させた状態から腕を素早く動かす」

・「適度にリラックスさせた状態から腕を素早く動かす」

のとでは、後者のほうがはるかに素早く動かせるはずです。最大限の力を出そうとする場合でも同様です。

「スピード」を出そうとする場合でも、「筋力」を発揮しようとする場合でも、

「リラックスさせた状態(弛緩した状態)から動かす」ほうがはるかに合理的です。

もちろん、これは足でも同じです。

 

ここで考えていただきたいのは、「軸足回転打法=軸足に体重を残して軸回転で打つ → 軸足に体重を乗せる時間が長くなる・・・ということは、つまり『軸足にしっかりと体重を残し続ければ、軸足は緊張を強いられる』のではないか?」という仮説です。

「軸足に体重を乗せる時間が長くなればなるほど、軸足は緊張しやすくなる」という可能性は十分に考えられます。

そして、もしも軸足が緊張するのであれば、軸足は「力強く」動かすことも、「素早く」動かすこともできないはずです。

 

軸足に体重を乗せ続けるということは、軸足の立場からみると、「筋肉にずっと同じような形で出力させることによって、体重を支えていなければならない」ということになります。「一瞬ではなく、ずっと体重を支え続ける」ためには、軸足の筋肉をなるべく緊張させて(同じような筋出力で固めて)おいたほうが都合が良いと思われます。実際に片足立ちで長時間立ってみるとわかることですが、時間の経過とともに軸足の筋肉は非常に緊張してきます。大腿四頭筋とハムストリングスが共縮を起こします。

 

この「緊張した状態」のことを「軸足にタメができている」とか「根を張ったようにしっかりと立てている」ととらえるか、「軸足が緊張している。これでは軸足は力もスピードも出しようがない」ととらえるかで意見が分かれるはずです。私はもちろん、後者の立場を支持します。

つまり、「軸足に体重を乗せたまま打つ」ということは、「軸足に緊張を強いることによって、軸足が本来持っている力とスピードを減殺してしまう」という意味で不合理ではないか? ということになります。

 


なお、「そもそも軸足がどのようにはたらくのかがわからない」という人向けに、私なりに考えた「バッティング動作時の軸足のはたらき」についてまとめてみました。

 

★バッティングで軸足はどのようにはたらくのか?

スイング開始から順々に見ていくと、軸足の使われ方は原理的に以下のようになっていると思われます。

 

1.足を上げるときに軸足に体重がかかるので、それを押し返すことで体重移動を開始させる。ハムストリングス(大臀筋も)は「構えた時点ではリラックス(弛緩)→足を上げるときに伸張される」ことになる。

ここで軸足が体重に負けてしまう(安定して押し返せない)と体勢が崩れてしまう

2.軸足のハムストリングスor大臀筋が短縮する(スクワット動作に似ている)ことによって股関節伸展の力が発揮され、骨盤が投手方向に押し出されることで体重移動が開始される。また、この「投手方向へと向かう体重移動の力に対する反作用の力」が軸足にかかるので、軸足はそれに踏みこたえるようにバランスをとりながら移動速度を増す形となる。ハムストリングスや大殿筋は移動速度が増すにつれて出力を小さくしていく・・・が、複関節筋であるハムストリングスについてはこの体重移動の後期に再び伸張されることになる。

 

3.スイングが開始されると、軸足は素早く鋭く内旋・内転される。強制伸長されていた内転筋群が伸張反射を起こして素早く短縮する&内転筋群の動きに連動してハムストリングスが作動する。これによって軸足は素早く、前足に近づくようにして折りたたまれる。

※話が入り組んできたのでまとめると、要するにハムストリングスは「構え:リラックス → 軸足荷重期:伸張される → 体重移動開始時:短縮しながら股関節伸展の力を発揮する(主に大腿二頭筋) → 体重移動によって軸足股関節が軸足膝よりも投手方向に出る時:内転筋と一緒に伸張される → 内転筋と共同して短縮する(今度は半腱様筋と半膜様筋が主体):これによって軸足が鋭く内旋・内転する」という動きをする

 


