「心技体」から『フィジカル・動作・マインド』へ――:「フィジカル」のためにできること その3

      2017/11/24

「心技体」から『フィジカル・動作・マインド』へ――:「フィジカル」のためにできること その3

フィジカル強化

1-E.「ランニング&ダッシュ」

ダルビッシュ有投手のつぶやきをきっかけとした「走り込み要る・要らない論争」の結果として、今は走らないチームが増えているようです。

「野球の競技特性からすると走り込みはいらない。野球は有酸素運動じゃない」

というのがその主な根拠とされています。

 

・・・が、私自身はむしろ「野球の競技特性からするとランメニューは必要。確かに野球は有酸素運動ではなく無酸素運動の繰り返しだが、野球が無酸素運動であるからといってランメニューをやらない理由にはならない」と考えています。

つまり「明確な目的を持った適度なランメニューは、野球選手に必要」という立場です。

 

まずは「ランニング(やりすぎることによる)のデメリット」について触れておきましょう。

ランニングをやりすぎるデメリット(目安としては一時間以上か?)

・筋肉の遅筋化が起こる

・コルチゾールが出て筋肉が分解される

・カロリーが消費されすぎて、身体が大きくなる分のカロリーが足りなくなる

・膝や足首などに負担がかかる

まあ、このあたりでしょう。

 

しかし、ランニングとダッシュを行うことによるメリットも見逃せません。

メリットその1

1.野球の動作(特に投球・打撃・送球)というのは、「人間の身体という物体の重心移動が先行することによって生まれたエネルギーを、末端の運動エネルギーに変換する」要素が強い。

→ランメニューをしっかりやれば、重心移動の巧緻性を向上させることができると思われます。なぜなら、ランニング・ダッシュでうまく走ろうとすれば「重心移動を先行させて、その先行した重心を足でうまく拾っていくように走る」ことが必要だからと考えられるからです。

メリットその2

2.野球の動作(特に守備・走塁・打撃・投球)は、「重心移動を巧みにコントロールすることができればできるほど有利」なものである。

→単純な話、野球というのは「下半身を正確に力強く素早く動かすこと能力が高いほど有利」です。というのも、よく言われるように「すべての動作の基本は下半身」であり、ランメニュー(+SAQ)によって、その下半身を素早く動かす能力が向上すると思われるからです。

容易にイメージできると思いますが、「足の動きが鈍い」というのは野球のあらゆる動作に悪影響を与えます。守備では足が動かず、打撃では反応が鈍く、投球では下半身を力強く動かすことができなくなります。

 

さらに、こんなメリットもあります。

メリットその3

ランニング・ダッシュというのはメンタル・マインド面への作用がけっこう大きい。

→20-45分程度のランニングを行うと・・・

1.気分が落ち着く

2.頭が良くなる

3.ランニング直後には学習がスムーズに行える状態になるので技術練習の効率がアップする

(2.3.はBDNFとかそういう話です。詳しくは「脳を鍛えるには運動しかない!」参照)

 

・・・というわけで、ランメニューというのはけっこうコスパの良いトレーニングであるということがわかるはずです。昭和の投手たちが「走れ走れ」と言っていたのも、経験からこういう↑ことがわかっていたからなのでしょう。もちろん、数時間に及ぶような走り込みはナンセンスですが。

 

なお、日本人(アジア人)は先天的な骨格的特徴として「骨盤後傾」傾向を有します。骨盤後傾とは、骨盤が滑り落ちるような形になっていることを指します。骨盤後傾だと、股関節伸展の力が比較的使いにくく、体重移動によって生まれるエネルギーをメインとして野球の動作を行う必要があります。

逆に、骨盤前傾傾向が著しい黒人・欧米人であれば股関節伸展の力を容易に使うことができます&逆に体重移動の力は比較的使いにくいと考えられます。よく言われる「日本人打者はゆったり足を上げるが、メジャーの強打者は足をそれほど上げずに打つ」という差異が生まれる理由はここにあります。

 

さらに、「日本のマウンドは柔らかく、MLBのマウンドは硬い」と言われるのも同様の理由だと思われます。

というのも、日本人の投手にとっては「柔らかいマウンドのほうが体重移動をスムーズに行いやすく」、

逆にメジャーリーガーにとっては「硬いマウンドのほうが、股関節伸展の力をダイレクトに使いやすい」からです。

 

実際どんくらい走ればいいの?

