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野球と勉強の両立が難しいのはなぜなのか?
「なぜ難しいのか」を知ることで解決策を探す
「文武両道」が話題になることの意味
日本だと、ある程度勉強ができる野球選手には「文武両道」というキャッチコピーが付きます。
昔だとPLの桑田真澄さん、最近だと東大の宮台投手や、大阪桐蔭の根尾選手が筆頭でしょうか。
選手に限らず、チーム単位でもそうです。
土佐高校や札幌南高校、彦根東高校などのいわゆる進学校が甲子園に出ても、やっぱり「文武両道」という報道がされます。
東大野球部が勝利を上げた時や、北大野球部が全国ベスト8に進出した時などもやっぱり「文武両道」が話題になりました。
文武両道がたびたび話題になる…ということは、裏を返せば、
野球界全体としてはそれだけ「勉強が苦手な人が多い」ということでもあります。
私自身、小中高大と野球部に所属していた人間なのでその辺りの事情はわかっているつもりです。
部活動別の学力テストなんかをやったら、野球部はおそらく最下位に近いはずです。
練習時間がやたら長いので、勉強する時間がない
大勝(2017)の調査では、中学生・高校生の野球部の週当たりの平均活動時間は6.1日。
ということは、「野球部の活動は週6日がデフォルトで、休みがまるでないところもある」ということでしょう。
一日あたりの活動時間を見ても、平日で2.4時間、休日で5.7時間。
以下の図にまとめてありますが、比較されているほかのどの部活動と比べても、野球部の練習時間・練習日数の多さが際立ちます。

(「なぜ、野球部の練習は長いのか?」より引用)
野球は非常に時間がかかるスポーツなのです。
ただ、「野球部の練習時間が長い&練習日数が多い」以外にも、野球部独特の事情があるものと思われます。
満腹感は思考の敵
単純に、お腹いっぱい食べた状態で、勉強が捗りますか?頭がフル回転しますか? ということです。
糖質制限や断食や小食生活でもしていない限り、昼ごはんの後って眠くなりますよね。
大学の講義なんかでも、昼休み後の三限の授業では「実るほど頭が下がる稲穂かな」という状態になっている人が多いです。
基本的に、人間は食べれば食べるほど消化器官に血流を回す必要があり、消化・吸収モードになっているときは頭があまり回らずうつらうつらとします。
おなかいっぱいな状態だと「幸せ感」はあるんですが、頭の回転は鈍くなります。
さらに、血糖値が激しく上下するということも関係してきます。
特に、「どんぶり飯を大量にかきこむような食生活」だと、
食事のたびに血糖値が急上昇→血糖値を下げるためにインスリンが出て血糖値が下がる→血糖値が下がると眠くなる……
というサイクルにはまりやすいといえます。
さて、よく知られているように、野球部は「身体作り」のために大量の食事を高回数詰め込む必要があります。
最近だと、ダルビッシュ有投手の食生活や、高校生の時の大谷翔平選手の食事などが印象的ですね。
・ダルビッシュ有投手…一日6-7食、プロテインも5-6杯(おそらく増量期のこと)
・大谷翔平投手…「高校時代はどんぶり飯で1日10杯を食べていた」とのこと
そういえば、阪神の金本監督も、現役を引退する段になって「ああ、もうあのしんどい食事をしなくてもいいのか」という解放感があった…と語っておられました。
こういった食事は、日本全国至るところの野球部・野球チームで徹底されています。
……ということは、日本全国津々浦々の野球部員は
「一日中、<一般人の昼食後くらいの頭の回転>で過ごしている」
のだ…と表現することも、大げさではないかもしれません。
そう考えると、野球界で文武両道タイプの選手が非常に少ないのも頷けます。
いくら地頭が良いとしても、「ろくに頭が回らない状態を一日中、一年中続ける」のなら…
それは、勉強で置いてけぼりにされるのも無理はないでしょう。
その他の要因 とにかく色々な意味で疲れる日本の野球部活動
・日光
…野球部はきつい日差しの中で活動します。