軸足というパーツの動きについてまとめると、以下の表のようになります。

軸足への荷重度合い 軸足の筋力発揮 軸足の動作速度 備考
軸足荷重期 軸足は荷重を受け止めて押し返す(股関節伸展)。荷重に対して筋力発揮で押し返すというのはスクワットと似ている。大臀筋や大腿二頭筋といった足の外側の筋肉が主体となる
体重移動期 軸足は、体重移動の反作用の力に対して踏みこたえるようにしながら移動速度を上げる。軸足が投手方向に移動するにつれて、大臀筋や大腿二頭筋は出力を弱めていくが、それと入れ替わるように、今度は内転筋や半腱様筋・半膜様筋といった足の内側の筋肉が強制伸張される
スイング開始~インパクト期 小(ほぼ0) 軸足から抜重されるのとトレードオフで、軸足のスピードは増す。↑のフェーズで伸張されていた内転筋群(大内転筋・短内転筋・長内転筋・恥骨筋も作動するが、特に複関節筋である薄筋が重要)と半腱様筋・半膜様筋が伸張反射を起こして素早く軸足を内転・内旋させる

↑で紹介したようなバッティングのメカニクスを考えてみると、

・軸足にずっと体重を乗せておくと、股関節伸展のパワーが発揮しづらい(軸足の筋肉が緊張状態におかれるため)

・軸足にずっと体重を乗せておくと、内転筋群・ハムストリングスの伸張反射が使えなくなる

はずです。

 

要は、「軸足が体重をずっと支え続ける」という動作をわざわざ入れる必要はどこにもないわけです。

軸足の力とスピードをフル発揮したいのであれば、↑の表のような形で軸足を使えば良いだけの話で、わざわざ軸足にずっと乗せておく必要は特にありません。

 

理由その3 軸足を、「体重を乗せたままスムーズに回す」のは不可能

↑の項で見た軸足のメカニズムからしても、「軸足に体重を乗せたままスムーズに回す」のは、どれほど下半身が強靭な選手であっても不可能です。

・・・が、ここではもう少し違った見方をしてみます。

 

実際に試してみましょう。バットを持たなくてもできます。

A.「軸足に体重を乗せたまま」で、軸足を回転(内旋&内転)させようとしてみる。

B.「軸足から前足に100%の体重を移す」のにあわせて「軸足は放っておいても勝手に付いてくる」イメージで動いてみる。

 

A.の場合、まず間違いなく「軸足がちょっと外回りしたのち、かなり力みながらようやく内旋・内転する」はずです。

内転筋やハムストリングの伸張反射でスムーズに回る場合と比べると、実に遅々とした回転です。

さらにいえば、脚部の回転半径が大きくなるため慣性モーメント(回りづらさ)が増大します。

結果としては、いわゆる「腰の回転が鈍い」「腰の入っていない」スイングになるはずです。

 

逆にBの場合(比較のためにかなり簡略化した動作になっています)では、軸足は比較的スムーズに回転することがわかると思います。

人によっては軸足が自然に浮くかもしれません(ただし軸足の浮きについては、ことさら意識するものではなく、映像で見たり他人に指摘されたりして気付くものだと思います)。

 

バッティングというのがほんの0.01秒の狂いに大きく左右される行為である以上、A.のようなロスはかなり致命的なものです。

逆にB.の形が自然に実現されれば、比較的スムーズな骨盤の回転が実現されるので、スイングスピードや確実性も向上するはずです。

今回は実際に動作を2タイプ比べてもらいましたが、少なくとも「軸足に体重を乗せたままのほうが軸足は使えなさそうだ」ということはわかってもらえたと思います。

 


 

なお、「母指球ターン=軸足の母指球で強く地面をつかんで回れ・地面を押せ」「力を出す順番は下から上だ。まずは地面をしっかりと蹴ることだ」といった指導がされることもありますが、私にはどうも不合理に思えます。

「原因と結果を取り違えているのではないか」「力の伝達の順番を間違えているのではないか」と思います。

 

 

というのも、先ほど紹介したような理屈から言うと「軸足のハムストリングスや内転筋が伸張反射により短縮を起こした結果、軸足が自然に地面を離れる」からです。

つまり、「体の根幹部である股関節周辺の筋肉が先に力を発揮する→そこから末端である足関節へと力が伝わっていく」のであって、

「『先に足関節が力を出し、その力が下から上へと伝達される』ことによって、股関節周辺の筋肉が力を出す」わけではないからです。

 

