『何物』(朝井リョウ、新潮文庫)のキモ

      2016/08/31

現代の作家はあまりにもテーマが軽いとか、エンタメ性が強すぎるとか、明治大正昭和の文豪と比べると見劣りするとか、よく文芸批評家っぽい人が言ってる(気がする。単なる脳内イメージかも)けど、この朝井リョウという作家はすごいぞ。まさに時代の最先端! SNSという今もっとも旬に違いないテーマを扱わせたら日本一にちがいない。この『何物』という作品を読んで、強くそう思った。

正直、ここまで正確に緻密に「いまどきの若者」が抱え込んでいる鬱憤や屈折した思いを描き出せる作家がいるとは思っておりませんでした。かなわんなあ、と正直に膝を折って三跪九叩頭したくなった。流行している作家というだけでなんとなく敬遠しててごめんなさい。陳謝します。謝謝。

さて今回の『何物』という作品。

新潮文庫は、本の裏側にあらすじ・煽りが書いてある。

「大学生 SNS 本音 自意識 就活」

このあたりの単語が並んでいるのを見て、「こいつは絶対面白いゾ」「しかも最近よく耳にする朝井リョウとかいう作家じゃないか。どれどれ…」という感じで即買い。

簡単にあらすじを紹介する。五人の大学生が出てくる。

まず主人公の拓人。光太郎というピュアなバンドマン(つまり要領のよいリア充)とルームシェアしてて、こいつの引退ライブをきっかけにして他三人の大学生と一緒に就活をはじめることになる。

大学生一人目は、他意のなさが特徴、ピュアな乙女の瑞月。

二人目は、いわゆる「スタバ ドヤ顔 難しそうな厚い本」系男子、ぶっちゃけた話が意識高い系の隆良。

三人目は、留学ボランティアアンドインターンのプライド高め英語娘、TOEICモリモリマッチョマンの理香。

で主人公の拓人君なんだけど、こいつは2ちゃんでスレは立てずにまとめサイトと学歴版にずっと張り付いていそうなタイプの人間観察趣味野郎。よくいますねこういう感じの人。ひとごとじゃないよ。

この拓人君によるSNSを通じた周囲の人間に対する人間観察を軸にしたお話です。

読了して、自分のSNSのアカウントを消したくなるかもしれません。

 

作品としては、「現代作家ってのはこんなに面白いのか。読んでなくて損してたな」というくらい面白い。直木賞とってるし。

朝井リョウという作家は、みんなが思ってるけど、うまく言葉で言い表せないことを的確に表現できる(これは作家の使命なのかもしれない)。ズバっと指摘することもできるし、遠回しに別の事柄に託しながら「ねえ、こうなんじゃないの」とにおわせることもできる。いずれにしても、作中の登場人物を馬鹿にしながら読んでいくと途中から急転直下、作者によって「あなたもそうなんですよ」という刃が喉元に突き付けられることになります。

もしもツイッターやフェイスブックに「いいね」とか「フォロワー数」とかがなければこれらのサービスはとっくのとうに廃れていただろうとはよく言いますけれども、「矮小な自我」を「大きく見せる・強く見せる・何者かのように見せる」ツールとして機能するSNSを利用する人々みんなに読ませてあげたい本でした。

「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」をSNSという畑で存分に育てた現代人にとっては、耳と頭と片腹の痛くなる作品でもあります。

いちおし。

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