細かい話はこのくらいにして、じゃあ

走りすぎることによるデメリットを極力回避しつつ、走ることによるメリットをできるだけ享受したい

という場合、どのくらい走ればいいのでしょうか。

 

まず、「野手・投手ともに、最低でも毎日これくらいは走っておくべきだ」と私が考えているランメニューの量を紹介します。

①30-50m走:各5-10本で、合計20本以内。
②ロングラン:20分程度
③HIIT:ロングランをする時間も惜しい場合は、この③だけでも事足りる。「10秒全力ダッシュ→30秒ジョギング」を繰り返す。4-8セット程度。もちろん②と③を両方やっても可。

これをできる限り毎日。オフの日以外は毎日です。

 

どうしてこれくらいの量になったかというと、

①ロングラン→有酸素運動による害が出ない程度で、かつ有酸素運動・ランニングによるメリットが保証されるくらいの量

②ダッシュ系→クレアチンリン酸がいったん枯渇するくらいの量

③HIIT→ロングランができないとき用orけっこう集中的に走っておきたいとき用。「ダッシュで、下半身を素早くコントロールする練習→ジョギングで、重心をうまく拾いながら走る練習」を繰り返す。「無酸素を繰り返す」という点で野球に近い。かなりキツいので4-8セット程度で限度か

という基準があるからです。

 

さらに、なぜ毎日走るべきなのかというと、「走り慣れ」という概念のためです。

たとえば、一週間走らなかったとしたら、「筋力・筋肉はそれほど落ちていないはずなのに」きっちり足は遅くなっています。筋肉の量は減っていないが、神経系がなまっているということです。これが私の言うところの「走り慣れていない」ということです。

走り慣れていないということは、守備のフットワークも鈍くなるし、走塁のスピードも激遅になります。野球選手にとっては致命的。下半身が思い通りに動かせないということで、打撃にも投球にも影響します。

 

同様に、「キャッチボール・バットスイング」についても、基本的に毎日行うべきだと私は考えています。走り慣れと同様に、ボールを投げる感覚・バットを振る感覚というのは一日置いただけでかなり鈍ります。

もちろん、これらは毎日行うわけですから「過度に」やるわけにはいきません。ほどほどの量を毎日継続すべきです。技術的な向上という意味でも。

 

つまり、「ラン&ダッシュ、キャッチボール、バットスイング」の三種類は毎日継続。

この3つを最低限こなしておけば、いわゆる「身体のキレ」は維持できます。

 

アップとランメニューを組み合わせる

意外と見過ごせない事実が、

・「毎日やるアップメニューが効果的なものであれば、アップをするだけでどんどん動けるようになっていく」

ということです。

 

そこで、「アップにもなり、トレーニングにもなり、やっていればどんどん身体のキレが良くなる&身体操作能力が高まるようなメニュー」を考案してみました。

まずは
・5分 ジョギング(体温上昇・筋温上昇)

・初動負荷ストレッチ25-30分(特にウィングストレッチ重視)

・5分 体操(身体を思い通りに操るための体操。手の先と足の先を互い違いに合わせたり、など十種類程度)

を行ってから、

・ダッシュ系メニュー

1.30m5本。矢印の右側に書いてあるものを8割くらいの力でやりながら帰ってくる。

→野手:1.盗塁→バウンディング 2.盗塁→バックダッシュ 3.盗塁→バックダッシュ 4.打ってから一塁まで→サイドステップ 5.打ってから一塁まで→サイドステップ
→投手:1.反射→バウンディング 2.反射→バックダッシュ 3.反射→バックダッシュ 4.スタンディングのクラウチング→サイドステップ 5.スタンディング→サイドステップ

 

2.小休止

・5m(or3.5m)のサークルダッシュを時計回り3逆3

・ジグザグラン2往復

・・・小休止を兼ねて、ややSAQ的な遊びの要素が多い種目を。サークルダッシュはベーランに近く、ジグザグランは内野のフットワークやランナーのフットワークなどに通じる

 