確かに、イメージ的には「足の裏→膝・股関節→上半身・・・」という感じで振れば、地面から根が生えたような力強いスイングができるんじゃないか? と思いたくなります。

でも、人間の体というのはそもそも「中心部が大きく出力することによって、末端部が加速される」という運動様式を備えています。投球動作はその最たる例です。

大きな出力が必要なのは体の根幹部(股関節周辺・体幹・背中)であって、末端部は根幹部で生まれた力を伝達するための単なる道具にすぎません。

この関係からすると、末端である足関節に本来大きな出力は必要ないとわかります。

 

確かに「最後まで地面と接しているのは母指球(周辺)である」「『母指球で地面を押しているかのような』感覚がある」というのは事実なのですが、

だからといって「母指球でしっかりと地面を押す意識が必要だ」「地面をしっかりと蹴る意識が必要だ」とはならないのです。

あくまでも、「股関節周辺の筋肉の作動によって軸足が内旋・内転される」という動きの結果として、そういう動作・感覚が出るというだけの話だと私は考えています。

 

「感覚」と「実際の動作」は違う!

ここまでの話をまとめます。

軸足回転打法とは、「軸足に体重を残したまま、軸足を強く使って回転させる」「その回転を使ってボールを飛ばす打法」とされる。

・・・が、以下の点においてきわめて疑わしい打法である

1.そもそもプロの選手は実際の動作のなかで、スイングを開始してからはほとんど軸足に体重を乗せていない

2.軸足が緊張し、動きが鈍く弱くなる。軸足に体重を乗せたまま振ろうとすると、本来の軸足のメカニズムが阻害される

3.体重を乗せたまま軸足を回すということは、バットを持たずに実際にやってみると、かなり苦しい動作だとわかる

 

さて、ここまでさんざん「軸足回転打法は不合理」と言ってきたわけですが、

実は、「軸足に体重を残す」という感覚があること自体はなんら悪いことではありません。

「は?」と思われる方も多いでしょうが、これは、「感覚」と「実際の動作」との間にはズレが生じるからです。

実際の打撃動作を見ると「軸足に体重が残っていない」人であっても、

本人の感覚の中では「軸足に体重を残して振っている」と感じている場合が往々にしてあるのです。

 

ですから(私も注意していることですが)、

「自分の感覚をそのまま他人に押し付ける」のも、

「連続写真やスロー動画の動作をそのまま再現しようとする」のも、

「理想的だと自分が考える動作を他人にそのまま強制する」のも、

どれも望ましくない結果をもたらす可能性が高いといえます。

 

この「動作と感覚のズレ」というのはかなり多くの野球人に多大な影響をもたらしていて、

感覚だけを徹底的に磨いた人が合理的な動作に辿り着くこともあれば、

頭では理屈をわかっているのに実際にやってみるとまるでできないこともあります。

 

ひとまずは、この動作と感覚のズレを、

①まずは「こういうズレがあるんだよな」とわかっておく

②そのズレを回避orうまく利用しながら動作を磨いていく方法を模索する

ことが求められると思います。

 

本当はどうなっているのか?

「本当はどういう原理で打撃動作が行われているのか」についてはこの記事のテーマからは外れるので深入りはしませんが、この記事の主題である「軸足の使い方」「回転軸の形成」についての私の考えを書いておきます。

①体重は「軸足から前足へ」と移される。

②トップ形成以後、仮想の回転軸は「(前足の足底ー前足膝ー)前足股関節から脊柱・頭部を貫く」ように形成される。また、この軸上から頭部および目が外れると、「動体視力」に負の影響を与える。軸はインパクト後にはバットの遠心力に対抗するため後ろに傾く(いわゆるヘッドステイバック)。

→つまり、体重は前足へ。その一方で、軸は前脚を貫いて後ろへ後傾していく。

③軸足は、並進運動を開始するために出力する。前脚が地面に接地すると地面反力が骨盤に作用し、これが骨盤の回転運動開始のトリガー&エネルギーになる。

④前脚が接地して以降は、軸足は地面を押す力を発揮せずに伸張反射を起こして素早く内旋・内転される。

前脚接地以後、軸足は積極的な出力はしない。むしろ負のトルク=骨盤を制御or動きを抑える ようにはたらく。

注意してほしいのは、

・これはあくまでも「現時点での」「私個人の」考えであって、完全に正解とは限らないこと(むしろどこかしらで間違っている可能性のほうがはるかに高い)

・この理屈は動作を説明するための理屈であって、これがどのように個人の感覚として落とし込まれるのかは未知数だということ

ということです。

 