日光を浴びると人間は疲れます(紫外線を浴びることによる活性酸素の発生→活性酸素による酸化ストレスで、ミトコンドリアの電子伝達系が阻害されてATP産生能が低下。ATPは生物にとっての「エネルギー通貨」です)。
経験したことがある人はわかると思いますが、夏の一日練習の日の夜なんて、とても勉強できるだけの余力は残っていません。野球部は雨の日・冬期間を除いて屋外で活動しますので、とんでもない量の日光を浴びることになります。家庭によっては、一日練習→夜は学習塾で勉強、という流れになっていることもあると思いますが、正直、それをするくらいなら早起きして朝に勉強を済ませておくほうが利口だと思います。夜はもう、精神的にも肉体的にも消耗し切っている状態なのです。
つまり「一日練習をした日の野球部員は、勉強できるだけの体力が残らない」となります。
・朝練
…学校がある平日の朝に練習を行うことも多いです。
「適度なウォーキングやラジオ体操」くらいであれば、朝に軽い運動をすることによる覚醒効果などもあってむしろ勉強には好影響のはずですが、野球部の活動というのは基本的にガッツリ身体を動かします。要は、野球部の朝練は疲れます。朝練があった日の野球部を観察してもらえるとわかりますが、特に午前中の授業ではものすごい睡魔に襲われます。おまけに、野球部の場合は朝練だけではなく午後練もやることが多いので、疲労蓄積にさらなる拍車がかかります。
ということは、「朝練がある日の野球部員は、(特に午前中の)勉強の能率が極端に落ちる」のです。
実際、長野県では県単位で朝練を禁止しているという例もあります。
・指導者や先輩への気遣いといった精神的疲労の蓄積
…学校の中で先輩部員に会うたびに「チワッ!」と挨拶。グラウンドでも挨拶。指導者にも挨拶。挨拶だけで済めばまだいい方で、たいていの場合は「野球部員が指導者にものすごく気を使う必要がある」「後輩の部員が先輩部員にものすごく気を使う必要がある」ケースが多いです。
考えるだけで疲れてきます。この「気遣い」を一日中やっているのですから、精神的に相当消耗するはずです。ただでさえ練習自体もきついのに…
・合理性の軽視
…野球界全体の風土として、練習に合理性を求める態度が非常に弱いです。
桑田真澄さんが指摘しておられているように「走り込み・投げ込み・振り込み」の習慣は未だ幅を利かせています。
スポーツ界全体として「合理性重視」へとシフトしているなかで、野球だけがやけに乗り遅れているように見えます。
基本的に、勉強というのは「論理的な思考」が求められるものばかりです。
国語にしろ数学にしろ社会にしろ理科にしろ……どれも「論理的思考力」なしでは成り立たないものばかりです。
「論理的に考える」ということは、「合理的に考える」こととほとんど同値です。
どうも、「野球界に長くいるだけで、合理的思考が苦手になる」というきらいがあるような気がします。
合理性を重視しない環境のなかで育っていった人間は、合理的に物事を捉えるクセが付かないため、論理的に考える能力が非常に弱くなってしまうのでしょう。
今回のまとめ
今回の記事で紹介してきたように、野球部が致命的なまでに勉強に弱いのはこのあたりが理由だと私は考えています。
・とにかく練習時間が長い・練習日数が多い → 勉強する時間の絶対量が足りない
・日光で疲れる → 夜の勉強に身が入らない
・朝練で疲れる → 午前・日中の勉強に身が入らない
・先輩や指導者への気遣いで疲れる → ただでさえ練習で疲れるのに余計に疲れる
・合理的に考えるクセも付きづらい → 勉強は合理的・論理的に考える人ほど有利なので、野球部的文化に染まり切った人はどんどん勉強に苦手意識を持つようになる
これらのポイントを踏まえると、「じゃあ、文武両道を実践するにはどうすればいいのか?」もおのずと見えてくるはずです。
要は、このリストのぜんぶ逆をやればいいんです。
練習時間短く、練習日数最小限に、日光を浴びる時間を減らす、朝練はしない、余計な気遣いのいらない環境を作る(cf:日体大野球部の「体育会イノベーション」)、練習も試合も合理的に考え抜いてやる。
文武両道を本当に実践したいのであれば、まずはこのあたりから手を付けてみるべきでしょう。
では、またこんど!