ノスタルジックな青春を、理想の仲間たちとともに――坂木司『夜の光』

      2016/08/31

夏が近くなってまいりました。

夏といえば夏休み、夏休みといえば青春、そして私は青春といえば青春小説を思い浮かべます。

てなわけで今回は、最近本屋で手に取った、ちょっとこれ以上ないほど質の良い青春小説を紹介しましょう。

 

まあ人間っていう存在はじつに根元から罪深いもんで、自分が歩める人生はたった一つの一回限りの一本道でしかありえないのに、「夕焼けをバックに、河川敷で女の子と戯れる。あんな青春が送りたかったなあ」とか、「今の知識と運動能力を持ったまま小学校一年生に戻れたらなあ」とか、いろいろと不目的な妄想をしてしまう動物なんです。

 

学生時代の思い出に乏しい人であればあるほど、そういう妄想をよくする傾向があり、したがって「あるようでない世界」を自在に作り出せる小説・マンガ等の創作の道に憧れたりするんです。リアルの生活に対してそんなに不平不満を抱かないような境遇の人だったら、そういう想像が膨らむことは少ないはずですから。

どうです妄想癖のあるひと。

否定できないでしょう。

 

5a51c9f1-s(イメージです)

 

「ノスタルジックな画像スレ」が根強い人気を誇るのは、「自分が過ごしたかった、でも過ごせなかった風景」をそこに容易に見出すことができるからでしょうね。

過去の自分、あるいは今の自分に対する否定の度合いが強い人ほど、そういう感傷に浸りやすいものなんです。

そういう人は、この『夜の光』を甘酸っぱい味のするドリンクとして楽しめるはずです。

 

 

夜の光というタイトル、そして表紙に描かれているのは天体望遠鏡。

カンのいい人であればこれまでの情報でもうおわかりでしょうが、この小説でメインとなっているのは『天文部』です。

 

maxresdefault(天文部?)

 

ちょこっと異色な感じがしますね。青春モノといえば、野球・サッカー・陸上といった外でやるスポーツか、あるいはほのぼのと活動するインドア派の同好会が題材として取り扱われることが多い(気がする)のですが、よりにもよって天文部ですよ天文部

とは言いましたけれども、この作者はまことに絶妙なチョイスをしてのけたと思います。

参考までに天文部という言葉から連想されるものを並べてみると、

夏、夜空、星占い、星空、学校の屋上、君は指さす夏の大三角、天体望遠鏡、星座を探す、観測会ついでにハンゴウスイサン…

青春の代名詞がズラリとガン首そろえてお出ましです。

一番から九番まで全員場外ホームラン打てるキューバ並みの超強力打線じゃないか!

 

さてそんな天文部を舞台にして、主な登場人物は四人。

詳しいこと言っちゃうとすぐネタバレになるので、簡単に紹介します。

 

クールな黒髪のお嬢様、ジョー。

能天気で明るくて、でも心配性な少年ゲージ。

戦闘力高そうな、ギャルのギィ。

でっかい背中で語る、心優しいブッチ。

 

夜の星空のもとで、こいつらが様々な事件に足を突っ込みながらも躍動します。

事件を一つずつ解決していくごとに、各キャラクターには味が出てきます。

この「成長成分」もこの物語の醍醐味の一つです。

 

決して「ありきたりのキャラクター」で終わらない四人の生きた登場人物。

文章も平易で読みやすいし、分量も丁度良い。

ミステリーチックな謎解きがところどころにちりばめられていて、グイグイと惹き込まれていきます。

この作者の、ほかの作品も読んでみようと思います。

なお、

イマドキ流行っているあの陳腐な「絆」とかいうものはこの小説には出てきません。

 

若者たちの葛藤と、それぞれの物語。

失われた青春を求めてやまない人々のために。

おすすめ。

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