岩波だけど読みやすい! 『イスラーム文化 その根底にあるもの』(井筒俊彦、岩波文庫)のキモ

      2016/08/31

個人的にブックカバーをかけないと恥ずかしくて読めないレーベルナンバーワンの岩波文庫であります。ライトノベル読んでるところを見られるよりよっぽど恥ずかしい。自意識過剰なんです。HAHAHA。こんなんだからモテねえんだよ。

 

さて今回この本を読もうと思った動機は、実は二つありまして、Amazonのレビュー評価がべらぼうによかったこと(注:Amazonで『星が四つ』のレビューが多い本は当たりが多い。この本もそうである)と、同じ講義を受けている他のヤツ(面識ない人)が、「イスラームについての入門書ならこれがベストっしょ」みたいなことを大声でべらべらとのたまっていたのがそもそものきっかけなんであります。そういう話題はもうちょっと小さい声でしてください。言えないけど。

 

で実際読んでみた感想としては、「イスラーム教の根底にある考え方・感じ方」がよくまとまっているな、という印象を受けました。われわれ日本人は「場の空気」を重視するとよく言われるけれども、それと似たような感じで、「イスラーム教徒は、このようなことを特に思考の中心に置いて生きているんだよ」と、筆者は優しく解き明かしてくれます。

つまり、イスラーム教に関する基礎知識(池上彰あたりがやってそうなアレ)、というよりかは、イスラームに関するすべての事象の土台となっている、根本的なところをほじくりほじくりつまみつまみ語ってくれるというイメージの本です。そもそもこの本のもとになったのはビジネスマン向けの講演です(イスラームについて語ってくれと言われたのでそれを述べた。そしてその内容をだいたいそのまま筆録したもの)。

ですから、論旨は簡潔ですし、非常に読みやすい。象牙の塔に立て籠もって理論武装している学者先生方に共通の、あの難し気な専門用語学術知識の羅列というのがこの本には一切と言ってよいほど出てきませんから。岩波文庫にはこういう優しいかんじの本もあるんだよという神の啓示を受ける気がします。

で、優しく平明でしかも要点をきっちりとついているわけですから、この本から得た知識というのは色々な方面に応用が利くと思うんですね。

 

自分なりにひとつ考えてみた応用方法は、「こいつは小説に活かせるな」ということ。

たとえばガッツリ設定を練り込んだ宗教を、敵サイドとして小説のなかに出したいとき。

大体において創作作品のなかで、宗教サイドっていうのは味方じゃなくて敵さんとして登場するのが相場ですが、イスラームも欧米・日本からすれば決して味方…とは感じないはずです。むしろテロを仕掛けて来たり、中東に入った外国人の取材者を殺害したりと、『悪役』の感がどうしてもありますね。

『狂信者の集団』って、敵としてこれ以上わかりやすいものはないんです。

その狂信者たちがなにゆえ狂信者かというと、『自分たちの神とは違う神を信じるクソ共はみんなぶっ殺せ』という、死んだプロテスタントだけが良いプロテスタントだ理論を振りかざしながら主人公たち(だいたい無宗教)をぶち殺しにかかってくるから狂信者と呼ばれるわけなんですね。

そこでこの本では、イスラームの狂信者(もちろんそんなのは信徒の中のごく一部です。良心的な信者が大半なのです)たちが、「どのような根拠をもって聖戦を起こすのか」をしっかりとつかまえておく。すると、小説の中に登場させる狂信者の集団にリアル感が出てきますね。

単に何も考えずに「異教徒はぶっころせー」と連呼するだけの集団を出すよりは、「こういう原理で我々は動く。この原理は人間にとって絶対のものだ。だから主人公よお前らをみんな殺す。一人も残らず殺す」と言って闘い始める集団の方がより真実味を帯びている感じがありはしませんか。前者は薄っぺらい。どう見ても「敵が必要だから出しました」式のハリボテにしか見えません。

 

話がそれました。つまりこの本で、「イスラーム人間」(妙な言い方ですが)の思考法がザザーッと手軽に学べます。

 

以下簡単にですが、特に面白いなと感じたポイントを抜き書きしておきます。

・イスラームには聖典が「二つ」ある。聖典の最高権威はご存知「コーラン」で、ムハンマドに下された神の啓示が載っている。もうひとつは「ハディース」で、これはムハンマドが言ったことやったこと言わなかったことやらなかったことについての伝承(言行録)。コーランだけではカバーしきれないことを、膨大な量のハディースがカバーするという仕組み。

・ムハンマドがこの世で最後の預言者。それ以降に出てくるのは全部パチモン。

・イスラームには、およそ聖俗の区別と呼べるものがない。賢者や隠遁者も、主流であるスンナ派からすれば邪道。

・「絶対善・相対善・無記・相対悪・絶対悪」の五つの段階でものごとの良し悪しが判定される。

・イスラームは、ありとあらゆる生活の中での出来事の良し悪しを、聖典に照らし合わせて考える。つまり聖典に書いてあることの意味がとっても重要。だから、「聖典をどう解釈するか」がとてつもなく重大な意味を帯びてくる。ちなみにアラビア語では文法学が異様なまでに発展している。それは聖典解釈のために必要だった。

・イスラームの宗派のひとつであるスーフィズムは、「神>人間」というイスラームの基礎的な考え方は二元論的であり間違っていて、正しくは「神=人間」の一元論が正しい。神となるためには自我を捨てる。自我の殻を脱ぎ捨てることができたときはじめてそこに本当の自我(=神)が出現する。

 

 

こんなもんですかね。

結局はクラスメイトの言っていたとおり、「イスラームの根本的な考えを学ぼうと思う人」にとってはこれが一番なのかもしれません。

 

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