要するに、私は私のできることをやったので、あとはこれをどう生かすかは個人の裁量になりますよ、ということです。

これさえ理解していただければ、今回の記事は指導にも上達にも役立つと思います。

 

★現時点での私の考え方については、「「日本人の右打者にほぼ共通と思われるバッティング動作」について」にまとめてあります。現在は「右打者」のみとしていますが、今後左打者にも対応させる予定です

 

おわりに

「プロの打者ですら軸足回転打法の習得は容易ではなく、松井秀喜選手ですら習得するまでには何年もかかった」

という表現を何度か目にしたことがあります。

松井秀喜選手は渡米する以前の日米野球で、サミー・ソーサ選手から「軸足で回転して打て」という意味のことを教わったそうです。

しかし、この記事でも触れたように「軸足で回転して打て」というのはあくまでも感覚の話であって、それを実際にやろうとするとドツボにはまります。

 

「プロですら習得に苦しむくらい難しい軸足回転打法」「自分には軸足回転打法ができるだけのセンスも筋力もない」のではなく、

「軸足回転打法という打ち方そのものが成立しないのだから、そもそもアプローチを変えるべきだった」というのが真相だと私は思います。

 

ただ、一番気にかかるのは軸足回転打法そのものの是非というより、「軸足回転打法という明らかに不合理な打撃理論がまかり通ってしまうくらい、日本の野球界は思考停止しているようにみえること」です。どう考えてもおかしい説であっても、

・「○○さんという実績のある人が言うんだから間違いない」と妄信する人の存在

・「実績のない人の言うことなど信じられない」と断定する人の存在(これは説得力の話であって、実績のない人が言うことでも正しいものは正しい)

・「これこそが唯一絶対、科学的に正しいアプローチである」かのように言う人の存在

・自分の意見と異なる意見を持つ他人を誹謗中傷したり攻撃したりする人の存在

・自分が間違っている場合でも、それを素直に認めることをしない人の存在

・「自分の説は絶対に正しいに違いない」と妄信して、自説に矛盾するような証拠に目を向けようとしない人の存在 etc…

といったさまざまなバイアス(偏見)がかかっているせいで、明らかに理にかなっていない指導法や理論が堂々と大手を振ってまかり通ってしまうものと思われます。

 

ではどうすればいいのか?

完全な対処法というのは存在しませんが、とりあえず、私がバッティングなどの野球動作を考えるときに気を付けているのは以下の点です。

0.この世に完璧な理論というのはおそらく存在しないということを自覚しておく

1.自分が間違っている可能性を常に考えておく。自分の理論がどれほど優れているように思えても、かならずどこかに不備はある

2.進歩に終わりはないと思っておく。これでいいやと思ったらそこでおしまい

3.自分が間違っているとわかったら潔く認めて新しい考えを受け入れる。科学者のような態度を貫く

4.野球には、現場でプレーする人も必要だし、徹底的に頭でっかちな人(自分)の存在意義もあると思っておく

5.自説を人に押し付けない。聞かれたら提案する、根拠とともに説明&公開するのはよいが、あくまでも自分の説を取り入れるかどうかはほかの人の自由

6.自分と異なる他人の意見を「攻撃」しない。また人格批判・誹謗中傷もしない。もし不備を指摘する際は、根拠を明確にして「私はこう思いますが、どうでしょうか」くらいのテンションに抑える

7.権威を示す言葉でもって自分の意見を正当化しない。「科学的」とか「物理学的」とか「○○さんが言っているのだから間違いがない」とかいう言葉をなるべく使わない。事実の提示と論証のみに徹する。

8.気安く断定しない。自説に不備がある可能性はかならずあるのだから、よほど確証のある場合を除いて「~~と思われる」くらいに抑える。たとえ説得力が下がるとしても守る

 

「明らかに間違った指導法」のせいで、日本の野球の実力がかなり引き下げられている可能性もなきにしもあらず。

逆に、日本球界にはびこる間違った指導法が一掃されれば、日本人選手がメジャーリーグでバンバン活躍できる&日本プロ野球が世界一のハイレベルリーグになる未来が実現される可能性もあります。

 

日本の野球の未来のためにも、世界の野球の未来のためにも、

「自分は何もかも知ったつもりでいるけど、ひょっとして何も知らないんじゃないか」

「自分はひょっとしたら間違っているのではないか」

と思えるだけの心のゆとりがほしいものですね。

 

長い記事になりました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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