3.50m5本
→野手:1.プライオ大ジャンプ5回してから走り出す 2.ももあげ20後 3.10回反転してから 4.20回素早く足踏み 5.フリースタイル
→投手:1.プライオ 2.ももあげ20 3.10回反転 4.20回足踏み 5.フリースタイル)

 

4.トレーニングとして、アップ以外の時間に(フリーバッティングの空き時間など)

→HIITダッシュ。10秒全力ダッシュ→20秒ジョギング を、4-8セット行う。

ダッシュ系のメニューは、できるだけ実際の動きにつながるようなメニューをチョイスしてみました。

こういうメニューを年間通して行っていけば、一年間でチーム全体のパフォーマンスは相当上がるはずです。

 

1-F.「自分の肉体を徹底的に解析する」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言いますが、

1.敵を調べるのは誰でもやる。では、自分のことを調べたことはありますか?

2.自分のことを調べるとしたら、具体的にどうやって知りますか?

どうでしょう?

漠然と「へー、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』なんだなー。敵を知って、自分をよく知ることも大事なのかー」くらいに思っていたのではありませんか?

 

「フィジカル強化をしたい!」と思うなら、

「現在の己の肉体を徹底的に解析する」ことがマストです。

スタート地点がわかれば、ゴール地点までのたどり着き方もわかります。

 

今秋に15年ぶりの勝ち点を上げた頭脳集団の東大野球部ですら、「己も知るべきだ」ということに気付いたのはつい最近のことだとか。「敵チームを徹底的に分析する」のは今までもやっていましたが、「じゃあ自分たちのことはどれくらい知っているの?」ということに気付いてからは、徹底的に自分たちを分析するようになったそうです。一塁到達タイムとか、外野からのバックホームのタイムとか・・・。

 

参考までに、元十種競技の日本チャンピオンで、タレントとしても活躍中の武井壮さんが小さいころからやっていたという習慣を紹介します。

・室温、気温、湿度、天候、着ているものの素材、体温(複数個所)、練習メニュー、食べたものなど・・・身の回りにあるありとあらゆる「記録できるもの」を記録する。

・これを続けていると、「自分が調子良い理由」「自分が調子悪い理由」がはっきりわかり、最終的には年がら年中ベストコンディションを維持できるようになる。

「年がら年中ベストコンディション」ということは、ふつうの選手の「調子出ねー」がない、ということです。これだけでも年間数十日分の差が付くはずです。積もり積もれば相当の実力差になります。

また、「あらゆるものを記録する」ということは、それらのものをノートに書き留めるたびに

「ちょっと待てよ、これってこうしたらいいんじゃないか?」とひらめくチャンスがめぐってくるということでもあります。ここでもまた、徐々に差が付いていきます。

 

野球界にはけっこう「野球ノート」をつける習慣のある選手が多いと思いますが・・・

さて、選手たちはいったいどの程度の深さまで書き留めているのでしょうか?

 

「自分の肉体を徹底的に分析して書き留める」ことには、ほかにもこんなメリットがあります。

・ベストコンディショニングの維持

・自分の頭の中から紙の上に移して読むことで冷静に客観的に思考を分析できる。思考停止を防ぐことができる

・考える時間が長くなる。じっくり考え抜くことができる

・練習記録・食事記録にもなる。後で見返して自分の変化を確認できる

ちなみに、私は「Evernote」というノートサービスを利用しています。

紙のノートは、昔はよく書いていましたが、Evernoteに移行してからはそれほど紙媒体には書いていません。

 

また、「自分の肉体をどういう風に分析したらいいのかわからない」という人向けに、

「野球選手が最低限知っておくべき自分の調査対象スペック一覧」を作ってみましたので、自由にお使いください。

→「野球選手のための身体測定表」(Googleドキュメント)

↑これにプラスして、

・室温、気温、湿度、天候、着ているものの素材、体温(複数個所)、練習メニュー、おなかの調子、食べたもの、ダッシュの本数、きょうの出来事、素振りの本数、フリーバッティングの本数、他人を観察していて気付いたこと、自分なりに思いついたこと、アイディア、投げた球数など・・・

といった項目をどんどんノートやメモに記録していくようになれば、

もっともっと素早い速度で上達していくことができるはずです。

 

「自分の肉体を徹底的に分析する」、ぜひやってみてください。

 

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