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エグくておぞましい恐怖を存分に味わいたい人に贈るホラー小説――『天使の囀り』(貴志祐介)

『天使の囀り』(角川ホラー文庫、貴志祐介)の書評。表紙からおどろおどろしい生物ホラー小説。 寄生虫好き・捕食フェチ(そんな人も世の中にはいるんでしょう)にはたまらない作品。ネタバレ気味。   貴志祐介という作家 貴志祐介という作家は素晴らしい。 何がいいかっていうと、ひとつひとつの作品のレベルがエグいから。 今回の『天使の囀り』もそうだし、ホラー小説『黒い家』、サスペンスの『悪の教典』、近未来少年少女恐怖SF『新世界より』など、各ジャンルもれなく書いている。   で、(全ての作品は読んでいないが)どの作品も仕上がりは良く、大きな話題を呼んで、相当な売り上げ。 彼の作品を読んだときに毎回毎回共通して抱く感想は、『圧巻』。 どの作品に対しても最大限自分が持てるパワーを注ぎ込みつくしていくタイプの人なんだな、という印象だ。 余談ながら、どの本を読むときでもその本の著者のプロフィールを見て楽しむ人は多かろうと思う。 貴志祐介の略歴についてどう思うか。 京都大学経済学部卒 → 高学歴ですごいとおもう 卒業後は生命保険会社で働いていて → 京大の中でもエリートじゃん 取材の鬼 → コミュ力ありそう 圧倒的な知識量(特に生物関連) → なんでも知ってるから面白いものをバンバン書けるんだな(若干ひけらかすところもあるけど) もう少しで60歳 → 作家としてはかなり年季と脂が乗っている時期だな。そろそろ単なる偏屈屁理屈頑固ジジイになるか、それとも一層の凄みが出てくるのか?   ・・・略歴が示す通り、貴志祐介という作家は博覧強記で有名なんだけど、とくに「生物」の知識が本当に豊富で、本作でも遺憾なくその本領が発揮されています。   人間が怖がるものってなに? 『捕食・洗脳・消化』 そういえば進撃の巨人でも捕食シーンがある…   人間ってのは、どれほど自分を特別視しようとしても、あくまでも生物の一個体に過ぎないんだなと思う。 というのは、 「食べられて死ぬ」 「人間としての原型をとどめないように消化されて死ぬ」 「他者に気付かぬ間に洗脳されている」 というのは怖いからです。 ここらへんの「なにを怖がるか」ということを知っておくと、小説の中でホラー要素を簡単に出せます。   今回の『天使の囀り』の中でキーとなるのが、『寄生虫』。 この寄生虫がシッチャカメッチャカやるのが本作の見どころ。 どんなことをやらかすのか。 ・人間の脳みそに「物理的な刺激」を与えて、人間が感じる「恐怖」を「快感」に変えさせる(クモ恐怖症の青年がいるとしたら、クモ愛好家になる。文字通り食べちゃうくらい好きになる) ・他人への感染ルートを確保するために、性欲を異常亢進させる ・人間をただの栄養摂取マシンにして自分たちを養わせるために、異常なほど過食させる ・そのうち人間のDNAを勝手に操作(!)して、人間を「寄生虫が繁殖するための苗床」にしちゃう。手足を退化させて栄養分を吸い取り、頭部を寄生虫のためのねぐらに改造したり、身体を変形させて繁殖のための胞子を飛ばさせるようにする。寄生された人間は原型すら留めず、二目と見られぬ醜い姿に   人間って、やっぱり「人間を捕食する者」に対してトラウマになるんですよ。 B級映画の代名詞『ザ・グリード』 映画でいえば、 『スターシップ・トゥルーパーズ』で、敵方の親分である巨大バグが、兵士の脳味噌を吸い取って食べるシーン 『ザ・グリード』で、デッカイ怪物のなかでゆっくり消化途中だった死にかけの人間が出てくるシーン 『ブロブ 宇宙からの不明物体』で出てくる、溶けかけの人間多数 など・・自分自身の中でトラウマ気味になっているものが多数ございますが、いずれも「人が食べられる・消化される」シーン。こわいこわい。       怖い怖いと思っても、なんか見てしまう。 人間ってのは、そういう動物なんだろうと思います。 ・・・ちなみに「恐怖」と「快感」は、どちらも『偏桃体』が司っています。 ホラー小説を好き好んで読むような人間は、偏桃体に脳みそを乗っ取られているということなのかも。

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